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ジェド押し付けられる

 

 清々しいエーテルの朝。


 朝早くから人々は道を激しく行き交っている。店の鎧戸を上げて店の開店準備をするウエイトレス。多くの積み荷を乗せた馬車。朝早くからクエストに行くのか、冒険者のパーティーが話し合いながら歩く姿も見える。


 建物の二階ではあくびを噛みしめて眠そうにしながら、ぼんやりと道を見下ろす女性も。


 朝で寝ぼけているのか、着崩れた寝間着に気付いていないのだろうか。


 そんな事は気にしていないのか、それとも天然なのかは分からないが朝から目の毒になりそうだ。


 俺の隣を歩く男性も、俺の視線を追うようにして見つめてだらしない顔をする。


 その隣に彼女らしき女性がいるというのに、いいのだろうか?


 そう思っていたら、隣の彼女が彼氏の異変と視線の行く先に気付いたらしく、まあっという表情をして耳を思いっきり引っ張る。


 それを俺はああ痛そうだなあと思いつつ、距離を取る。


 また今日も一日が始まる。


 俺は朝からも賑わう石造りの道を元気に歩き出した。




「すいませーん」


 野菜を並べて準備している、野菜屋のおっちゃんの背中へと声をかける。


「おお、ジェドか! 今日も買っていくんだろ?」


 おっちゃんは日に焼けた顔をくしゃっと歪ませて歓迎してくれる。


 ここのところ毎日通う俺は既に常連さんとなり、顔や名前も憶えられているほどだ。


 たまに、おまけで多くの野菜をくれたりもする。


 俺の宿は冒険者ギルドから南にある宿で、この商店街を通りギルドにいつも向かっている。


 必要な物をここで買ってからギルドにいけるので便利だ。


 そうなれば帰り道もここを通る為に、おっちゃんとしても覚えやすいのであろう。


「おう、今日も買うよ。今日はニンジンとパチパチと豆と……果物はある?」


「おう、あるぜ! 今日の果物はリンゴとミーネだな」


 ちなみにこの世界、食材は日本の物と同じものだったり無いものがあったりと色々だ。


 ミーネなんていう果物はこの世界ならではのものだ。


 三角形っぽい形をしており、味は桃に似ている気がする。


 少し薄味な気もしないでもないが、これはこれで瑞々しくて美味しい。


 リンゴはここでもリンゴだった。


「じゃあさっき言ったやつと、果物をそれぞれ五個ずつもらうよ」


 そう注文し、自分の持ってきたポーチを手渡し詰めてもらう。


 わお、今日も野菜や果物でパンパンだ。


「あいよ! いつもありがとな。リンゴを一つおまけでやるよ」


「ありがとう!」


 俺は手渡されたリンゴを齧りながら、冒険者ギルドへと向かった。




 少し薄暗いギルドの中に入ると、いつも通り冒険者達がたむろしている。


 中には明らかに冒険装備ではない私服姿の者も何人かおり、今日はクエストに行くつもりが無い事がすぐわかる。


 それでも安くて美味いギルド飯を食べるためのなのか、暇なのかそういう輩は多い。


 俺も身体を休める為にそういう事をする日もある。


 朝から酒を頼むことは流石にしないが……。


 この世界では成人年齢は一五歳とされており、お酒を飲むのは自己責任となっている。


 やはり子供のころからお酒を飲ますのはよくない事だと、理解しているのか子供には飲ませる事は少ない。大抵が俺ぐらいの年齢の一二歳くらいから飲み始めるのだと。


 俺も何回かここで飲んだことがある。


 日本はない果実酒が思いのほか、美味しくて酔いつぶれかけたこともあった。


 適当に挨拶の声をかけて、今日のクエストは何があるかと掲示板を眺める。


「おーいジェド。また今日も採集クエストかあー?」


「お前そろそろ討伐クエストでも行って来いよ」


 クエストを眺める俺に、他の冒険者からからかいの声が。


「今は採集クエストの方が、報酬がいいから今はこっちでいいよ。というかお前ら私服って、今日はクエスト行く気ないだろ」


 半目言い返す俺の言葉にその冒険者は「こりゃ厳しいぜ」と手を額に置いて笑い出す。


 顔が赤らんでいる事から既にできているらしい。


「採集クエストって儲かるものだっけ?」


「いや、大半が討伐クエストの途中で見つけた物を売って追加報酬にしてもらうとか、土地勘がつくまで安全に稼ぐための手段だろ? 採集クエストが張り出されていたら皆、報酬を増やそうとその素材をチェックするしな」


「だよな。それより何でジェドはここに野菜持ってきているんだよ?」


「わかんねー。この間なんかキャベツ抱えてギルドに来ていたぜ?」


「?……あいつは野菜でも売りにここに来ているのか?」


 くそー、俺の事情も知らずに変な事言いやがって。誰がギルドに野菜を売りにくるか。これは動物達と交換して上薬草を得るための野菜だよ。


 なんて言えるはずも無いがな。


 俺でもそんな話は百%信じられないし。


「冒険者なら魔物を討伐しろよ」


「そうだそうだ」


 酔っている冒険者達がジョッキを片手に野次を飛ばす。


「採集クエストの方がいいよ」


 俺はその言葉を軽く受け流す。酔っぱらいを相手にそこまでムキになる必要はないだろう。


「生意気言うな、もやし野郎」


「魔物と戦うのが怖いのか?」


 その俺の態度が気に食わなかったのか、その冒険者達二人は俺を挑発してくる。


「別に怖くないよ」


 ごめんなさい嘘です。アーガイルと戦えって言われるとちょっと怖いです。


「ならそこにある、炭鉱場の奥にある鉱石の発掘クエストでもやってみろよ」


「討伐クエストじゃなくて?」


 これには意外だ。てっきり討伐クエストにでも行って来たら認めるだとか、そんな感じの展開を予想していたのに。


「どうせ採集クエストにしか行かないだろ? それだったら暗い炭鉱場の奥で発掘でもしてみせろよ。暗い洞窟の中にはうじゃうじゃとスケルトンがいやがるからな! どうした怖いのか?」


「それってずっと掲示板に張られていた塩漬けクエストだよね? 冒険者が誰も行かないから放置されているって」


 確かそんな事をギルドの職員さんが嘆いていた気がする。


 俺の発した言葉により、ギルド内が静まり返る。


 あれ? これってもしかして。


「もしかして皆炭鉱に行くのが怖いから――」


「と、とにかく! そのクエストをこなしてみせたら一人前だと認めてやるぜ!」


「お、おうよ! べ、べべべ、別に俺達が行きたくないから新人に押し付けたりした訳じゃないからな!」


「俺は別に暗い所とか平気だし!」


 俺の声を遮るようにして叫ぶ冒険者達。気付けば酔っぱらい以外の冒険者達も口々に同じような事を言っている。



 恐らく、いい加減に誰かこのクエストをやって下さいとか職員に言われてしまったのだろう。


 でも暗くて狭いスケルトンが蠢く、炭鉱場には誰も近寄りたくはなく今日に至ると。


 俺はその炭鉱場のクエストやらを見る。


 張り出されているクエストの紙は、結構痛んでおり古いようだ。


 掲載された時期を見ると、半年以上放置されている。


 これは酷い。


【炭鉱場の奥にあるマナ鉱石をできるだけ多く発掘してきて欲しい。現在炭鉱場は封鎖している。アンデッド系の魔物で溢れかえっているので注意――報酬は現物の質による】


 うわー、これは面倒くさそうだ。


 これなら優秀な冒険者を連れて殲滅しちゃえば? と思うのだが、炭鉱場内は狭くて暗いのでそうはいかないのだろう。それにゴールドランクの冒険者は動かすのにお金がたくさんかかるって言うし。


「ジェドがクエストの紙を手に取ったぞ!」


「成功するか失敗するかで賭けてやろうぜ!」


 俺が内容を見ている間に、勝手に盛り上がる冒険者達。


 何としてでも俺に塩漬けのクエストを行かせたいらしい。

 どうせここで逃げても、いつか嵌められそうなので受けておくか。


 俺は深く溜息をつきながら、貼り紙をカウンターへと持っていった。


 職員さんは俺の持ってきたクエストを見ると、嬉しそうに送り出してくれた。


 どうやら上層部からもこれについての苦言がきていたらしい。


 それをわざわざ俺に聞かせて、プレッシャーをかけるほど。


 はいはい。マナ鉱石とかいう鉱石を取ってきますよ。


 俺は準備を整えるために、ギルドを出た。






 ×      ×      ×




「……本当に行っちまったなジェド」


「ジャイアントファングのいるエリアに何回も行くような奴だぜ? 大丈夫だろうよ」


「……そうだな。それより俺この間、ジェドが鳥をハニーって呼んで話しかけているところ見ちまってよ」


「「「まじかよ! その話詳しく!」」」


 今日も冒険者ギルドの酒場は賑やかだ。




錬金王のTwitterを見ればゴブリンのイラストが乗ってあります。

興味のあるかたは見て下さいね。

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