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休息地

六十万PV突破。嬉しいです。

 

 俺は今ゴブリン達に案内をされて中央部へと移動している。前からギギ、丸い体型のベル、俺、後ろにザブという陣形で進んでいる。まあ、何かあればすぐに瓦解しそうではあるが。


 鬱蒼と生い茂る木々に囲まれている道。かろうじて上には枝葉が無いので太陽の光が降り注いでくるが、道は細く迷路のように枝分かれしている。このゴブリンは迷わずにすいすいと歩いていくが、俺一人だと迷子になっていたのは確実であろう。


 ゴブリンと出会ってからは鳥達も近付いて来ないし。多分遠巻きに眺めているんだと思う。


『歩くぞ歩くぞ。ドンドン行くぞ』


『へい! へい! へい!』


 ギギが丸太で邪魔な枝や木をかき分け、道から逸れて茂みへと入る。そっちは近道なのだろうか。


「道を進まないの?」


『こっちが近道」


 顔を後ろに向けて聞くと、ザブがしっかり頷いた。これなら安心できそうだ。


 それにしても変な歌声だ。あの子豚達に聞かせたら激怒しそうな程だ。


 そんな俺の心境も知るはずも無く、二匹は陽気な歌声を上げながら前を進む。


『ひええええっ!?』


「どうした?」


 突然、ギギ達の陽気な歌声が無くなり悲鳴が上がる。


 どうしたのか。もしかしてオークでも現れたのだろうか。そう思った俺だが、二匹の視線が上では無く下に向いていることに気が付く。なぜに下?

 体をずらして視線を辿るとそこには、細長い体でにゅるにゅると動く蛇が。


「……ただの蛇じゃん」


『毒とか持っていたらどうするんだ!』


 そう叫び、ギギとベルは丸太を構える。しっかり構えているようだがめちゃくちゃ腰がひけている。


 そんなゴブリンの事などお構いなしに蛇はゆうゆうと、俺達の前を横断する。


「そんな凶暴そうに見えないし、毒とか持ってるの?」


『わからん』


『毒なんてもってないわよ』


 すごく女らしい声が聞こえた。 どうやらこの蛇はメスらしい。そう言えば、オスのほうがやや攻撃的で行動的であり、メスの方がやや大人しいって聞いたことがある。


この世界でも通用するかはわからないけど。このゴブリンを敵とも思っていないようだし大丈夫だろう。


「毒なんて持ってないってさ」


『お、おお、そうか。動物と話せるんだったな』


『それなら安心だ』


『毒に警戒していただけだからな?』


「はいはい」


 念のために俺達は長い蛇の横断を見送ってから、進行を再開した。



『着いたぜ湖』


 茂みを抜けると、大きく広がる湖へと出た。汚れが全くない澄んだ水には多くの魚の影や、すいすいと泳ぐカモらしき姿が。遠くでは水鳥が水の上を歩いているかのようにしなやかに歩いている。そして水の上では色鮮やかな蝶々が戯れるように飛び回る。


 まるでここは生き物の休息地のようだ。


『綺麗だろ。美味い魚がいっぱいいるんだぜ』


『水も綺麗だしな』


「へー、綺麗だね」


 のどかな景色に目を奪われながらも、湖の形に沿って陸を歩く。


 すると近くではこんな声が聞こえてきた。


『はあー……天気いいなあ』


『ほんまそれ。絶好の日向ぼっこ日和やわ』



 ぷかぷかと浮いているカモからは、気持ちよさそうな声が。


 なんだかすごく気持ちよさそうだ。俺もああやってぷかぷか浮いていたい。


『今日は一日ずっと浮いてよか。泳ぐのも足使うからしんどいし』


『それな。優雅に見えるけど俺達めっちゃ必死に足動かしているからなぁ』


『その割に全然進まんから割にあわへんわ』


『へへへ、ほんまそれ』


『あー……いいわぁ。この感じ。全てを流れる水に身を任せる感覚』


『それな。世の中水のように形を変えて、柔軟に生きていかんとアカンからな』


『上手い事いうなぁ』


『お前こそ』


『『へへへへへ』』


『あ、タニシや』


『ほんま? 俺にもくれ』


『ああ、ええで。これも流れる水のお導きやな』


『せやな。感謝しよ』



 何かコイツらめっちゃいいスローライフをおくっているように見える。不思議とあんな生活も悪くないと思ってしまうのは俺だけであろうか。


『あー、流れるー』


『耐えろ。それも試練や』


 何とも力が抜けてしまう声を聞いてしまった。何だか休憩をしたくなってしまった。


 そう言えば俺も何も食べていない。お腹が空いたな。


「少しここで休憩しない?」


『確かに疲れたし、お腹すいたな』


『賛成。あそこの木の下で休もうぜ』


『いいね』


「魚でも捕まえて焼く?」


『『『え? 魚って生で食べる物じゃないの?』』』


 見事にはもって返された。


「いや、俺達人間は胃袋強くないし火を入れないと食べられないよ」


『そうなのか?』


「塩は無いけど火で焼いたほうが美味しいと思うよ?」


 本当に塩が無いのが、残念だ。この近くで岩塩が採れるって聞いた事があるけどわからないや。


『それも一興』


『なら試すか』


 と、意気揚々とゴブリン達は水辺へと駆けだした。


 とにかく焼き魚に興味を持ってくれたらしい。それがゴブリンのお口に合うかは分からないけど。


 そう思い俺は一人木陰へと座りこんだ。俺は調理担当なので問題ない。魚を運んできてからが仕事だ。


 水辺では三匹のゴブリンが楽しそうに湖ではしゃいでいる。まあ、水のかけ合いくらいはいいだろ。女の子じゃないのが非常に残念なのだが。


 少しすると飽きたのか、本格的に魚を狙い出した。


『おい! そこにいたぞ!』


『追い込め! 追い込め!』


『あー! 何でそっち行くかな!』


 どうやら手掴みで魚を取ろうとしているらしい。さすがゴブリン、ワイルドだな。


『ベル! 股の下だ!』


『え? フンっ!』


『惜しい! もうちょいだったのに』


 かれこれ十五分以上たったが、未だに魚は一匹も取れない。心配になってきたな。


「ねー、まだー?」


『もうちょっとだ! 待っとけ!』


 そう答えると派手に水しぶきを上げながら、水を歩く。


 そうは言われても一向に捕まえられる気がしない。


『うおー、水が揺れてる』


『ほんまや。でも心地ええわ』


 遠くではさっきのカモの、のんびりとした声が。


 羽に顔を埋めて水上で寝ているのか、とても気持ち良さそうだ。


『よっしゃ! 魚をどっちが多く捕れるか勝負だ!』


 俺の上を大きな影が通過して、現れたのは大きく白い羽毛を持ったペリカン。


 二羽のペリカンは空中でバサバサと大きな羽を動かして、何やら会話をしている。


『わかった。どっちが最終的に多く捕れるかやな?』


『おうよ。じゃあ俺から行くぜ』


 そう言うと、一羽のペリカンが旋回し、大きく助走をつける。空中からの勢いと羽ばたいた羽の速さで勢いつけ、大きく嘴を開いた。


『よっしゃあ! 大漁!』


 見ると、ペリカンの口の中ではたくさんの魚達が体をくねらせていた。


『やるねえ! 次は俺だな』


 同じように、もう一羽のペリカンも勢いをつけ、降下する。


 そのスピードは先程のペリカンよりも速い。


『だらっしゃあああ!』


『おおお!』


「おおお」


 俺も思わず感嘆の声を上げてしまった。さて、あのペリカンはどれくらいの魚がとれたのやら。


『捕れたぜ!』


 嘴いっぱいにつめ込んだペリカンは、何とか上空に上がる。


『お前亀とか入っているぞ』


『うわ、本当や気持ち悪い……うええぇ』


『魚だ! 魚が降ってきたぞ!』


『行けー! 今ならキャッチできる』


『おっしゃああああ!』


 うええ。あいつらペリカンの吐いた魚を捕る気かよ。何かあれ勢いよく突っ込んだせいか土まみれなんだよね。


 ここはもう一羽のペリカンさんに分けてもらおう。


「そこのナイスなペリカンさん!」


『『おう!』』


 あらやだ、二人とも反応しちゃった。


「お魚分けてくれませんか?」


『魚か?』


「そうそう!」


『おお! 会話ができるぞ! お前が噂の動物達と会話できる子供か!』


『あの小鳥達の話、本当だったのか!』


『まあ、こうやって知り合えたんだ。分けてあげよう』


 そう言うと、ペリカンは俺の下へと着地し、魚を五匹ほど分けてくれた。


「ありがとう!」


『構わんさ。困った時は助け合いだ』


『そうそう』


『……お前は一匹も捕れてないじゃないか』


『てへ』


『それじゃあ、人間の子供。また会おう』


 そういうと二羽は大きく羽をはためかせて、大空へと飛び立った。


『ジェドー! でかいの捕れたぜ!』


 すると湖からは、三匹のゴブリンが大きな魚を掲げて走ってきた。

 多分土まみれだから、さっきの吐いた魚であろう。


『うおおお! ジェドも捕っているじゃねえか!』


『いつのまに!』


「ああ俺はここの小さいの二匹でいいよ」


『本当か!? お前実は良い奴なんだな』


『いい奴だぜ』


『嬉しいぜ』


 いや、俺は子供だしそんなに沢山食べられないから。それに大きいのも土まみれだし、まずそうな見た目だから食べたくないだけなんだが。

 まあいっか。


「それじゃあ、調理するか!」


『『『後は任せた!』』』


 まあ、そうなりますよね。


カモがお気に入りです。



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