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オオノキさんの家で

ちょいちょい更新していきます。

 

「であるからして女神メリアリナ様は魔物に対抗するための力として、我々人類に魔法というものを与えて下さったのです。 その中でも光魔法は――」


 次々と飽きもせずに過去の細かい歴史を語るオオノキさん。


 それはいいんだ。いつもの勉強よりも細かく、人々がどのように生きてきたのかをわかりやすく教えてくれる。


 しかし、俺を睨む隣のお嬢さんの視線がいただけない。


 どうしてこんなにも敵意丸出しで睨まれなければいけないのだろうか。


 右側から感じる遠慮の無い視線。


 俺がオオノキさんの目を盗んでちらりと視線を飛ばすと、ぷいっと顔をそむける少女。


 そして、顔を正面に戻すとちりちりと感じるほどに鋭い視線が浴びせられる。


 ちらり。


 ぷい。


 …………あー、もう何なのこの子は!


 鮮やかな茶色の髪をポニーテールにした少女。


 歳は俺より少し上の八才。なので、身長は俺よりも大きい。


 名前はレイチェル。


 オオノキさんの孫という扱いだが実際は、拾った孤児なのだそう。


 オオノキさんが神官を辞める際に孤児院にいたレイチェルを引き取ったのだそうだ。


 レイチェルを選んだのは光魔法に適性があった為である。


 それからはこのアスマへと居を構えて、治療師の仕事をしながら二人で穏やかに暮らしている。


 そんな感じで光魔法を教えながら暮らしていた二人の所に突然現れた俺。


 いや、別にこれから一緒に住むでもないのに敵意を持たれても困る。


 これは別に彼女の日常生活に割ってはいったからという訳ではない。いやその可能性もあるかもだが、多分理由はこれだと思う。


 オオノキさんの家にやって来る。


 簡単な自己紹介をすると、足を骨折した怪我人がやって来た。


 レイチェルが回復魔法を唱える。


 しかし、完全回復には至らなかった。


 そこで俺がやってみろと言われたので、やると完全回復で見事歩けるように。


 つまり俺は治療師の弟子である、レイチェルのプライドを粉々に打ち砕いたことに。


 これが同い年、同じ治療師の弟子ならば少し嫉妬するだけで済んだのかもしれない。


 だが俺は二才年下で、魔法についての知識も不完全。


 それでいて大好きなオオノキさんのお気に入りと来た。


 これは敵意を持たれても仕方がない。


 しかし、この状態をオオノキさんは喜んでいる様子。


 いや、確かにいい刺激になって伸びるかもしれないけれども、踏み台になるこちらの気持ちにもなってみて欲しい。


「ですので、神聖メリアリナ皇国の神殿の力が強い為に、多くの神官が多額のお布施と引き換えに治療を施しているのが現状です。では、少し休憩にしましょうか」


 やっと終わったのか。


 後半からは神殿の愚痴のようなものが多く混じっていた気がするが、確かに神殿のせいで農村が困る事態になっており、世の中が深刻な回復魔法使い不足なのがわかった。


 遥か昔に女神メリアリナ様がいたといって、神殿は大きな権威を振るいすぎなのではないだろうか。


 冒険者になるにしろ、神聖メリアリナ皇国や神殿関係者には注意しておこう。


 結構黒い噂もあるらしいし。というか暴露されたし。


「ちょっとあんたは治療師になるつもりがあるの?」


「ないですよ。俺、冒険者になりたいですから」


 椅子から立ち上がり、休憩しようとした時に話しかけてきたレイチェル。


「はあ!? 骨折すら治せる回復魔法を使えるのに!? じゃあどうしてここに来たのよ!」


「あんたのお爺さんが連れてきたんですよ!」


「あっそ!」


 俺がそう言うと、一瞬何か言いたげな表情をしてから、家の奥へと引っ込んだ。


「……何なんだよ」


 これからも回復魔法を教わるために何回か来る事になるのだが、毎回あんな調子で絡まれるのだろうか。


『なあなあ、もしかしてあんた動物と話せるジェドっていう人かい?』


「んー?」


『あ、反応した本当だったのか……』


 玄関から声をかけてきたのは、一羽の鶏。


 彼はつぶらな瞳と、首をキョロキョロと小刻みに動かしながら室内に入って来る。


『なあなあ、聞いてくれよ』


「何だよ」


『レイチェルってお嬢ちゃんがいるだろ? あれは爺さんがいる時はいい子なんだが、爺さんが目を離すととんでも無い事してきやがってよう』


「とんでもないことって?」


『あいつよう、自分が食器とか割ったのに俺達のせいにするんだぜ?』


 俺の抱いた、緊張感というものを返して欲しい。


「何だよその程度かよ。てっきり回復魔法の実験とかでナイフで斬りつけられているのかと思ったよ」


『あ、それも何回かあった』


「あったの!?」


 自分でも驚きの返答がきてしまった。


 え、レイチェル結構ヤバい子なの?


『まあ。それは神経の無い所をちょこっと斬るだけで、すぐに回復させてくれるからいいんだ』


「……いいんだ」


 というか、それ明らかに手馴れているよね。


『そんな事より困るのは、食器や物を壊したり、散らかしたりするのを俺達のせいにする事だよ。爺さんがいない間に事件が起きたら、ご丁寧に俺達を部屋に連れてきて隠蔽するんだぜ!? おかげで怒られてストレスが溜まるっての』


 羽をバサバサと大きく羽ばたかせて、憤慨を露わにする鶏。


 斬りつけられることについてはストレスを感じないのか……。


「なるほど。わかった。言っておくよ」


『頼むぜ?』


 俺の靴を嘴で二回突くと、鶏は出て行った。


 それからしばらくすると、レイチェルがコップを持って戻って来た。


 そして、それをぶっきらぼうな様子でさし出す。


「はい」


「ありがとうございます」


「別に……おじいちゃんが持って行けって言うから」


 どうやらオオノキさんの差し金らしい。どういうつもりかは分からないが。


 今の俺とレイチェルは混ぜるな危険だと思うのだが。


 お茶を一口含み、一息つく。


 レイチェルは、無言で俺の隣の椅子に座る。


 会話は無く、室内には沈黙が漂う。


 何これ……気まずい。


 ともかく鶏の頼みを聞くために話でもしてみるか。


「「あの(ちょっと)」」


 それは全く同時に出した声だった。


「お先にどうぞ」


 俺がどうぞと促すと、レイチェルは咳払いをして話出す。


「じゃあ、そうさせてもらうわね。さっき同じ回復魔法であんたは骨折を治してみせたけれども、何かコツはあるの?」


 視線を逸らしながら、頬をほんのりと飲める彼女。


 本当は聞きたくもないのだけれども、しょうがないと言った感じが溢れている。


 これが告白とかならばかなり萌えるのだが、この世界も甘くはない。


「コツですかー」


 俺がうーんと唸ると、レイチェルは眉を顰める。


「さっきから大して年も離れていないのに丁寧な話し方して、ムカつくんですけど」


 おかしいな。俺これでも貴族だよね? まあ、子供だし偉い立場とか言われてもピンと来ないから構わないのだけれども。


「あー、はいはい。じゃあ、こんな感じで喋るよ。コツねえ。別に詠唱なんて俺よりもよっぽど上手かったし、魔力もレイチェルなら十分骨折は治せる量を使っていたしね」


「だから、わからないのよ!」


「というか、オオノキの爺さんに聞いたらいいじゃん?」


 その方がよっぽど為になるからいいじゃん。


 俺が提案すると不機嫌そうに視線を逸らしたまま答えた。


「だってお爺ちゃんが、せっかく同じ魔法を使える者同士なんだから、自分達で話し合いなさいって言うから」



「んー、さっき上げた点以外での要因だと後は知識だろうか」


「知識?」


「人間の身体の構造だよ。骨格とか筋肉と主な血管とか。もっと細かくいくと細胞とか」


「え? え? もしかしてそこまで細かく知っているの?」


「え? 人体の構造なら医学書とかに乗っているでしょ?」


 勿論この世界にきて医学書なんて読んだことは一度もない。


 どれもこれも前世の知識だ。


「……そ、そうだったの。確かに人体の構造についてよく知っていたら魔法の効率が上がるかもしれないわ」


 レイチェルはと言うと、大きな目を見開いて近くの本棚を漁り始めた。


 あれだけの書物が並んであるんだ、きっとあるだろう。


 お茶をすすり、俺はふと思い出す。


「そう言えばレイチェル。回復魔法の実験で鶏を使ったり、食器を割ったのを鶏のせいに……ゴフゥ!? 馬鹿やめろ! ついには俺を殺して無かったことにするつもりか!」


 俺は慌てて口を塞ぎに、掴みかかってきたレイチェルの手を振り払う。


 ええいコイツ、治療師とは思えない握力を。さすがはオオノキさんの弟子。


「あ、あああ、あんたそれどこで聞いたのよ! あと殺すとか人聞きの悪い事を言うのはやめなさい!」


「よく言うよ! 鶏をナイフで斬り」


「あああああああああああああああああっ! 仕方がないでしょ! だって怪我してくれないと練習が出来ないじゃないの!」


「ついに本性を現したな! オオノキさーん! おたくの子供が――」


「ちょっと止めなさいよ!」


「おやおや、いつの間にか仲良しになっていますね」


「「なってない!」」




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