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来訪者

 

 フクロウのおかげで日が暮れるまでに屋敷に帰る事ができた。


 もうすぐで探しに行くところだったとクレア母さんとジュリア姉さんに少し怒られてしまった。


 これからはしっかり時間に気を付けて出かける事にしよう。俺はまだ子供なのだから。


 そして夕食後には、居間にて家族会議が行われた。


 どうやら昼間に発言した、俺が冒険者になりたいというのは家族にとって意外だったらしい。


 俺ことジェド=クリフォードはクリフォード家の三男だ。当主になるのは長男のグラディス兄さんとなるのが当たり前。


 その次に候補として次男のギリオン兄さん。長男や次男どちらに継がせるかで揉める事もあるらしいのだが、うちはそんな事なくグラディス兄さんが継ぐことになっている。


 ギリオン兄さんなんて端からそんな事に興味がないらしい。


 まあ変態な次男とは違って真面目なグラディス兄さんならしっかりとやっていけるだろうと思う。


 長男や次男にもしもの事があれば、三男である俺でも当主を継ぐことになるのだがそんな事はほぼ無い。


 というか俺からしたら、あの兄たちがくたばるところを想像できない。


 そして本題の俺のような三男や四男は通常、騎士の育成学校や魔法学園に通う。


 そして騎士や魔法使いや士官となり、ゆくゆくは他家との結びつきのために結婚となる事が多い。貴族で冒険者になる人はいない事はないが珍しいらしい。


 冒険者。


 この世界に存在する魔物を狩り、その素材を売る事で主に生計を立て戦闘に秀でた者達。


 強靭な魔物の素材は様々な物に使い道があるらしく、高値で取引される。武器や防具、服といった日常品にまで使われその需要が尽きる事ない。


 冒険者といっても魔物を倒す事ばかりが仕事ではなく、人の護衛や荷物運び、採集といった小さな依頼もある。ときには遺跡や洞窟の探索といったところで宝箱を見つけて一攫千金といった大きなものまで。


 小さな雑用以外は命の危険が付きまとうために、どれも油断はできない。


 そのため、父さんや母さんが反対した。


 どうやって俺が戦うのかと。


 そこは魔法が使えるとの事でなんとか理解。ギリオン兄さんの援護と実際に使用してみる事である程度の納得は得られた。


 だったら魔法学園に通えばいいと言われたのだが、そのつもりは無かったので遠慮しておいた。俺は冒険者になってお金を稼ぎ、自由に世界を回りたいのだから。


 とはいえ魔法が使えるとはいえ、所詮は子供。それに一人でできる事には限りがある。


 十二歳まではここで、剣や魔法を学び修行しろとの事。


 冒険者になったらしっかりパーティーを組む事。


 そしてそれなりの力量を示す事を条件になんとか許して貰えた。


 父さんやグラディス兄さんは剣の相手が増えて嬉しいとの事。基本的に応援してくれている。


 ギリオン兄さんは「そのうち魔法の撃ち合いをやるから、しっかり魔力制御の練習をしておけ」との事。物騒だが一応応援してくれていると思う。


 ジュリア姉さんは「面白いから頑張りなさい」と。何が面白いのかとは聞きたく無いです。


「ジェド君は母さんと屋敷でのんびりと暮らすんです!」とのことで母さんが少し反対の様子。それも魅力的な生活だ。でもあと三十年くらいは待って欲しいかもしれない。


 ご機嫌をとりつつ、何とか力量を示しておかないと。母さんは少し俺には過保護だから。


 これからは剣に魔法と色々とやる事が多くて大変そうだ。


 それにしても力量を示すって何をすればいいのだろうか……?





 ×      ×       ×




 家族会議から一週間。


 早速始まった剣の稽古。


「ふっ……ふっ……」


 日が昇りきっていないなか、庭で父さんとグラディス兄さんと素振りをしている。


 朝のひんやりとした澄んだ空気が心地いい。


 魔法が使えるとはいえ、接近されたらお終いです。なんて奴は使い物にならないとのこと。


 接近で戦える魔法を編み出すにしろ近寄らせないようにするにしろ、剣術や体術は戦闘で絶対に役に立つとの事。


 その父さんの言葉は、回避にしろ魔法を使った近接戦闘でも使えると思ったので、俺も真面目に取り組んでいる。


「よし、ジェドはあと素振り三十回だ」


「はい!」


 ……まじか。これは今日も筋肉痛だよ。




『ねえねえ、今日は何するの?』


 素振りを終えて、朝食を食べた後。屋敷の前の草地で何をしようかと横になっている。


 そよ風が優しく俺の頬を撫でるように吹いており気持ちがいい。


 このままここで寝てしまおうかな。


『ねえねえ?』


 隣ではスモーキーが、ちょろちょろと俺の周りを歩いている。そして俺に構って欲しいのか、鼻を顔に寄せてきたり、ぺろりと舐めたり。


「……くすぐったい」


 それにしても言葉が通じる相手からぺろぺろと舐められるのは複雑な気分だ。


 こう、言葉が通じないからされても平気というか。


『遊んでー』


「あー、もうわかったから……それじゃあこの枝を投げるから取ってきてね」


『わかった!』


 俺が立ち上がり、適当な枝を拾い上げてそう言うとスモーキーは嬉しそうに舌を出し、尻尾を振る。


「よし、それじゃあ投げるよ!」


『いつでも!』


 遠くに飛ばそうと、身体を捻る。その直後身体中を走る痛み。


 …………。


「筋肉痛だからやめていい?」


『ふざけんなよ!』


 ちゃんとやってくれよとばかりに、俺に向かって吠えるスモーキー。


「あー、もうしょうがないなあ……それっ!」


『よっしゃあ! 枝! 枝!』


 嬉しそうに声を上げて枝の投げた所まで走る。


 やっぱり枝だから余り飛ばないな。次は石ころにするか。そっちの方が重さがあるから投げるのが楽そうだし。


『もう一回投げて!』


「じゃあ次はこっちの石ころね。こっちの方が遠くまで飛ぶからね」


『わかった!』


「よーし、それ!」


 石ころは放物線を描き、遠くまで飛んでいく。


 先程の枝とはえらい違いだ。


『石ころめっちゃ飛ぶうー!』


 興奮した声を上げながら、スモーキーは走りだす。


 よし、その隙にお暇しようかな。このままだと半日くらい投げさせられそうだ。筋肉痛が無くてもそれは辛い。


 そして屋敷へと引き返そうとしたところで、肩に手を置かれた。


「いやあ、こんな所で偶然ですね。よかったら私の家で回復魔法の講義をしながらお茶しませんか?」


 振り向いた先にいたのは治療師のオオノキさん。


 いや、さすがに人の屋敷の前にまで来ておいて偶然は厳しいと思います。




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[一言] この作品の登場人物、面白い奴が多いなw
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