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その鶴嘴の名は……

 

 あれから俺とスケルトンは何とか和解してする事ができ、現在はマナ鉱石の採れる場所へと案内してもらっている。


『全く。酷い目にあったぜ』


「いや、最初から話し合おうって言ったし、人間とスケルトンが会話出来ている事に疑問を持たなかったの?」


 俺が鶴嘴を抱えたスケルトン、レンジの小言に言い返す。


 するとレンジはバツが悪そうに、頬の辺りをポリポリと掻きながら言う。


『いや、まあそうだけれど。つい自然に会話が出来ていたもんだからよ』



『今思えば、すげえよな。ジェドって実は人間の皮を被った魔物なんじゃねえか?』


 などと背骨を背負ったスケルトンが言って来る。


「失礼な! 俺は人間だよ!」


『魔物である俺達の前で、そんな事を言うのも失礼だろうが。まあ、俺から先に言ったんだけれどな』


 まあ、元人間だっただけに、落ち着いて話せばきちんとした奴等だ。




 立坑となる周りの道をぐるぐると回るようにして下りていく。


 ときおり、スケルトンのグループと出会いギョッとしたりもするが、レンジ達が諌めると襲いかかってくることもなく、むしろ好意的な態度で接してきてくれた。


 皆エーテルや近くの村出身の労働者であったために、今の街の状況などを聞きたいのだそうだ。


 皆本気で家族達の様子を気にしているようだった。


 後のスケルトンは好奇心からといたものが多いのだろう。


 スケルトンは日の光に弱い為に、この炭鉱内から出る事ができないとの事。


 心残りがあるが故にスケルトンとなったというのに、ここから出る事もできないとは何とも不憫な。


 それ故に暇を持て余しているスケルトンが多いのだそうだ。


 なのでスケルトンの皆はこの炭鉱内を隅々まで知り尽くしているそうだ。元炭鉱労働者として働いていたおかげもあり、危なげなく歩けるのだとか。


 現に何回か道を迂回して進んでいる。崩落のせいで体に影響があるであろうガスが流れている。想像以上に恐ろしい所だ。絶対案内人がいないと入るべき場所ではないと思った。


 やがて道は開いたが、通路が交差点のように四つに別れている。


『こっちだ』


 それをレンジは迷う素振りもみせずに右の通路へと進む。


「あのまま真っすぐに進むと?」


『行き止まりなうえに、天井が脆くなっている』


「うへえ……」


 この炭鉱内ではレンジの指示に絶対に従おうと思った。






 それからレンジ達について歩くことしばらく。


 湿った空気が漂う岩窟内で、のほかな燐光が煌く。


 それは暗闇を照らす優しげな光。


 俺はそこへと誘わるように奥へと歩いて行った。


 そこには四方に埋め込まれた大量の鉱石や結晶によるもの。


 それは各々色鮮やかな光を発しており、どこか哀しげだった。


 ちなみに無粋な光の球体も今は消している。こんなに美しい光源があるというのにそんな物はいらない。


 俺は食い入るようにしてそれらを見渡す。


「これがマナ鉱石?」


 俺の感嘆の交じった声にレンジが首を横に振る。


『いや、これは全部発光石だ』


「これが? 色が違うけれど?」


 街中で夜に使われていたりするのはよく見かけるが、殆どが白や黄色だった気がする。


 しかし、目の前の発光石の多くが空色のような光を灯し、翡翠色や紫水晶のような色を出すものもあるではないか。


『ああ、これは地中から掘り出されると徐々に色が変わるからな。大抵が白や黄色っぽい色に落ち着くものだ。この光景を見る事ができるのは炭鉱で働く奴くらいだぜ?』


 どこか誇らしげに笑うレンジ。


 案外俺にこの光景を見せたくて、ここを通ってくれたのかもしれない。


『いつ見ても綺麗だなあ』


『……本当だな』


 背骨を背負ったスケルトン二体がかがみこんで、ひときわ鮮やかに輝く発光石を眺める。


 そしてそれに手を触れるなり、思いっきり発光石をへし折った。


『レンジ! これなんかお前の鶴嘴に装着する発光石に丁度いいんじゃねえか?』


 差し出された発光石をレンジはどれどれという風に手に取る。


『……おお! こいつはいい発光石だな。俺の鶴嘴に付けてやろう』


 俺がいい雰囲気台無しな光景にあんぐりとしていると、レンジは何を勘違いし出したのか、鶴嘴を抱えて得意げにこんな事を言ってきた。


『……何だ? 俺の鶴嘴『光レンジ』が欲しいのかぁ? 駄目だぞ? 羨ましくなる気持ちは分かるがコイツは駄目だ。こいつとは何十年の付き合いなんだ。いくらお前でも手放せ――』


「そんな鶴嘴いらないよ。どうせならアイツらが持っている飛び出しギミック付きの背骨武器が欲しい」


 俺がばっさり言い捨てると、背骨組が興奮した様子で俺の手を取って来る。


『おお、ジェド! お前はこれの良さがわかるのか!』

『やっぱ仕掛けのある武器は男の浪漫だよな! あんな鶴嘴よりこっちの方がいいに決まっている』


「実用的だし何よりカッコいいしね! 俺の故郷にジャックナイフっていう折り畳み式の小形ナイフがあるんだけれど」


『『その話もっと詳しく!』』


『おい! 俺の『光レンジ』を馬鹿にするな!』


 俺達はレンジに追いかけられ、色鮮やかに発光石が煌く岩窟の中を走って潜り抜けた。






 俺は自分で持ってきた小型の鶴嘴を岩肌へと突き立てる。


 ギルドから買い取れる採掘専用の鶴嘴。普通にやっていては時間がかかるので魔力を纏わせて効率を上げている。


 この鶴嘴にもマナ鉱石が含まれていれば、もっと魔力の伝導率も良いのだが、採掘なんて滅多にやるものでもないしな。


 ちなみに父さんから貰った俺の剣にはマナ鉱石が混ぜ込まれており、すごく魔力の伝導が滑らかだ。


 いい剣だと思って手入れをしていたが、予想以上に素材のいい剣なのかもしれない。


 奥では俺の予備の小型鶴嘴を使ってスケルトン達が採掘を手伝ってくれている。この体になって力は非力になったものの、疲れることがなくなったのが便利だと言っていた。


 何というか、元炭鉱労働者だったが故に振りかぶって振り下ろすという一連の動作が板についている。恐らくは生きている間に何万回とこなしてきたのであろう。スケルトンとなっても染みついているその動作には尊敬すら覚える。


 レンジはと言えば俺の隣で『光レンジ』を突き立てて掘り進めている。


 どうして一発でそんなに岩が崩れるのだろうか? もしかしたら『光レンジ』は凄い鶴嘴なのかもしれない。案外マナ鉱石とかが混ぜられたりして。


 そうして掘り進めていくと、紫色に輝く鉱石がゴロゴロと転がり落ちた。


 俺はそれを手に取り、レンジへと見せる。


「これがマナ鉱石?」


『まあ、さっきの光景を見たあとじゃそうなるわな……。少し地味だがそれがマナ鉱石だ』


 手に取ったマナ鉱石は情報通り、紫色をしていた。


 てっきり発光石や紫水晶みたいに色鮮やかな光や色をしているかと思っていた。


 さっきの光景を見たので色あせて見えるだけなのかもしれない。それほど幻想的だったのだ。


『こっちからも出たぞー』


『うはっ! これ結構質が良さそうだな!』


 声の方を見れば、大量のマナ鉱石を選別しているスケルトン達。慣れた手つきで質の良い物と悪い物を取り分けている。


「一番いいのをできれば持って帰りたいから、できれば選んでくれると助かる」


『おう、任せとけ! こう見えても俺達、目はいいからな』


『じゃんじゃん掘れよ。でも掘りすぎには注意な!』


「だから目無いじゃん……」


 俺の突っ込みにも気にせず、スケルトン達は再び仕分けに入った。




 それから俺はポーチいっぱいに質の良いマナ鉱石を詰め込み、地上を目指して道を引き返す。


 クエスト達成の最低個数は五個だったはず。


 それを通りこして質の良いマナ鉱石が二十個は入っている。


 結構な金額が稼げた。


 これを売ったら何に使おうかなと歩いていると、突然前を歩いていたレンジの足が止まった。


 急に足を止めたレンジの様子を不思議に思いながら、俺も立ち止まる。


 そしてレンジはゆっくりと振り返り、今までとは打って変わった真面目な口調で言った。


『…………なあジェド。良かったら俺達の頼みを聞いてくれないだろうか……』


 そのレンジの言葉には色々な想いが混じっており、どこか哀しみに満ちていたように俺は感じた。




ちなみに背骨にも名前がありますが、光レンジには敵いませんね。

何かいい名前が無いものか。

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