ガイの願いと救い
『俺、強くなった冒険者の息子にやられるのが今の夢なんだ……』
漆黒のマントを纏ったスケルトンの男、ガイが遠くを見るように呟いた。
俺はその話をしっかりと聞く。
『早くに父親を亡くした息子は以前から憧れていた冒険者となり、ある日炭鉱内で父親が肌身離さずに付けていた、漆黒のマントを装備したスケルトンに出会う! この炭鉱内は父が崩落事故で巻き込まれ死亡した場所、息子は一目でこのスケルトンが父であるガイだと理解する!』
座っているのが焦れったくなったのか、ガイは立ち上がりマントをはためかせながら語る。
それは高らかで人の心に訴えるように感情的であり、酒場へとふらりと風のようにやって来る吟遊詩人のようであった。
『かつての親がスケルトンだとわかり苦戦する息子。必死に父親へと声をかけるが魔の者へと成り果てたスケルトンがそれに答えることは無い。そうとわかっていても息子は大好きな父親に刃を向ける事が出来なかった! 父親の手によって、瞬く間に追い込まれる息子は父親の振るう刃に斬り裂かれるかと目をつぶった……!』
「…………」
『そして最後にもう一度父親の名を呼ぶ。すると白刃の刃は息子の目の前で止まる。恐る恐る目を開く息子。そこで息子は確かに声を聞いた! 「いや、俺以外無理だって」』
『うるさい! 今いい所なんだ黙っとけ!』
俺が思わず口を挟むと、憤慨した様子で地団駄を踏むガイ。
『そこで息子は確かに声を聞いた!』
ちゃんとそこからやり直すのね。
『しっかりしろ……お前は冒険者になったんだろ? スケルトンくらい倒せないでどうする? それはかつての父親の声だった。息子は父親のその言葉に目を覚まし、剣を握る手に力を込める! そして、そのスケルトンへ向けて斜め一線に振りぬかれる斬撃! それはスケルトンの胸部を切り裂いた』
……長いなあ。とか言ったらまた怒られるので黙っておく。
ガイは俺のそんな様子を気にもせずに、よりエキサイトして語り続ける。
『父親が儚く砕け散っていく様を、剣を振り抜いた姿勢のまま見つめる息子。その時、息子は耳元で声を聞いた「だから俺じゃないと聞こえ――」』
『ええい黙れ! めちゃくちゃいい所なのに我慢しろよ! 家族は死んでも魂で繋がっているんだ! 奇跡舐めんな!』
ガイは怒りのあまりにそこらへんに落ちていた、骨をこちらに投げつけてきた。
ちょ、これ背骨の一部じゃねえか。当たったら本当に危ないんだけれど。
『――よくやった。その声を耳にした息子は頬を伝う熱いものを感じながら呟く。親父……と』
長い間語ったお陰か満足げに頷くガイ。
自分に酔いしれているのかガイはしばらく動く事が無かった。
「それでその息子の名は?」
『アークだ』
「それってもしかして金髪で目元に黒子のある男?」
『知っているのか!?』
「確か、一週間前に王都を拠点にするって言ってエーテルから旅立ったよ」
そうそれはつい最近の事で。何気なくギルドで休憩していた時に聞いた話だ。彼は最近シルバーランクに上がるのでないかと噂されていた冒険者。
彼曰く「嫌な予感がする」との理由と、実力が上がってきたので違う場所で腕を磨きたいとの事。
流石にシルバーになると噂させる冒険者の危機感知能力は素晴らしい。
もし、彼がここに残っていたらシルバーランクへと昇格する条件として、炭鉱のクエストをギルドから頼まれていたかもしれない。
『なあああああああにいいいいいっ!? あいつ親である俺を放って、王都になんて行きおって! そこは俺を倒してから行く場所だろうが!?』
「そんな事言われても」
彼の人生にも自由と言うものがあると思う。
『ちょっと王都ってここからどれくらいかかるんだ!?』
切羽詰まった声でガイが俺に掴みかかって来る。
「王都なんてここから馬車で十日はかかるぞ? お前スケルトンだから朝日浴びた瞬間にくたばるじゃん、無理だよ」
俺が早まった考えを止めるように窘めると、ガイは唸り声を上げ始める。
そして閃いたとばかりに腕を打ち付けて、ガイは勢いよく立ち上がり馬鹿な事を言い出した。
『むむむむ……それなら俺はリッチになってやるからな! 成長した息子の前に立ちふさがるリッチ! 何とも心躍る展開! むしろそっちの方が強いし、月日が経っているから感動的かもしれない! ようし! 新しい目標を見つけたぞ! 片っ端から魔物狩りだ!』
「えっ!? ちょっと?」
俺の静止の声も聞かずに、ガイじゃ漆黒のマントを翻して坑道の奥へと消えていった。
「……ええ……」
× × ×
それから俺は何人? ものスケルトンに物や伝言を託された。
自分の存在を証明できる物を持っている者もいれば、生憎持ち合わせていない者もいたので、家族の名前などの情報をたくさん聞いて書き留めた。
託した時点で心残りが無くなったのか、何人かが灰へと還った。
その度に気持ちが切なくなったのだが、目だけは背けなかった。
それ以外の人の殆どは、俺がエーテルの街で家族の確認をして、報告を聞きたいと言う者達だ。中には会いに行きたいと言う人もいたのだが、それだけは無理なので我慢をしてもらった。
そして今、炭鉱内には残っているのは俺の報告待ちのスケルトンと、最初から逝くつもりがないスケルトン、ガイの様な少々特殊なタイプだけが残る事となった。
『この炭鉱内にいたスケルトンも随分数が減ったわ』とエマさんが物憂げな雰囲気で呟いていた。
そんな感じで時刻は夜となり、俺だけが眠る炭鉱内で眠った。
スケルトンはアンデッド種なので眠らないらしい。
お陰で夜中にガイに叩き起こされてしまった。
何でもリッチになる時の為に魔法覚えたいだの、剣を教えろだのと色々言っていたので基本の剣の振り方だけ教えて眠りについた。
その時俺は、疲れをしらないスケルトンが剣を極めたら強くなるんじゃ? なんて思いながら目を閉じた。
次の日の朝。
目を開けたら視界を埋め尽くすようにスケルトン達がいた。
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!」
俺が悲鳴を上げると、スケルトン達は楽しそうに肩を震わせる。
何て心臓に悪い起こし方なのだろうか。
朝から視界一杯に頭蓋骨とは、おかげで目がすっかりと覚めてしまった。
『そろそろ朝だよ。昼前まで寝ているのは体によくないからねえ』
エマさんが俺から布をはぎ取り、オカンのように起こしてくる。
まさか俺、スケルトンに朝を起こされるとは。
そんな事を思いながら素直に起きる。
『懐かしいわね。私も生きていた頃はジェドくらいの年の娘をこうして起こしていたわ。あの子、朝に凄く弱かったから……』
手馴れた手つきで布団代わりにしていた、布を畳んでいく。
そうエマさんは娘さんと一緒にここでお手伝いとして働いていたのだが、崩落が起きる前の日に喧嘩をしたのだそうで。
最後が喧嘩別れとなったのだが、そのお陰で娘は拗ねて仕事をサボった。
それで娘は崩落に巻き込まれずに助かったのだから、エマさんとしては良かったのかもしれないが、娘さんからしたらどんな思いで今を生きているのやら。
それだけが心配らしい。
気が強いので強い子なんだと思われがちなのだが、本当は心の弱い子なので心配なんだそうだ。
そんな話を聞いて思わず頬が緩んでしまって、恥ずかしいがりのビンタを喰らったのだが、スケルトンの手は骨なので予想以上に痛かった。
そしてレンジとその他大勢のスケルトンが願った事。
――それは浄化して欲しいとの事だった。
喉の渇きや、空腹、睡眠、痛み、全てにおいて感じることのない、彼らにとって今ある生活は苦痛なのだそうだ。
最初は生きたいという願い、自分の不幸な運命を呪ってスケルトンとなった。
しかし、忌まわしい炭鉱内からろくに出る事も出来ずに、無限にも思える一年を過ごして疲れたのだそうだ。
今はただただ救いが欲しい。
願わくば、女神メリアリナ様のもとへと召されたいとの事。
俺はその願いを引き受けて、今日の朝に集合してもらうように言った。
それで皆がああして好奇心からどっきりを仕掛けたのであろう。
それを必要としない背骨を背負った二体のスケルトン達も、仲間の別れを見送りにこうしてやって来た。
彼らは俺との会話により、新しい武器を造りたくなったのだと。
次はどんな武器を造る気なのか。
そして集まってもらった皆には、最初に出会った円形に広がる坑道内に立ってもらう。
「じゃあ、皆いい?」
『『『おう!』』』
俺の呼びかけに、今から浄化されるスケルトンとは思えないくらい元気な声で答えてくる。
その表情は骨でも皆いい笑顔をしていると確信させるほどであった。
俺は彼らに合わせて笑顔で見送る事に決めて、努めて明るい声を出した。
「ちょっと熱いかもだけれど我慢してね?」
『結構熱いぞ?』
背骨を背負ったスケルトンのジョージが、浄化を食らった経験者として冷やかすように言う。
『まじかよ!』
『できるだけ優しくな? 優しく』
『……俺ちゃんと逝けるかな?』
『出会った先も同じような風景だったら地獄だな』
『ありがとうなジェド!』
などと口々に言う中、最後にレンジが厳かに告げる。
『……じゃあ頼む。俺の光レンジ……確かに託したぞ……』
「うん、わかった。じゃあやるよ【リ・セクド・シュトラ】!」
俺の声に呼応して、スケルトン達の足場に大きな光が灯る。
その中級故に範囲と効果は絶大だ。
魔力と光が収束して瞬く間に輝きが強くなる。
そしてそれは一気に光の柱となり、スケルトン達の全身を呑み込んだ。
光の柱が無くなったころには、そこにはスケルトンの姿は一つもなく、骨の欠片すら残らなかった。
『……逝ったかしら』
『逝ったなあれは……皆いい笑顔だった』
待機組のスケルトン達が天井を見上げて呟く中。
その時、ガイの話のように俺の耳元で『じゃあな』とレンジ達の声が聞こえた。
何だか本当にガイの話の終わりのようになってしまったなあ、と思いながら俺は腕で顔を拭った。
「……ばいばい」
次で少し暗いところは抜けれるかな? 抜けれないかな?というところ。




