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俺達ゴブリンお前ホブゴブリン?

 

 森では三匹のゴブリンと俺がお互いに睨み合っている。


 どちらも相手を警戒しているのか、動くことはない。


 ちなみに俺の肩に止まっていた小鳥さんは恐怖により飛び立ってしまった。


 薄情者め。白パンはもうやらん。


『おい、あれ人間のガキだよな?』


『それも男だ』


『やべえぞ人間だ! 俺達に襲いかかってくるよな?』


『当たり前だろ。アイツら問答無用で攻撃してきやがるんだから』


 ひそひそとゴブリン達が会話をする。このゴブリン達からすると人間=攻撃してくる生き物らしい。俺達人間の認識とそう変わらないな。


 いきなり襲って来ないところからすると、このゴブリン達の気性は荒くなさそうなのだが。


 案外言葉とか通じるのだろうか? 話しかけてみるか? いや、今はとにかく情報が欲しい。もう少し待ってみよう。


『どうする殺るか?』


『やるしかねえだろ』


『人間と戦った事ある?』


『『ない』』


『だよねー。俺達の武器丸太しかないや』


『こいつさえあれば十分よ! 幸い相手はガキだ。俺達三人がかりなら何とかなる』


『でも、人間って魔法使うよな? 大丈夫かよ』


 無骨の丸太を手にしながら、三匹のゴブリンは未だに攻撃を仕掛ける事はない。臆病なのか、意見が纏まらないのか。


『あんなガキが魔法を使える訳が無いだろ』


『えー、でもそう言って、ギルは丸焼きになって死んだじゃないか』


『まあ、あいつはその、あれだ。運が悪かったんだよ』


 彼らは敵が目の前にいるという事を覚えているのであろうか。そんな事を思ってしまうくらいに話し込んでいる。


『ところで、あの人間攻撃してこないね』


『そういや』


『動かないね』


 丸いゴブリンが呟いた一言により、再び意識がこちらに向いてくる。


『……もしかして、俺達にびびってる?』


『もしかして俺達いつの間にか『威圧』なるものを持っているんじゃ!?』


『だとしたら相手が動かないことに納得がいく!』


 そしてゴブリン達はお互いの顔を見やると、醜悪な顔をさらに歪ませる。


『ならば強気にいってみるか』


『『威圧』を持つ俺達ならばいけるぞ。あれは確か格下にしか効かないはずだったから』


 そう言いながら、ゴブリン達はゆっくりと大股で肩を揺らしながら俺に近付いてくる。


 歩き方がどうみてもチンピラなのだが。


『おらぁ! ガキンチョ! いい物だせや!』


『逆らったらギタギタのメッタメタにしてやるからな!』


『まあどうせ伝わんねえけどな』


 この世界にもジャイアンのような言葉を使う者がいるとは。しかもそれがゴブリン。


「伝わっているよ」


『『『ッ!』』』


 俺がきっぱりと返事をすると、ゴブリン達は体を大きく反らして驚愕をあらわにする。


 反らせすぎて引き絞られた弓のようだ。


『……おい、今人間の言葉がわかったんだけど』


『俺もだよ』


『ああ、確かに今『伝わっているよ』って聞こえた』


 きょとんとした表情をするゴブリン達。大きな耳をパタパタと動かしているのは焦っているからなのだろうか。


『ちょっともう一回話しかけてみるか?』


『そうだな。聞き間違いもあり得る』


『やーい! ばーか、間抜け、アホ!』


 もっとマシな罵声はなかったのであろうか。まあゴブリン達の知能を考えるとこんなものなのかもしれない。


「……その言葉、そっくりそのまま返すよクソゴブリン」


 俺のその言葉を聞いて体をわなわなと震えさせるゴブリン達。やばい、もう怒ったの? 沸点が低すぎやしないだろうか。


 そう思い俺は『魔法言語』による呪文を唱えようと準備をする。


『……やべえ! 俺、人間の言葉がわかるぞ!』


『俺もだ! もしかして俺達知性上がった!?』


『『威圧』と言い、人間の言葉が理解できる程の知性の向上!』


『『『ひえええええ!? 俺達ゴブリンキングになったのか!?』』』


 そんな俺の様子も気にすることなく、歓喜の悲鳴を上げるゴブリン達。


 いや、無いから。俺の『全言語理解』の力のお陰だから。


「いやいや君達は普通のゴブリンだって」


『『『なんだって!?』』』


『……もしかしてお前、実はゴブリンなのか?』


『確かに。ちんちくりんだし鼻とか目元とか面影があるかも』


『もしかしてハーフ?』


「それは俺の顔が醜いって事なのか?」


『『『上等だ! 表に出やがれ!』』』


「いつでもかかってこい! 返り討ちにしてやんぜ!」


 俺は即座に構え、ゴブリン達が怒りに満ちた表情でこちらを睨む。


『こっちは三匹もいるんだ』


『泣いたってえ許してあげないからな?』


『そうだぜ。俺達はゴブリンキングなんだぜ?』


 まだゴブリンキングだと思い込んでいるのかよ。大体朝起きたらゴブリンキングになっていました! なんてことがおきるはずが無いだろうが。


 この発想に辿りつけないあたりがゴブリンなのだろう。知性はそのままだ。


 黒い笑みを浮かべてにじり寄るゴブリン達にたいして、俺は『魔法言語』を唱える。


「【ラ・ヴォルカ・マーノ】」


 そう唱えると俺の右腕が瞬く間に炎に包まれる。勢いよく燃え盛る炎はまるで意思を持っているかのように動き、大きな手の形となる。


『……な、なあ、めっちゃ手が燃えてね?』


『お、お前熱くないのかよ!』


『やめろよこんな森の中で! 火事にでもなったらどうするんだ!』


『そうだそうだ! 少しは考えろ馬鹿!』


『森の中で火使うとか頭悪いのか!』


 炎を見るなりゴブリンはめちやくちゃ怒り出した。なんだろうこの理不尽さは。


 確かに俺の魔法は『魔法言語』に頼っているせいか、コントロールが怪しいのだが周りを燃やすなんて真似はしない。


『おい、馬鹿! 木に近いっての!』


『燃える! 燃えるだろーが!』


「うおっ!」


 ゴブリン達に指を指されて気付いた。


 危ない。いつの間にか炎が大きくなりすぎていて木に燃え移るところだった。


『『『ふう』』』


 俺の魔法が消失した事で火事の心配がなくなり大きく息を吐く。


『本当にお前人間かよ! もうすぐで火事になるところだったじゃねえか!』


『お前の知性いくらだよ! ああん?』


『お前本当はゴブリンだろ!?』


『魔法を使えるホブゴブリンだろ?』


 コイツら、好き放題に言いやがって。俺がゴブリンな訳がないだろ!


 さすがに頭にきたので、今度は怒られないように違う属性の魔法を使う。使うのは土属性の中級魔法。


 ちなみに俺が使える魔法の属性は六属性。これも女神メリアリナ様の加護なのかは知らないけど。普通に唱えたら成功した。何かギリオン兄さんにも見せるのがアレなので秘密にしている。


「【ロ・ゼルド・エイク】」


『『『うおおおおお! 地震だ!』』』


 ゴブリン達の足元を中心に大地が陥没していく。地に足をつけるゴブリン達は当然その崩落に巻き込まれる。


『奈落の底にまで落ちるー!』


 ゴブリンの悲痛な叫びが響き渡る。


 そんな訳があるか。せいぜい五メートルくらいの深さだろうに。


『痛え! 腰打った』


『尻が三つに割れたかもしれねぇ』


 陥没した穴からはそんな声が聞こえてくる。やっぱりゴブリンにもお尻があったのか。いや、そんな事はどうでもいい。


 穴ををのぞき込むと、身体が砂まみれになっているゴブリンの姿が。そいつらは俺を見上げるなり再び怒声を投げかける。


『おい! 地盤が緩くなったらどうすんだよ!』


『そうだそうだ! こんな穴開けちまって、皆の事を考えろよ!』


『そんな事もわからねえか?』


 なぜだろうか。俺が絶対的な優位を持っているはずなのに、この言われようは。


 ああ言えば、こう言う。どっかの自然保護団体か何かなのだろうか。


 俺が生殺与奪を握っている事を理解していないのか?


『おら出せよ!』


『出せよ! ついでに飯よこせ!』


『穴を埋めろ!』


 下でぶーぶーと喚くゴブリン達に向かって、俺は問いかける。


「……今穴を埋めたらどうなる?」


 するとゴブリン達は顔を見合わせて、考え込む。


 いや、そこ考え込むところじゃないから。


『そりゃあ、俺達も土に埋もれるわな』


『埋もれるな』


『埋もれる』


「そしてその土を埋める事ができる魔法使いは?」


『『『お前。ホブゴブリン』』』


 そう声を揃えて指を指した瞬間に、俺はじょじょに穴を狭める。


『『『ひいいいい! ごめんなさいいい!』』』


 森には大きな悲鳴が響き渡った。



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