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熊さんに出会った

 

 ――熊。


 最大種のホッキョクグマで体調は二メートルから二´五メートルほどの体長をしており、体重は三百から八百キロほど。毛皮と短い尾、大きくて短い四肢と大きな体を持ち、優れた嗅覚と聴覚を持つ。


 なんて情報をニュースで聞いたことがあった。


 しかし、目の前にいる熊の体長は明らかに俺の倍以上、三メートルはある。


 強烈な存在感だ。その大きな腕を叩きつけられたらと思うと背筋がゾッとする。


 ちくしょう、ちゃんとニュースを聞いておけばよかった! クマと出会った時の対処方はどうだっただろう。


「…………」


『…………』


 お互いに一歩も動く事なく見つめ合っている。


 すると熊が何かブツブツと呟きだした。


『や、やっべー、人間だよ、俺人間と出会っちゃったよ。どうしよ、腰に剣とか挿しちゃっているし、襲った方がいいのかな? でも、どうしよ。人間ってやべえし。おー、どうするよ』


 熊は想像以上に混乱しているようだ。


 これなら話し合いができそうだ。


 必殺死んだふり作戦や、逃走をしなくても済みそうだ。


『よ、よよ、よーし。相手が背を向けたら襲っちゃおう。勝てるかもしれないし。背を向けなかったら様子見だ』


 俺はその言葉を聞いてホッと胸をなでおろす。


 ……本当に逃走なんて真似はしなくて良かった。危うく熊に襲われるところだった。


 とにかく熊も落ち着いたみたいなので話しかけてみようと思う。


「あのー、熊さん? 言葉は通じるかな?」


『おーっと近付くなよ人間! それ以上近付くと俺の右ストレートが飛び出すぜ? というか本当にそれ以上近付かれると怖い……』


 言葉と同時に足を一歩踏み出すと、威嚇されてしまった。


 どうやらこの熊は臆病さんらしい。


「わかったわかった。これ以上は近付かないから」


『わかりゃいいのよ! そうそう……物分かりのいい人間で助かったぜ』


「まあ、君の言葉がわかるからね」


『はい?』


「……ん?」


 ここで熊の動きが一瞬止まる。


 まあ、これが普通の反応だと思う。


 鳥達は案外この事実を軽く受け止めるから拍子抜けするんだけれど。


 まあ、鳥達は噂を耳にしているからこその反応なのかもしれないが。


『俺はナイスな熊』


「俺はナイスな熊」


『名前はアーガイル』


「名前はアーガイル」


 確かめるように聞かれる言葉をオウム返しのように返していく。


『お前の名前は?』


「俺の名前はジェド」


『すげええええええっ! 俺人間と話ちゃってる! ちょっと、そこのハニーバードさん。ジェドとお知り合い?』


 俺と会話することが成功したアーガイルは歓喜の声を上げて、俺達の後方に止まるハニーに興奮した様子で尋ねた。


 ハニーは熊のアーガイルの質問に素っ気なくも答える。


『ああ、そうだよ。俺達の言葉がわかるっていう人間だ。結構噂になっているが奥までは噂が来ていないのか?』


『知らなかった!』


 それについては俺も同じだ。本当に鳥達に伝わると噂になって広がるのが早いことだ。


 このまま噂が拡散してどこに行っても襲われないようにならないものか。


 そうすれば気ままに旅をできるし、素晴らしい事だと思う。


 ひとまずの目標はエーテルの近くでは魔物には襲われないようになることだけれど。


『なあなあジェドだっけ? ここに何しに来たんだ?』


 のっそのっそと四本足で近付いて話しかけてくるアーガイル。


 そう言われて俺は樹木に指を差した。


「クエストの為に黄金の木の実を採りにきたんだ」


『クエストって言ったら冒険者か! 頼りない顔している癖に勇気あるなあ』


「そこはほっとけ」


『まあまあ拗ねるなよジェド。黄金の木の実でも一緒に食おうや』





 ×      ×      ×





「えっ? 黄金の木の実を採って来たんですか!」


 ギルドのカウンターで、登録の手続きをしてくれた職員さんの素っ頓狂な声が上がる。


 その奇声とも言える声を聞きつけて、何人かの冒険者がこちらを窺う。


「あ、すいません。大声を出してしまって。滅多に採れるものじゃないので驚いてしまいました」


 注目を集めた事に羞恥心を覚えたのか、慌てて口元を抑えて頬を染める職員。


 何か可愛いなあと、その様子を眺めていると職員さんはコホンと咳払いをして冷静な口調になる。


「黄金の木の実はいくつ採ってきたのですか?」


「このポーチにいっぱいにです」


 俺はそう答えて、ポーチから黄金の木の実をカウンターの上へと置いていく。


 黄金の木の実は樹木から離れてもその光が無くなることはなく、今も仄かに発光している。


 カウンターに黄金の木の実を置く数が、十個を超えたあたりで職員さんがカウンターから身を乗り出した。


「こ、こんなに!?」


「え、ええ。本当はもっとあったのですけど、ポーチに入らなかったので十二個だけです」


「ちょっと何処で見つけたのか教えてもらっていいですか!?」


「え、ええ。あんまり土地勘がないので細かくは覚えていませんが」


 何だか職員の様子が鬼気迫るというか、とにかく必死だ。


 そこまでさせる何かが黄金の木の実にあるのだろうか。この職員さんの大好物な品物だとか。


「はい! お願いします!」


 目をギラギラとさせながら森の地図らしき物を広げる職員さん。


 あ、俺もこれ欲しい。


 俺はハニーと歩いた道を思い出し、分からない場所は目印となりそうな物を伝えて職員さんが判断してくれた。


 そして最終的に俺がたどり着いた、場所を確認すると職員さんは顔を青くした。


「えっと……本当にここなんですか?」


「そうですよ? アリクイみたいな動物や大きな熊もいましたし」


「そうです、私がそこから判断してこの辺りと推測しましたけれども、ここって……その……危険な魔物が多いんですよ? 特に最後の熊、ジャイアントファングは何人もの冒険者が返り討ちになっていますし」


 アーガイル魔物だったのか。どうりで体が大きかった訳だよ。


 でも、あいつ見た目の割に臆病者だ。だけど臆病が故に手が早い。


 相手が武器を構えたら殺られる前にやる。背中を見せたら好機だから襲うとか決めているって言っていたしな。


 できれば戦闘は避けたい、のんびり蜂蜜を舐めていたいとか言っていたけれど物騒だ。


「そうだったんですか。俺は運が良かったのかもしれませんね」


 あはは、と笑いながら誤魔化す。


 まさか、そのジャイアントファングと仲良く黄金の木の実を食べたり、駄弁っていただなんて言えない。


「そうですね。今回は運が良かったのかもしれませんね。ジェドさんは新人なのでまだその領域には行かない事をオススメします」


 また次も行く約束しているんだけれどなあ。だって黄金の木の実は一個で報酬が金貨一枚と美味しいし。(もちろん味も)


 アーガイルがとっておきの蜂蜜を分けてくれると言っていたし。


 まあ、俺なら問題ないし大丈夫かな。


「はい、あと上薬草もあるので買い取ってもらいますか?」


「上薬草ですって!?」


 職員さんはこの日二回目の奇声を上げた。



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― 新着の感想 ―
見てる分には楽しい受付さんだけど、情報を言い触らすような驚き方は場合によっては困るかな。
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