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とばっちり

すいません。旅立ちは次になりそうです。

 

 もらえば大の大人であっても即死してしまいそうな鉄槌を、怒声と共に振り下ろす。


 それを俺は距離をとる事で回避。鉄槌は地面を撃ちつけて、地面に小さなクレーターを作る。


「……うわあ、ただの拳でこの威力って……」


 俺が唖然としてクレーターを見つめていると、オーガはこちらに地面を踏み抜かんばかりの勢いで肉薄してきた。


 俺は慌てて剣を構えるが、空気を削り取るように大きく腕が振るわれている中ではどうしようもない。


 体格や桁違いなパワーのせいで、受け止めることはもちろんの事、受け流すことすら難しい。




『死ねぇ! 死ね! 死ねええええええっ!』


 身体中怪我だらけでもはや、満身創痍を思わせるオーガからの腕。すぐ傍では巨木が振るわれているかのように、大きな風圧が俺を勢いよく撫でる。


「あー、もう! 本当に話を聞いてくれないのか?」


『ヴアアアアアアアアアアアッ! 殺す! 潰す! 粉砕する! ――ッ!』


 俺が苦しげに避けながら問いかけるも、返ってくるのは狂気を思わせるほどの怨嗟の声。


 オーガは傷口が開くのも構わずに、激しくこちらを潰さんばかりに攻め立てる。


 少し大人しくさせようと、隙を見てすれ違いざまに肌を斬りつける。


 それは相手の脇腹辺りを切り裂いた――が、浅い。オーガの頑丈な皮膚のせいか動きを止める傷を与えるには至らなかった。


 それどころかオーガは、うっとうしいとばかりに激昂しより勢いを増す。


 死ぬ間際の獣は恐ろしいとは知っていたが、ここまでとは。


「【アルド・シールド】!」


 土の魔法言語を唱え、オーガを囲みこもうと土が盛り上がる。


 しかし、それはオーガの拳に一発しか耐える事ができず、二発目には破砕された。



 それでも結構。本当はそれで閉じ込められたら一番なのだけれども、ただのこれは時間稼ぎ。


 オーガは崩れた壁から俺を確認すると、両手で地面を踏み締めこちらに頭を向けて来た。


 四つん這いになる姿はまるで猛牛のよう。



 そしてそのままオーガは地面を四本の足で踏み砕きながら突撃してきた。


 それは好都合。


「【ロ・ゼルド・エイク】ッ!」


 歌うように、魔力に語りかけるようにしながらも、手を地面に打ち付ける。


 それと同時に、俺の目の前の地面が道を開けるかのように割断されていく。


 それは真っすぐにこちらに突進してきたオーガをも呑み込み、なおも深く割れていく。


 下を向いていた突進体勢のせいか、オーガはそれを知覚することなく落ちる。


 といってもそんなに深くは割っていないので、せいぜいオーガの巨体がすっぽりと入るくらいなのだが。


『ヴオオオオオオッ!』


 まだまだ元気なようだ。


 魔力で制御してオーガを挟みこむ。


 腕を大きく開いて挟まれまいと抵抗していたオーガだが、俺の魔力に屈して挟み込まれて身動きができなくなる。


 するとオーガの絶叫は苦しげなものへと変わり、短いうめき声を出しながらジタバタとする。


 すると近くの木から隠れて窺っていたのか、コボルド二体が出て来る。


『……やったのか?』


「一応身動きは止めたけれど……ほら、まだ暴れているよ」


 見れば首を振ったりと、地面の束縛から必死に脱出しようとするオーガが。


 そこを見ると僅かにだが、亀裂が出来ている気がする。


『角がまだ一本あるじゃねえか! 早く折っちまえよ!』


「角?」


『片方は折れていやがるけれど、もう片方が残っているだろ。オーガは魔力を角に蓄えて力を発揮しやがる種族だからな』


「という事は、全部角が折れたら力が弱くなるっていう事?」


『ああ、その通りだよ。だから、俺達の間では角を持ったオーガは狙わない。だが、逆に角が一本でも折れていれば好機とばかりに襲いかかる』


 なるほど。そんな特性もあるのか。


 ともかくそれが本当ならば、大人しくなるかもしれないな。


 もしオーガが複数で襲いかかってきたのなら、救う道なんて考える事もなく倒していた。


 会話ができるからって全てが上手くいくわけはない。


 それぞれ違った価値観、過去があるのだから。


 人間だってそうだ。


 会話もでき、似たような見た目をしているというのに戦争は起こる。


 それは価値観や意思、それぞれの思惑によるもの。


 人間は何より相手が何を考えているのか理解できないと恐ろしいと思ってしまう。


 それゆえに自国の意思を相手側に強制しようと武力を用いて争うのだ。


 俺が剣を持ってオーガへと近付くと、とどめを刺されるのかと思い、大きく暴れ出す。


『うおおおおっ! やめろ! やめろ!』


 頭を必死で振り乱す中、俺は刃を走らせて角を斬り落とした。


『――ッ!』


 その瞬間オーガは目を見開き、項垂れる。


 気を失ったのかと思う程に静かだ。


 とりあえずは落ち着いてくれたのだろうか?


『あ……う』


 とりあえず意識はあるようだ。


 だが、先程までの怒りのオーラは全く感じられない。


 燃え盛る炎に大量の冷水を浴びせたかのように、沈静化している。


『……一先ずは落ち着いたか』


『まあ、二本とも角が折れたしな。少しは落ち着くだろう』


 コボルド達が確かめるように槍や棍棒で突く。


「おいおい、そんな事して大丈夫なのか? また暴れたりはしないのか?」


『心配するなよ。暴れた状態でも身動きできなかったんだから、角をへし折られたら尚更身動きできねえよ』


 そう言うと、コボルドは「なあ?」と言いつつぐりぐり突く。


 それに対してオーガは「う、うー」と呻き声を上げながらされるがままとなっている。


 おいおい止めてあげなよ。何だか可哀そうだ。


『……殺して下さい。もう俺の負けですから』


 先程の暴れっぷりからは想像できない、覇気の無い声で呟くオーガ。


 一体どうしたんだろうか。この豹変ぶりは……。


『角を折られたんです。もう俺には戦う力はありません。一思いにやっちゃって下さい……』


「……オーガって角を全部折られると力だけじゃなく、気まで弱くなるの?」


 俺は問うように顔をコボルド達に向ける。


『いや、さすがにそこまでは知らねえよ』


『俺達はオーガじゃねえし』


 素っ気なく最もな事を言うコボルド達。


『……俺達オーガにとって角は最も大切な物で誇りでもあるのです。力の源であり、これが失われては無力に等しいのです』


 とにかくそれほどに大事な物らしい。


 戦意がなく、理性を取り戻したようなので束縛を解除して光魔法で回復してあげる。


 動物や魔物についても光魔法で治療できる事はわかっている。


 オオノキさんも言っていたし、実際にゴブリンや怪我をした動物達にもたまに使っている。


 魔物については光魔法で回復させるとは言語道断、背教的であるのだが俺としては知った事ではない。


 俺、神官でも治療師でもないし。


 さすがに人前で魔物に使う事はないが、神殿関係者の前では絶対にやらないようにしておこう。


 オーガは俺が治療している間も大人しく、暴れたりする事はなかった。


 つい、今になって人間である俺と話せている事に驚きはしたが。


『怪我まで治してもらってすいません。俺はあなたを殺そうとしていたのに……』


「こっちこそ大事な角を折ってしまってごめんよ。そうしないと、君を殺すことになっていたから」


『いえ、命が取られなかっただけでも感謝するべきです』


「ところで、どうしてここで暴れていたの? 俺と出会った時から怪我だらけで、角も片方折れていたけれども」


『ああ、これはその昨日恐ろしく強い人間に出会ってしまって。ボロボロになりながらもなんとかここまで逃げ出したのですけれど……』


 言いにくそうにするオーガの代わりにコボルドが答える。


『逃げて来たこの森に、俺達の声や人間であるコイツの声がしたってか?』


『……はい。つい殺られると思ったので』


 なるほど、俺としてはとんだとばっちりなのだが、オーガの身になると仕方なく思える。


 オーガでも逃げ出すって、どんな化け物なのだろうか。


 こっちに来たりはしないだろうな。


 いや、俺は魔物じゃないから大丈夫だけれども。


「その人間はこっちに来ていないの?」


『はい、確実にとは言えませんが追ってきている気配はありません。俺みたいな死にかけていた魔物をわざわざ狩りにくるとは思いませんが』


「そっか」


 俺はオーガに落ち着くまでは、オークやゴブリン達の住む洞窟に身を隠しては? と提案した。


 あそこなら平和だし、俺の名前を出せば争わなくて済むと言うと、申し訳無さそうにしながらも俺の提案を受け入れた。



感想で時間は飛ばさない方がよかったのでは?

との声がいくつかありました。私としてもほのぼのと村で暮らしていきながら、少しずつ時間を飛ばしていくか悩みました。


時間があれば、間にでもそんな話を挟んでいこうかと思います。

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