君は何色?
今日はカン吉と会うために村にきている。
馬車が駆け回り、相変わらず村ではあちこちから陽気な声が聞こえてくる。
特に家を作ったりする土木関係の人が一番忙しそうだ。
親方らしき小麦色のごついおっちゃんが、若者たちに何かと大声で言葉をとばしている。
それに若者達は大声で返事を返し、根性をみせる。ベテランの者も若者なんかには負けじと意地とプライドをかけて技を見せつける。
そのベテランの中には、以前ジュリア姉さんと見かけた黒髪の双子の兄さんもいた。
「おい、あれジュリア様の弟様じゃね?」
「ん? ああそうだな」
「ここでいいところ見せたら、ジュリア様にかっこよかったとか言ってくれるかもしれねえぞ」
「まじか! おら、お前ら声だせや!」
「おら、そこ! さっさと運べ。日が暮れちまうぞ!」
「マークとルーク! 声を出すのはいいがさっさと上から降りてこい。そこの測量終わっただろ! いつまでお山の大将をしている気だ?」
「「すんません!」」
う、うん。別に話したりはしないけど、名前だけは憶えておくよ。どっちがマークでどっちがルークなのかは分からないけど。
それでも何となく応援したくなる二人なので、手だけを振って通りすぎる。
「あはは、無理だよー」
「ハンナなら絶対いけるって」
「……私は小さい子が好きかな」
「あはは、リーナは相変わらずだね」
「可愛いのに趣味が本当に残念。男からの人気も高いのに」
目の前では少女三人組が楽し気な声をあげて歩いている。どうやら年頃な年齢のせいか恋愛の話でもしているようだ。
ハンナと呼ばれる少女が頬を赤くそめながら、はにかむように笑っている。
ところで銀髪の少女よ、君は同世代に興味を持とうよ。
「……あ、ワンちゃんだ!」
「あ、本当だ!」
「可愛い!」
『ん? おいらの事呼んだ?』
リーナという少女が指をさすと、二人の少女がきゃいきゃいとしながら駆け寄る。
『やっべー、おいらモテ期? モテ期なの!? やっべー、どうしよおいらには、マリア―シュというメスがいるのに』
「ワンちゃんだー。柔らかーい」
「モフモフー」
『や、ちょっと、お嬢さんたちモフルの上手いね。おいらお腹みせちゃうよ』
「わあー、お腹見せたよー」
「お腹もモフモフー、あはは、くすぐったいのかな。ぴくぴくしてる」
「……柔らかい」
何て平和な光景なんだろうか。少女たちは、道端に屈みこみ犬をモフモフとしている。
俺もモフモフとしたいところだが、男のあえぐ声を聞く趣味はないので遠慮しておく。
『おふっ! おふっ! もっとそこ! あーそこそこ! いいよいいよ! おいら堕ちちゃう』
本当にやめて欲しい。
白い目で犬を眺めていたのだが、犬の行動に何か違和感を覚える。どこか人間味があるような。一見快楽に堕ちてしまっているようにも見えるが、その瞳には確かな理性の色が見える。
あの犬は身をよじって何をしているんだ?
『あ、この角度。み、み、み、見え。もうちょい右。もうちょい! もうちょいで、パ、パ、パンツがっ!』
逆だ。瞳が濁りすぎている。
「あはは、くねくねして面白―い」
「この犬今は何を思っているのかな?」
「きっと、気持ちいいって喜んでいるんだよ」
「……なでなで」
残念ながらその犬は、あなた達のパンツを覗こうとしているただのド変態ですよ。
少女たちが純粋な会話をしている最中でも、このド変態はベストポジションを確保しようと必死に身をよじっている。
『お、おお。おおおおおおおっ! ピンクに水色に……は、肌色? あれ? お? え? これ布じゃなくない? じゃあこれ何? えっ? はいてないの! 嘘だろ!』
え、え? ちょっと赤毛のハンナがピンクで、金髪の少女が水色なのはわかった。
でも最後のはいていないってどういう事なの? え? リーナという銀髪の少女はパンツはいていないの!?
ちょっとそこの所詳しく!
『あ、噂のジェドだ。おーい、話せるんだって? おいらと駄弁ろうぜ』
犬が俺に気付いたのか、急に立ち上がり俺の方へと寄ってくる。
噂ってなんだよ。
「あ、ジェド様だ」
「「こんにちわー」」
「あ、はい。こんにちは」
犬がこっちに来たせいで視線を集めてしまった。とりあえず無難に挨拶を返して去ってしまおう。
あれ、リーナという少女がやけに睨んできているような。何か怒らせる事をやってしまっただろうか。
とりあえず挨拶だけはしておこう。
「こんにちは」
「……こ、こんにちは」
表情は乏しいけれど顔立ちはとてもよく、切れ長のまつ毛から見える灰色の瞳はどこかミステリアスで他の子供とは違った魅力がある。絹のように艶やかで長い銀髪の髪は、立っているだけでも男の視線を集めるであろう。
男の子に人気があるのは当然だね。
でも、この子がはいていないのか……。
「それじゃあ」
『ちょっと、どこ行くんだよ』
「馬のカン吉に会いに」
『あ、すげ。本当においら人間と会話しているよ。カン吉って事は西の牧場か。付いていってやるよ』
「いや、別にいいよ」
『えー、さっきのパンツの話をしようかと思ったのに』
「行くぞ親友」
『ははは、そうこなくちゃ』
俺は再び道を歩き出し、その隣を犬がてくてくと付いてくる。
人気がないことを確認して、俺はさっそく疑問を尋ねた。
「で、はいていないってどういう事?」
『慌てんなって。まずは自己紹介からいこうぜ親友』
× × ×
「やっぱりジェド様は可愛いし礼儀正しいし。さすがジュリア様の弟さんだよね」
「うんうん、年上の私達と同世代の男の方がよっぽど子供に見えるよ」
「あ、わかるー。アイツら子供だよね。ジェド様の方が落ち着いているし大人だよ」
「……今の誰っ!?」
「え、ええ? リーナ知らないの? ここの領主ジェラルド=クリフォード家の三男。ジェド=クリフォード様だよ?」
「……初めて知った」
「あはは、リーナはほとんど男なんて眼中にない感じだったしね」
「……ジェド=クリフォード……ジェド……ジェド様……いい笑顔。小さい。可愛い」
「うおおおっ?」
『ん? どうした? 女の子がパンツをはいていなかったという衝撃の事実を聞いて戦慄しているのか?』
「いや、それは確かに凄い事だったけど。何かこう、嫌な予感がしたような」
何というか、獲物に補足されたような。そう、これは悪寒というやつだ。
『気のせいだろ? ところでジェドは何色のパンツが好き? おいらはやっぱり黒かな』
「……内緒……」
皆さんは何色がお好きで?




