オーク
おかげさまで週間ランキングにランクイン感謝です。
それぞれのお腹が膨れたところで、冒険は再開された。
適当に処理をして、木の串で刺して焼いただけのものだったのだが、ゴブリン達はいたく気に入ったらしい。
俺からしたら焼いて食べるという事を考えない方に違和感を覚えたのだが、それは魔物と人間に好みやら色々あるだろう。
火を起こすにも魔法の使えないゴブリンからしたら一苦労だろうに。生で食えるなら生で。
まあ、火の起こし方すら知らなった可能性はあるが。
湖を越えると、道も少し広くなり大分歩きやすくなった。木の実を成す植物も増え、それを目当てにした動物達も集まり大分賑やかな様子だ。
確かにここなら場所がいい。日当たりもよくて食べ物も豊富だ。オーク達がゴブリンから洞窟を奪ったのも納得だ。
『母ちゃん人間だ!』
『こら! 人間は怖いのよ! 不用意に近付いちゃ駄目でしょ』
『ごめんなさい』
『いいのよ。ほら、あっちに木の実があるから捕りに行きましょ』
『うん!』
とまあ、こんな感じにちょくちょく兎やらイタチみたいな動物の声も聞こえてくる。
少し賑やかすぎるくらいに。
『そろそろだ』
『俺達の住処にしていた洞窟の近くだ』
『準備はいいか?』
「う、うん」
一度オークにやられただけはあって、三匹のゴブリン達の表情は真面目だ。
緊張の雰囲気を保ったまま、俺達は道を進む。
するとじょじょに崖らしき岩肌が見えてきた。どうやら崖を掘ってできた洞窟らしい。それが人工的な物なのか、自然に出来たものなのか、魔物が掘り出した物なのかはわからないのだが結構な大きさである。大の大人が二人分くらいの天井の高さだ。
洞窟の入り口にオークの気配はない。奥にいるのか近くを徘徊しているのか。
「オークはどこにいるんだろう?」
『やっぱ中じゃねえか?』
『入口しか見えねえからわからねえな』
「君達仮にも住んでいたんだから秘密の通路くらい知っていたり、作っていたりしないの?」
出入り口が一つしかない洞窟だ。それくらいの策はしておくべきだ。よっぽど正面からの戦闘に自信があれば別なのだが。
『あー、何か皆で作った道があったような』
『そういや、何か掘ったな』
『掘った』
「おお!」
『『『でも忘れた』』』
「本当つかえねえ」
『『『うっさい!』』』
『誰かいるのか?』
「…………」
『『『…………』』』
突然投げかけられた、低く重い声により俺達は声を出すこともできなくなった。
やばいよ。これ絶対オークだよ。
ずしずしと響く足音。入口部分しか日が当たらない洞窟のせいか今は足音しか聞こえない。
それでもその声と地面を震わす足音から、相当な巨体であることは察しがついた。
そしてその音はやがて大きくなり、その姿が日の下に晒された。
大きな鼻に、凶悪な天を貫かんとする大きな牙。それは豚や猪の顔を連想させ、肌は像のように灰色だ。二メートルを越える巨体で、石から加工した棍棒のような物が手に握られている。
その巨体から振るわれる棍棒を受けたら、大の男でも即死は免れない。そんなイメージをすぐさま抱くほどだ。
なんという存在感だろうか。
それにこのオーラ……ただ者ではなさそうだ。なんとなくそう思う。
『……何だゴブリンか。洞窟でも取り返しに来たのか?』
俺達を見るなり億劫そうな声を出す。明らかに俺達を舐めている様子だ。
『違えよ。俺達は案内人』
『そうそう。決して戦いに来たとかではない』
きっぱりとギギとザブが言い放つ。
自分たちが戦う可能性が全くないと、しっかりしているんだな。
『案内人? 誰のだ? どこぞの強者でも引っ張ってきたのか? どこだ?』
オークは不敵に笑うと、顔をきょろきょろと動かす。
おい、どこを見ているんだ。お前の目の前にいるじゃないか。
「ここだよ」
『……ああん? ゴブリンが四匹いるだけじゃねえか? 舐めているのか?』
「表へ出ろ! このくそ豚!」
『上等だ! すでに表に出てるわクソゴブリン!』
そんなにか……そんなに俺の顔はゴブリンなのか? 俺、実はゴブリンと人間のハーフなんじゃ。いかんいかん。あまりの言われように気が弱くなってしまった。
俺の母親は美人なクレア母さん。正真正銘の人間。俺の父親はちょっとゴリラっぽいけど人間の父さんだ。多分。
母さんがゴブリンと浮気なんてしているはずがない。というかそんなことを考えたくもない。
つまり見間違えるお前が悪い。
俺はやけくそ気味に風の初級魔法を唱えた。
「【ティム・シュラーク】」
俺が紡いだ『魔法言語』に反応して周囲から風が集まる。やがて収束した風は大きなうねりと轟音を上げる。
『え? 魔法? じゃあお前ホブゴブリン?』
「違うわ!」
俺の怒声とともに竜巻は真っすぐにオークへと吹き荒れる。
あっけにとられていたオークは防御をすることもなく、暴風に晒されて洞窟へと飛んでいく。
「しまった! 平和に話し合いをするつもりだったのに!」
『『『おい』』』
「まあ、いいだろう。冷静に話を聞いてくれそうになかったし」
『そ、そうかぁ?』
『誤解を解けば、争わずに済んだだろ』
『そうそう。いきなりキレて魔法ぶっ放すんだもん』
「……くっ、珍しくお前たちが正論っぽい事を言っている」
ゴブリンの癖に知恵をつけやがって。
『あんたぁ! 大丈夫!?』
『貴方!』
『……ッつつ、大丈夫だ。問題ない』
洞窟の奥からはそんな女とオークの声が聞こえる。
「……貴方?」
『『『あなた?』』』
俺達は同様に首を傾げた。
見ると、奥からは二体のオークが尻もちついたオークへと心配そうに駆け寄る。その姿は最初のオークと同様に似ているが、牙が短かったり体が一回り小さい。声からしてメスなのであろう。恐らく仲間か。
『……あんた、あれ人間よ』
『本当だわ』
『お、おう。やっぱり人間だったか。よく見たらホブゴブリンの魔法とは違うしな』
『『気付いてなかったのね』』
『い、いやそんな事はない』
「どう見ても人間だろうが!」
俺の声を聞くと、三体のオークは目を見開いて一斉にこちらを見る。
『あれ、人間の声が!』
『私にも確かに聞こえたわ』
『最初は言葉がわかるから、ゴブリンが話しかけて来たと思ったが』
『『あの人間の声がわかるわ!』』
『……もしかして俺達……オークキングになったのか?』
『あんたぁ!』
『貴方!』
『やったな! 俺達オークキングになれたんだぞ!』
感極まったのか俺達の前にいるにも関わらずに、熱い抱擁を交わす。
なんでゴブリンと言い、まずはキングになったと思うかな? もうそれいいよ。
『やっぱ、最初はそう思うよな!』
『それそれ』
『俺達も若い頃はああだったな』
ゴブリン達は、腕を組み暖かい眼差しでそれを見つめて感傷に浸る。
何が『うんうん』だよ。
「いやいや、今日の午前中にやったじゃん」
言語については次の話で少し説明っぽいものがはいります。




