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平和なアスマ村

155万アクセス突破! ありがとうございます!

 

 この間からギリオン兄さんが「冒険者なんてやめて、魔法学園に通えよ」とか、うるさく言ってくる。


 そのつもりは残念ながら全く無いので、丁重にお断りしておいた。


 あれからギリオン兄さんは庭先で魔法を練習しては、暴発させたりと繰り返している。


 壁を壊したりと被害が大きいのは、多分中級魔法を練習しているせい。


 しまいには、屋敷の敷地内で魔法練習の禁止を母さんから言い渡されている。


 そのせいで村の近くの平原では、ここ最近爆発音が聞こえるのだとか。


 恐らく今度は火の中級魔法か、俺がやってみせた爆発の練習でもしているのだろう。


 村人達も最初こそ驚きはしたが、今では大して気にはしていない。


 屋敷から村へと向かう道のりにでも、こうして聞こえる。


 爆音が響き、黒煙がもやもやと舞い上がっている。


 平原の方角では、


『どわあああ! またかよアイツ!』


『昼寝してたのに!』


『毎日毎日、勘弁してくれよ!』


『あれジェドの兄貴だろ!?』


 と、鳥達が飛んでいく。


「……今日もやっているなぁ」


 それを遠くから眺めて、今日も文句を言われるに違いないと思った。


 俺はため息を吐きながら道を歩いた。




『あー! 重い! 何で俺がこんなの引きずらなきゃならねえんだよ! 何だよこれ!? 俺がこれを引きづって耕しているの? 自分で耕せよな! そこに鍬があるだろうよ!』


 村の前の畑では、一頭の馬が大声で文句を垂れていた。


 目の前で行われているのは、農業でよく行われる馬耕というもの。


 馬に犂などの農具を引かせて耕したり、土塊を粉砕したりする。


 後ろで農具を抑えている男と先導する男が、馬の気持ちも知らずに呑気な声をかける。


「よーし、よしいいぞカン吉」


「その調子その調子」


『だあー! 俺はトン吉だっつうの! カン吉は耳が長くて、たてがみがぺしゃんこな方だよ! いい加減わかれよな!』


 そう喚くとトン吉は立ち止まり、耳を前後に動かす。


 こいつがカン吉が言っていたトン吉か。確かに似ている。


 しかし、普通に見たらトン吉の方が耳が短く、たてがみも少しツンツンとしているので見分けくらいつきそうであるが……。


 どこかで名前が伝わりそこねているだけかもしれないけれど。


「おいおい、カン吉どうした?」


「もうへばったのか?」


『うるせえ! こんなんで俺がへばるか。それよりお前ニンジンよこせよ。何自分だけ食ってるんだよ』


「おー、おー、甘えたいのか? 頭をすりよせてきてー」


『その髪食いちぎるぞ! 誰がお前になんか甘えるか!』


「ははは、可愛い奴だなぁ」


『お前は農具外したら覚悟しとけよ。今日は外さないからな? 俺の後ろ脚が唸るぜ』


 また前回みたいに馬に蹴られて大怪我されても困るので、俺は助け船を出す。


「あのー! すいません!」


「ん? ああ、ジェド様じゃないですか」


「今日も元気そうで」


 俺が声をかけると、男達はにっこりと笑い返事をしてくれる。


「その馬にニンジンをあげれば、また動いてくれると思いますよ!」


『おおー、そこのガキわかってるな! でも俺ハチミツや甘い果物の方がもっとやる気でちゃうよ?』


「ガキ言うなやトン吉」


『えっ!? なになに? 俺の言葉わかるの? もしかしてお前噂のジェド君!?』


 トン吉が嬉しそうに反応し、男達は怪訝な声を上げる。


「「はい?」」


「あ、いや、何でもないです。お腹が減っているんでニンジンでも食べさせて下さい」


「はあ、そう……なんですかね?」


「まあジェド様がそう言うんだしあげてみなよ」


 男達は顔を見合わせると、とりあえずといった感じでニンジンをトン吉に与える。


 まあ、確かに領主の息子がこんなこと言ってきたら戸惑うよね。


『うめえ! この甘さがいいんだよなあ。ありがとなジェド。こいつら鈍感だからよ、もっと馬の気持ちを察しろってんだ』


 トン吉はニンジンをもしゃもしゃと食べると、悪態をつきながらも歩き出した。


「おお、カン吉が動いたぞ」


「本当に腹が減っていただけなのかもな」


 俺達は笑顔で手を振り合った。



 村に着くと、今日も元気に働く村人達の姿が目に入った。


 つい、この間まで家を建てていた場所には、完成した綺麗な家が立ち並んでいる。そこには木工師の姿はなく、家族らしき人々が住み、今では違う場所に仕事をする木工師の男達の声が響いていた。


 こうして見ると、どんどん成長しているんだと実感ができる。


 心無しか、馬車の行き交う数も増えている気がする。


 人が集り豊かになる。この村もまだまだ成長するんだなあ。


 そんな風に町になりかけの村を眺めながら足を進める。


 今日はオオノキさんの家で光魔法を練習したりするために来たのではない。


 というか、発音やリズムのちょっとしたコツと知識を学ぶだけなので、そんなに頻繁に行くものでもない。


 なら、何故来たのかと言うと最近は訓練ばかりで村に行く事が少なかったのと、さっきのように歩いていれば、困った動物がいるからである。


 半分は変な我儘というか無茶な注文もあるのだが、家に押し寄せられるよりはマシだ。


「あっ……」


 間の抜けた声が目の前から聞こえる。


 レイチェルだ。


 気の強そうな瞳も、驚いているせいか少し柔らかい。


 あ、もう戻った。


「やあ、どうしたの?」


「あんたこそ。今日は家に来るの?」


「いんや、ただ村をうろついているだけ。そっちは?」


 俺が尋ねると、レイチェルが手に持った木箱を突き出して答える。


「お爺ちゃんがあんたに持って行けって言うから……」


 とりあえず受け取り中を開けると、その中には多くの卵が入っていた。


 卵が割れないようにちゃんとクッションも入っている。


 こんなに多く捕れるほど鶏を飼っていたのか。


 なんとなく、あの鶏達からのお礼のような気がして頬が緩んでしまう。


「ありがとう」


「屋敷なんて行かずにすんでよかったわ。緊張するし」


 確かに同じ所で学ぶ知り合いだとしても、貴族の屋敷に行くのにはちょっと躊躇われる。


 オオノキさんは普通に屋敷の前にまでフラッと来ていたけれども、これが自然なはずだ。


 卵かぁ。卵といったら、卵焼きに目玉焼き、それにマヨネーズも作れるな。


 マヨネーズはまだここには無いみたいだし作ってみるか。


「そうだあれから回復魔法の調子はどう?」


「上達していると思うわ。この間の患者の傷も、今までより早く治った気がするし。でも、覚える事が多くてしんどいわよ。筋肉がどうとか……」


 つらつらと話始めたレイチェルの話を聞いていると、はっとして話すのを止める。


 同年代の友達とこういう話ができないので、つい出てしまったのかもしれないな。


「とにかく、確かに渡したからね!」


 最後に彼女は「また来なさいよ!」と言い放つと、ポニーテールをなびかせて去っていった。


 まあ、少しは態度が柔らかくなってくれて嬉しいかな。


 マヨネーズができたらおすそ分けでもしてみよう。



 後日、完成したマヨネーズをオオノキさんの家に持って行った。


 そしてその次の日には屋敷の前へとやってきて「作り方を教えなさい」と言ってきた。


 結局彼女は屋敷に来るはめになった。




ここらで稽古を抜いてほのぼのと。


次回は時間を飛ばしていこうと思います。そろそろ旅立とうかと。

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