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冒険者になりたい

 

『でな、翼に棘が刺さっちまって痛いの痛いのでよ』


「わかった。取ってあげるからじっとしてて」


『頼むぜ』


 たびたび俺の部屋へとやって来る小鳥さん。用事があると、俺の部屋の窓からコンコンと窓を叩いて可愛らしくやってくる。朝や昼なら問題ないんだけど、たまに夜にやって来ることが困りもの。


 まあ、今は朝だからいいけど。


 綺麗な白い羽をかき分けて、棘を探す。


「どこらへんに刺さっているの?」


『あー、もうちょい右。右、右』


 何か痒い所を掻いてもらっているおっさんみたいだ、と思いながら指示に従って探す。


 結構羽毛がたくさんあってわかりづらい。どこに棘があるんだ。


『あー、もうちょい、上! あっ左! 後ろ!』


「いや、後ろって反対側になるよ……あった! あー、小さな枝みたいなのが刺さっているよ……えいっ」


『……おおっ! ……おー、楽になった』


 小さな木の枝を抜いてやると、小鳥さんは翼の調子を確かめるようにバサバサと翼を動かす。


『助かった。これで心置きなく空を飛べるよ。この恩は忘れないぜ』


「はいはい、次からは枝に気を付けてね」


『おう! じゃあな!』


 小鳥さんはバサバサと翼をはためかせて、窓から空へと飛んでいく。


 俺は小鳥さんがどんどんと空や雲に紛れて小さくなるのを見つめ続けた。


「何していたの? ジェド」


 そんな俺に突然声をかけたのはジュリア姉さん。部屋のドアから顔を出し怪訝な表情をしている。


 もしかして全部見ていたのだろうか。何かそれ恥ずかしい。


「えっと、小鳥さんの翼に枝が刺さっていたみたいだから抜いていてあげたんだ」


「今の白い鳥エニイバードよね? とても臆病な鳥で滅多に人には近づかないんだけれど珍しいわね」


 あの白い小鳥さん、そんな名前の鳥だったんだ。臆病にはとても思えない。めちゃくちゃ俺の部屋に来るし。


「そんな事よりジュリア姉さんどうしたの?」


 俺がエニイバードに話しかけていたとか言われたくない為に、話を変える。


「あっ、そうそう母さんが呼んでいたわ。きっと勉強でしょう」


「えー」


「頑張ってきなさい」


「はーい」


 ジュリア姉さんが扉を閉めて離れていく。俺は勉強部屋へと向かうべく、窓を閉めて一階へと向かった。


 最近始まった勉強。言葉や計算ならば楽勝なのだが、貴族のマナーやアドレット王国の歴史などは全く新しい物なので覚えなくてはならない。


 どうせ俺は三男だから領地を継ぐわけでも無いのに勉強したって意味はないと思うんだけど。もう少し大きくなったら俺は冒険者になってこの世界を旅してみたい。前世ではあっけなく死んでしまって、満足に旅ができなかったからこの世界ではやってみたい。もう言語という障害は女神メリアリナ様のお陰で無くなったのだが、この世界には魔物という危険な障害がいる。


 それが不安なのだが、そんな事を気にしていては旅なんて出来ない。いざとなれば話せばわかるはずだから。


 世の中絶対なんてないんだから、勇気をもって前に進もう。


 でもやっぱり怖いので、しっかり魔法の勉強はしている。定期的にギリオン兄さんに見てもらっているのだけれど魔力の扱いの上達はしているのだろうか。


 まあ、とにかくまだまだ時間はあるから少しずつ努力をしていこう。


 グラディス兄さんや父さんに剣を習うのもありだね。




 ×       ×      × 



『ねえねえあれ何してんの?』


『知らねえな。紙になんか書いているんじゃねえか』


『紙? それって美味しいの?』


『いや、紙は食えねえよ』


 一階の勉強部屋でクレア母さん指導の下で授業を受けてうるのだが、凄く外から声が聞こえて集中できない。


 窓からこの部屋を覗いているのは、スモーキーと小鳥。小鳥はさっき来たエニイバードではなく灰色の羽毛をした小鳥さん。この間ゴブリンを森で見たという情報をくれた小鳥。


 翼の怪我はもう良くなったのか元気そうな様子だ。


 というかなんでここにいるのだろうか。


「ジェド君どうしたの? 集中できてないようだけど?」


 窓をチラチラと見ていた事がバレたのか、本を片手にした母さんが疑問の声を上げる。


「いや、大丈夫だよ」


「そう? さっきから窓を見てはそわそわしているようだけど、何かいるのかしら?」


 そう言って母さんは窓の方へと歩く。


『やばい、人間だ! 逃げろ!』


『ジェドじゃないの?』


『違う!』


『つまんねえの』


 母さんが窓を開けると、慌てた様子で窓からは小鳥さんが飛び立ち、スモーキーが離れていく。


 そして母さんはキョキョロと誰もいないか確かめると、窓を閉めて戻ってくる。


「野良犬がいたみたいね。さあ、続きをしましょう」


「えー、もう終わりでいいじゃん。歴史と貴族のマナーとか面倒くさい」


「ジェド君どうしたの? 言葉の読み書きや計算は天才的なのに他の勉強は嫌がるわね」


「だって、俺三男だから領地を継ぐわけでもないし、貴族のマナーとかいらないよ」


 歴史はまだわかる。けれど貴族のマナーとかどこで使うの? 俺三男だよ? 


「こんなにも読み書き計算ができて優秀なんだから、きちんと学校に通ったら宮廷勤めも十分狙えるのよ?」


「それメイド長のエレルカさんが言っていた事だよね」


「ええ、まあそうだけどね」


 メイド長のエレルカさんは宮廷でメイドとして働いていた事もあるらしく、この屋敷では俺達家族以外で一番の権利を持っているとても優秀な女性だ。


 色々と厳しいというのは本当だった。俺の授業を担当するときでも容赦がない気がする。


 だって読み書きも計算も次々と進んでいくのだから。


 評価をしてくれるところ申し訳ないのだけれど、俺にはそんなつもりは全くない。


「俺、宮廷で働いたり、どこかに婿入りする気もないよ?」


「ええっ!? それじゃあジェド君どうするの?」


 俺の言ったことが将来の予想図であったのか、母さんは酷く驚いた声を出す。


「……冒険者になって世界中を旅したい」


「えっ? ええええええええっ!?」


 なんかこの日の授業は早く終わる事になった。


 お勉強が早めに終わり、母さんはお父さんと相談することらしくどこかに行ってしまった。


 俺としては嬉しい事なのだけど、暇になったな。


 ちょっと散歩でもすることにしよう。


 村に遊びに行くと、オオノキさんに出会いそうな気がするので今日は森へ。


 庭で剣の素振りをしている、グラディス兄さんに声をかけて外へと繰り出す。


「魔物のいる森には近付くなよ」と睨まれてしまったので、比較的近い屋敷の裏の森へといく事にした。


 それにしてもグラディス兄さんは成長してどんどん父さんに似ていくよ。身長も大きく筋肉が付いてきて、もはや十二歳とは思えない貫禄だ。その筋肉をギリオン兄さんに分けて上げて欲しい。


 少し離れた西の森には行ったことがあったけれども、屋敷の裏の森には入った事がなかった気がする。


 なので、今日は何があるか確かめに行こう。何か美味しい木の実とか成っていないだろうか?




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