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穏やかな森

 

 暖かな昼下がりの森の中。


 俺は今日も採集クエストをこなすために、この森を探索している。


 近頃は暖かくなってきたお陰で、自生する植物や木の実の種類が変わってきた気がする。


 それは微妙な変化だったのだが、戦闘する事がほぼ無い俺は毎日森を歩いているので何となくわかる。


 俺はふと樹木の下に生えている、ブルーベリーのような大きさの実を眺める。


 オレンジ色をしており、一見すればただの小さいミカンのようだ。


 この間までこんな所に木の実なんて無かった気がするのだけれど。


 じっくりとあらゆる角度から観察して、一粒の木の実をポーチにしまう。


 後で動物達に何の木の実なのか聞いてみよう。



 炭鉱クエストに行ってから、一カ月がたった。


 あれから俺はスケルトンの家族の元を全て回った。


 中には既にこの街からいなくなっていたりする家族もいた。極僅かだが再婚している人もいた。こういう場合には様子を窺うだけで何もしなくていいと言われていたので、それに従った。


 幸せそうに慎ましく暮らしている者。稼ぎ手である夫を失い明らかに生活が困窮している者と様々であった。


 夫に頼り切っていた家庭はどこも苦しくなり、子供や母親が働きに出て暮らしている家がほとんどであった。


 少年とも言える年齢が働くのは、この世界では当たり前。


 なので、どこの家庭も何とかやれているようだった。


 家族がどのような状態になったとは言え、皆家族が無事でいて嬉しかったのか俺が浄化するまでもなく、満足して逝った。


 彼らは今頃メリアリナ様の元へと、たどり着いているのだろうか。


 そんな事を考えながら歩いていると、不意に道の横手の茂みが揺れる音に気付いた。


 そこからのっそりと出てきたのは、灰色の体毛を持つ虎のような魔物。


 鋭く尖った上顎の牙がやたらと発達しているのが特徴的だ。


 サーベルタイガー。


 普通の冒険者ならば、よっぽどの自信が無い限り挑みはしない魔物。


 この魔物、何よりも困ったのが戦闘力ではなく執念深いのである。


 逃げる獲物をどこまでも追いかける性質を持っているらしい。

 それを確かめたくて、寝ているサーベルタイガーにちょっかいをかけて、追いかけられた冒険者達がそう言っていた。


 どうせなら石を投げて、誰が早く逃げ切れるかという馬鹿丸出しの遊びをやったそうだ。


 本当にうちの冒険者は馬鹿だ。


 それでも逃げきれているという実力は凄いと思う。無駄な力の使い道だが。


 その能力を生かして討伐数を増やす気はないのだろうか。


 サーベルタイガーは俺に気付いたのか、その巨体をビクリと震わせる。


 そして……。


『……何だよジェドかよ』


 俺の顔を見るなり、思いっきり溜息をついてきた。


 気落ちするようにふにゃりとヒゲが垂れ下がる。


「いきなり溜息とは失礼な」


『たまにやって来るクソ冒険者だと思ったぜ。今日はあのアフロと、金髪と、禿の冒険者はいないのか?』


「ダンとラッドとギルね。彼らはいないよ、今日は休息日だって」


 今あげた名前の冒険者三人が、エーテル一お馬鹿な冒険者だ。


 このサーベルタイガーに石ころを投げたのもそいつら。


 それからこのサーベルタイガーは執念深く、森を徘徊して待っているのだそうだ。


 おかげで他の冒険者が何回も出くわすという事件が起こっている。


 あの三人組はなんて迷惑な事をしてくれたのだろうか。


『なあなあジェド。ちょっくらアイツらここに誘き出してくれよ。そしたら俺がこの自慢の牙でざっくりやってやるからさあ』


 幸いこのサーベルタイガーは彼ら以外に興味が無いらしく、被害は出ていない。


 おかげでここら辺の森での狩りは控えるようになったらしいが。


「さすがにそれはできないよ。それは君達の戦いだから、君達で決着を付けてよ」


『まあそうだな。あいつらは俺一人の力で追いかけまわしてやるよ。気が向いたら、俺に声をかけろよ? ざっくりやってやるからな?』


 そんな物騒な事を俺の近くで囁いて、サーベルタイガーは去っていった。




 森から少し離れた丘陵地帯。


 俺はそこにやって来ていた。



 そこでは風通しがよく、気持ちのいい風が吹いていた。辺りは一面緑一色で風が足跡を残すかのように草が揺れる。見上げれば空には雲一つなく、無限に広がるかのような青い空。


 どこから飛んできたのであろうか、その空には綿毛のような物がふわりと舞っていた。


 ただしその大きさは拳くらいの大きさはあるだろう。


 流れる風に身を任せて、自由にその綿毛は俺の視界を横切っていく。


 俺はそこで思いっきり深呼吸をしてから、ゆっくりと倒れ込んだ。


 ベッドとは違う天然のクッションが心地よい。


 しばらくその気持ち良さに身を任せていると、草を掻き分けて進んでくる音が聞こえてきた。


『ちょ、最近本当に草が伸びすぎ。前が全く見えねえ』


 身を起こし、陽気な声がする方向へと視線を向ける。


 そこには草色とは違った、茶色の兎の耳がひょっこりと見えていた。


「おーい、こっちだよピョン吉」


 俺が呼びかけると、その耳はピクリと震えた後にこっちへと向いた。


『そっちかジェド!』


 俺のいる場所を音で判断したようで、兎はひょこひょこと草を掻き分けてやって来る。


『……ふー、最近は草が長くて困るぜ。進むのにも一苦労だ』


 やれやれと言いながら、耳と首をしきりに動かす兎。ちなみにこいつの名前はピョン吉。ちなみに俺がつけた名前では無い。自分からそう名乗っているのだ。仕方がない。


 警戒心が強いピョン吉はなおも音で周囲の音を聞き分けて警戒している。


 これは兎の特性なのだそうで、いつもこれをやらないと気が済まないらしい・


「はい、大根、セロリにニンジンだよ」


 俺は食べやすいように、カットしたそれらを渡す。


『おお! これだよこれこれ! 待っていたよ! 特にニンジンこれが美味いんだよな』


 ピョン吉はポリポリと早速ニンジンを齧りだす。


『はー、昨日さー、俺がいつも使う道を見たらさー、狐がうろついてやがったんだよね。アイツら本当に狡猾だよ。俺の通る道で待ち伏せするだなんて』


「それは大変だね。今日は大丈夫だったの?」


『安心しな。そういう時の為に穴を掘りまくって、色々なルートを用意しているからな』


 俺が問いかけると、ピョン吉は鼻をスンスンと鳴らして答える。


 これが人間だったら相当などや顔をしている事であろう。


「ピョン吉の方がずる賢いね」


『よせよ。警戒心が強いって言ってくれよ。なははは』


 陽気に笑うピョン吉。ニンジンを食べ終えて今はセロリに手を付け始めた。


「ところでこの木の実なんだか知らない?」


 俺はさっき見かけた、オレンジ色の木の実をポーチから取り出す。


 コロンと草の上に転がしたそれを、ピョン吉は臭いをかぐ。


『おお、こりゃあマートの実だな』


「マートの実?」


 聞いたことが無かったので、オウム返しに答える俺。


『春と夏の間のこの時期にだけ生えている木の実だな。食べるとほどよい甘さとすっぱさがあって美味しいぜ?』


 なるほど、この季節限定の木の実なのか。


 俺はさっそくマートの木の実を口に入れる。


 それは口の中でぷちっと弾けて、一気に果汁があふれ出した。


 何というか日本のミカンのような味がして、とても懐かしかった。


 冬にコタツに入りながらこれを食べたいものだが、この季節にしか自生していないのか。


「ああ、これは美味しいね。帰り道にでも見つけたら採って帰ることにするよ」


『あんまり採りすぎるなよ? 俺の分がなくなっちまう』


「そんな事言って、たくさん成っている場所知っているんだろ?」


『もちろん! 今から行くか?』


「頼むよ!」


『ちょっと待ってくれ。この大根を巣穴に放り込んでくる。護衛を頼むよ』


「任せろ!」


 そして俺とピョン吉は走り出した……!


『ちょっと! ちょっと待ってくれ! 大根を持ってくれよ! こんなに重いの運べないって!』





次回です。次回。

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