ゴブリンの住処
ゴブリン達のあとを付けていくと、レッドゴングが差した山へとたどり着いた。
そしてそのままゴブリン達は穴がある場所へと入っていくのかと思いきや、枝葉を丁寧にどかして小さな穴らしき場所へと入っていった。
どうやら大きな穴は囮らしく、本命の住処は枝葉でカモフラージュされた所らしい。
他にもゴブリン達はいないかと周りを見ると、所々小さな穴を出入りするゴブリン達が目撃された。
どうやら中は広く掘られており、至る所へと繋がっているらしい。
そう言えばアイツらは過去にオークに住処を奪われて追い出されてしまったからな。
一応は反省して、出入り口を複数用意したらしいな。
しかし、どうやってそこまで掘ったのやら。元から出入り口が複数ある地形の住処だったのだろうか。
本来なら、ゴブリン達は奥の山に住んでいましたよ、軽く報告する為にここで帰るものだが、アイツが何をしているのか気になるために確かめる事にする。
いや、本当に街を襲うとか考えていたら怖いし。
それは無いと思うが。
先程のゴブリン達が入っていった穴を覗くと、少し狭いが俺でも入れそうだ。
誰も前からやって来ないよな?
こんな所で出会ったらまともに身動きができないので困る。
まあ。そうなったら思いっきり魔法をぶっ放すしかないのだが。
俺は頭の中で魔法があるので大丈夫と、自分を叱咤しながら狭い通路を潜り抜ける。
そして、出口が見えた所で。
『……あっ!……』
「……あっ!……」
今、まさにこの通路を通ろうとしていたゴブリンと出会った。
俺は四つん這いの状態で、ゴブリンは丸太を手にして立ち尽くしている。
「ばうっ!」
『うわわわわああああああああああっ! 人間だああああああああ!』
俺が犬のように吠えると、ゴブリンは大声を上げて走り去っていった。
うん、つい驚かしたくなってしまった。
とりあえず狭い通路を潜り抜けると、中は広い洞窟となっていた。
意外と天井も高く、道幅も広い。
横を見ればそちらにも通路がある。奥は果てしなく長い。
どうやら迷路のように通路が入り組んでいるようだ。
ゴブリン専用サイズの通路もあり、いざという時には逃げる事もできるし奇襲をかける事もできる。
ここで戦闘になった凄く厄介になるなあ。
洞窟の中を分析しながら歩いていると、先程のゴブリンがぞろぞろと仲間を連れて戻ってきた。
『おい! 本当に人間がいたのか?』
『本当だって! 目の前で吠えたんだ!』
『吠えるって犬かよ……コボルドと間違えたんじゃねえか?』
『いや……多分人間に違いない』
おい、そこ多分はいらないぞ。ちゃんとした人間だっつうの。
『うお! まじで人間だ!』
『本当だ!』
『どこから入ってきたんだ』
俺を人間と確認するなりゴブリン達は丸太をさっと構えて、入口近くにいる俺を包囲する。
ゴブリンの癖にいきなり突っ込まずに包囲するとは。やはり、アイツらの入れ知恵なのだろうか。普通のゴブリンは正面から馬鹿みたいに突っ込むはずなのに。
『おい、ここの通路って確かベベ達が使っていた所だろ?』
『そういや、そうだな。あいつらさっき川から魚を捕ってきたところだしな』
『つけられてたんじゃねえか?』
『全く、あれだけ尾行には注意しとけってギギさんに言われていたのに』
『まあ、ベベだから仕方がないだろ』
『それよりどうする人間だぞ?』
ゴブリン達は丸太を俺に迎えて構えるだけで、一向に攻撃をしてこない。
睨みあったまま状態で空気が緊張感に張りつめられる。
『大丈夫だっつうの。ギギさん達が言っていた『じわじわと嬲り殺し作戦』で行くぞ』
『でもあれって範囲魔法とかに弱いんじゃ……誰が突撃するんだよ』
『お前……逝けよ』
『おい待て! 今言い方が明らかにおかしくなかったか!? お前が逝けよ! そうしたら俺達が全員で跳びかかるから』
『それってあれか? 俺が殺される間にお前らが楽して攻めるんだろ? 嫌だって。ここはベベに落とし前つけさせろって』
その後もゴブリン達の醜い言い争いは続く。
一応は好戦的な奴等ではないようなので、俺は咳払いをして話しかけてみる。
『うおっ!? 何か動いたぞ!』
『ブレスか!?』
俺が咳払いをしただけなのに、過剰に反応して後退るゴブリン達。
誰がブレスとか吐くか。ドラゴンじゃあるまいし。
「待て待て。ブレスなんか吐かない。話合おうじゃないか」
俺は両手を上げて無害な事を証明しようと、笑顔で語りかける。
それを聞くとゴブリン達はきょとんとした顔をすると、お互いの顔を見合った。
『おい、あの人間話し合おうとか言ってるぞ』
『嘘に決まっているだろ。見ろよ、あのいやらしい顔。相当な悪人だぜ!』
よし、今の言葉を言ったゴブリン顔は覚えたぞ。
皆似ているから忘れそうだが、覚えた。鼻にピアスを付けたお前だな。後で引っぱたいてやる。
『……人間と会話なんてできる訳がないだろ』
誰かが吐き捨てるように言った。
「できるよ? 俺なら」
俺はそれに対してはっきりと告げる。
『はあ?』
『『ん?』』
俺からすれば普通にゴブリン達と会話しているのだが、ゴブリン達からすれば絶対に意思の疎通ができない相手と通わせる事ができたのだ。驚くのも無理はない。
人間で例えると、赤ちゃんのおむつを替える為に声をかけたら、自分でできると言い返されたようなものだろうか。
それ故にゴブリン達は面を食らった表情を浮かべている。
『……そう言えば俺達人間の声が理解できているぞ』
誰かが呆然と呟いた言葉に、ゴブリン全員が固まる。
『……た、確かに。さっきから相手の言葉がわかるぞ』
『これってもしかして……』
『ああ、そうに違いない……』
『――俺達……』
『『『ゴブリンキングになったんだ!』』』
「んな訳あるか!」
『……兄貴達の言っていた通りだよ』
『ああ、俺達に付いてこればハイゴブリンは確実。ゴブリンキングにだっていつかなれるって……』
俺が大声で否定してやるも、ゴブリン達は歓喜に酔いしれており声は届かない。
中には泣いている者すらいる。
このパターン、アイツらと同じだよ。
『嫁に自慢できるぞ。俺……ゴブリンキングになったんだって』
『ああ、そうだな俺の息子も喜ぶ』
なっていません。むしろ、ぬか喜びをさせて怒られるだけです。
『俺達がキングなら、兄貴達は何だろうな? まさか超えちゃったとか?』
『馬鹿言うな。俺達が兄貴達と同格な訳がないだろ』
『じゃあ何だろ?』
『ゴブリンロードとか? いや、もう魔王とか呼ばれるんじゃないか?』
『そんなの伝説でしか聞いた事がねえ! さすが兄貴達だ!』
そんなの俺も聞いた事がありません。というか、本当にそんな奴等いるのか?
とにかく、形はどうであれ意思が疎通できるのが理解できたらしいので、改めて言う。
「勘違いだ、勘違い! とりあえずベルとザブとギギを呼んでくれ!」
『『ああ? 何気安く兄貴達の名前を呼んでるんだよ?』』
ジロリとこちらを鋭く睨みつけるゴブリン達。一斉に丸太を構えだして、今にも襲い掛からんとするようだ。
ああもう! 自分達がゴブリンキングと思い込んで気が強くなっているのか、それだけ心酔しているのかわからないけれど、面倒くさいなもう。
俺が頭を抱えそうになる中、奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『おいおい、そんな所で騒いでどうしたんだ?』
『何かあったのかよ?』
『スンスン……嗅ぎ覚えのある匂いだ』
明らかに普通のゴブリン達とは姿が違うゴブリン。
そう、それはギギとザブとベルだった。




