兄貴の威厳
ネット小説大賞の一次選考を通過しておりました。嬉しいです。
洞窟の奥から姿を現したのは、ギギとザブとベル。
こうして眺めると普通のゴブリン達と体格が全く違う事がわかる。ゴブリンの二倍くらいの大きさはあり、四肢も長く筋肉がついているのがわかる。通常のゴブリンよりも少し人間に近い。
やはりギギ達はゴブリンよりも高位のハイゴブリンという奴か。以前それが気になりゴブリンの生態について少し調べた。ゴブリンは進化するにつれて、体が人間らしくなるとのこと。職員の言っていた特徴とも一致している。キングともなれば禍々しい魔力を纏うようだが、それは感じられない。
ゴブリンキングは出現していなさそうだ。
手には丸太ではなく、棘の付いた棍棒が握られているというのが変わった所だろう。
『兄貴! 聞いてくれよ! 俺達ゴブリンキングになったんだぜ!』
一匹のゴブリンが叫ぶと、周りのゴブリン達も口々に『俺も! 俺も!』と叫び出す。
『…………えっ!? 嘘だろ!?』
ギギが信じられない事を聞いたように叫ぶ。
ゴブリン達よりも顔が人間に近いために、色々な表情や感情がわかる。
昔は何食わぬ顔でとんでもない事するので困っていたが、今となっては分かりやすくなったんもんだ。
『本当だって!』
『でも、お前達の見た目は変わってないぞ?』
ザブの指摘を受けて、ゴブリン達は自分の体を確かめる。
『多分、そのうち体が変化するって!』
『こう……体がボキボキってなって』
それ明らかにヤバい進化の仕方だよね。それが魔物の進化として普通のことなのだろうか。
そう言えばアイツらは少し見ない間に勝手に大きくなっていたよな。一体どういうふうに進化したのであろうか。
ゴブリンキングが現れた兆候は感じていないから、キングではないはず。だとすると何ゴブリンなのだろうか?
『おいおい、アイツらキングになったとか言ってるぞ』
『いや、いくら何でもいきなりキングはあり得ないだろ。俺にはアイツらが普通のゴブリンにしか見えねえけどよ』
『特に強い魔力も雰囲気も感じられないぞ?』
『何でキングになったかわかったんだ?』
ベルが最もな質問をすると、ゴブリンの一人が前に出て言う。
『聞いてくれよ兄貴! 俺達人間の言葉が理解できたんだぜ? こりゃあもうゴブリンキングになったとしか思えないぜ!』
『『『なるほど』』』
『それは納得できる理由だな』
『確かにそれならキングだ』
キングかどうか確かめるのに一番確実なのは人間との会話なのか!? いや、もっとこう体格とか強さとか色々あると思うのだが。
『それでその人間ってのは? どこで出会ったんだ?』
『『コイツです』』
ザブの問いかけに、ゴブリン達は俺を指さして答えた。
『っておい!? 俺達の住処に侵入者がいるのか!?』
『今か!? 今なのか!? どこにいる?』
今、この場に人間が入り込んでいると思っていなかった、ギギ達は急いでこちらへと駆け寄る。
「よお、お前ら」
『『『何だジェドかよ……』』』
ギギ達は焦って損をしたとばかりに肩の力を抜いた。
何だとは何だ。相変わらず失礼なクソゴブリン達だ。
『えっ!? 兄貴達はこの人間達と知り合い? いや、まさかコイツもゴブリンだったり――』
「するか馬鹿!」
『そうだぞ違うぞ』
『こいつはゴブリンなんかじゃないぞ』
『ああ、そうだ。ゴブリンなんかじゃない』
俺が勘違いをしているゴブリンにすかさず否定の言葉を入れると、ギギ達もそうだとばかりに頷いた。
お前達。やっと理解してくれたのか! そうそう俺はちゃんとした人間だと言ってやってくれ。
『『『こいつはホブゴブリンだよ』』』
「上等だ! お前達を討伐してくれるわ!」
『『何だ……仲間かよ』』
ギギ達の言葉を聞いて落胆の声を出すゴブリン達。
違うわ! 誰がゴブリンだ。ちゃんと俺の肌をよく見ろ!
『じゃあ、俺達ゴブリンキングじゃないんだな』
『ぬか喜びさせやがって』
「いや、それはお前達が勝手に」
『ちっ……よく見たらゴブリン顔をしているじゃねえか』
「それは俺の顔が醜いって言いたいのか?」
『『表へ出ろ! 丸太の錆にしてやる!』』
× × ×
お馬鹿なゴブリン達のせいでひと悶着があったのだが、ギギ達の説得により俺が動物や魔物と話せる人間だという事をゴブリン達に理解してもらった。
俺が説明すると半信半疑な表情だったのだが、会話を重ねる事と、ギギ達の尽力のおかげですんなりと受け入れてもらえた。こういう所を見るとゴブリン達に信頼されており、リーダーになっている事が窺える。
住処の作り方や、四人グループ、魚の捕り方と色々な事を教えているのだ。人気があるのは当然か。あいつらのお陰で食料が増えたとも言っていたしな。
さてさて落ち着いたところで、状況を整理しなければいけない。
俺はギルドの依頼で調査にきたのだ。
ゴブリンが何処にいったのかという依頼は既に達成できている。
ゴブリン達は南の森の浅いエリアから、南東の奥の山へと縄張りを変えた。
これで依頼は達成であろう。
後はギルドが他の冒険者を使って確かめにくるとは思うが、こんな奥にゴブリンを倒すためだけに来る者は少なそうだが。
奥へといけばより魔物が凶悪になるのだが、そこはギギ達の指揮のお陰でゴブリン達は問題なく暮らせているようだ。
もちろんキングが出現したり、異常な数になると冒険者による討伐隊が組まれるが、今ではその心配もなさそうだな。
『で、ジェドは何しに来たんだ?』
「ゴブリンが南の森から全く姿を見せなくなったから調査にきたんだよ」
『まさか討伐か!?』
ベルの悲鳴の声により、周りのゴブリン達に不安が募る。
「いや、ゴブリンキングが出現したり、街を襲ったりしなければ大丈夫だとは思うけれど」
俺がそう言うと、ゴブリン達は明らかにホッとした表情をする。
『よかったー。俺ゴブリンキングじゃなくて』
『冒険者に襲われないなら俺一生普通のゴブリンでいいや』
さっきまであんなに嬉しそうにキングと叫んでいたというのに。
『あー、街なら襲わねえから安心しろよ』
『何で森にたくさん食料があるのに危険な街に行かなきゃならねえんだか』
『この森は食べ物が美味しくて豊富だからな』
ギギ達ならそう言うと思っていたが、それを聞けて一安心だ。
本気でギギ達の討伐なんてやりたくないしね。
『でも、兄貴達はやばいんじゃあ?』
『『『はっ?』』』
この予想外な台詞にギギ達もそろって間抜けな声を出す。
『だって兄貴達ゴブリンキングだろ? 討伐されちまうよ』
『ああ、兄貴達がハイゴブリンな訳がねえ。きっとキングかそれ以上だ。冒険者に狙われちまう』
おいおいお前達。ちゃんと自分がゴブリンキングじゃないって言っておけよ。
お前達ハイゴブリンだろ?
俺が顔を向けると、ギギ達はドキッとしながら、
『お、おうよ、安心しな! 俺達はゴブリンロードだからよ』
『そうそう。だから討伐なんてされねえよ!』
『なあ、ジェド?』
見栄を張りやがった。
しかも最後は俺頼みだし。
洞窟中にいるゴブリン達の視線が俺へと集まる。
俺は溜息をついてからそれに答えた。
「うん、多分大丈夫だよ」
だってコイツらハイゴブリンだし。それならギルドでもそれほど問題視されないだろうから。
俺の声を聞いた瞬間に洞窟内でゴブリン達の歓声が上がった。
ほのぼのしたお話を次に入れてからは新しい章というか、お話しに入りたいと思います。
迷いの森もしくは妖精の森編といったところでしょうか。
動物達の会話はとても難しいので、会話のキレが悪いところがありますが、脳みそを捻ってより面白く、想像できるように努力したいと思います。




