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三匹のゴブリン

 怪我をした小鳥からゴブリンの目撃情報を聞いて、二日後の朝。


 俺は一人で森へと向かっていた。屋敷からの道を下り、双子のお兄さんがいた所を右方向に曲がれば西の森だ。


 村から反対方向には家は全くなく、畑と平原が広がるだけである。


 後は鬱蒼とした森が多く広がっている。


 その中には多くの綺麗な川や木の実といった自然の恵みが豊富にあるのだが、ゴブリンやオークをはじめとした凶暴な魔物や、動物が存在するために人々はあまり近寄らない。


 冒険者に護衛なり採取を頼めば安心なのだが、このような小さな村にはやってくる冒険者も少ない。もう少し大きく、過ごしやすくなれば住み着いてくれる冒険者もいるかもしれない。


 じょじょに畑がなくなり、開拓していない平原、そして森へと足を踏み入れる。


 白パンを報酬に道案内を引き受けてくれた青い鳥さんとは、森の入口で待ち合わせのはず。一体どこにいるのであろうか。


 そう思い首を動かす。


 人気のないのどかな森。気持ちのいい風が頬を撫で枝葉を揺らす。


 様々な方向から聞こえる小鳥のさえずりは、音を奏でて美しいものになるはずであったのだが……



『『今日も昇るよ太陽サン』』


『『太陽サンサンおはようサン!』』


『『君がいるから笑うのさ』』


『『心も身体もポッカポカ』』


『『翼を揺らして風を切る』』


『『草木もつられて歌い出す』』


『『サンサンサンサンおはようサン!』』


『『いえーい!』』


『今のいい感じ? いい感じ?』


『サビのところもっと声大きくしてもいいんじゃね?』


『そうかもな』


『音どうする?』


『俺達ボーカルが多いからな』


『ていうかボーカルしかいねえ』


『翼じゃ楽器使えねえよ』


『全くだ』


『じゃあ、ジェドに頼もうぜ! アイツなら人間で俺達の言葉わかるし!』


『『『それだ!』』』


 俺の中から美しい小鳥のさえずりというイメージが崩れ落ちる。


 …………青い小鳥が何十羽。百に届くか届かないかという数の小鳥が歌を歌っていた。


 小鳥たちは歌い終わると満足げに、各々の感想を語りだすのだが……


 なんだか俺もあの歌に参加させられてしまうらしい。しかも楽器担当。


 もし参加させられたら、音楽性の違いという奴を盾にして即座に辞めさせてもらおう。


『お、噂をすればジェドじゃねえか!』


「やあ、やってきたよ」


 高い木の枝にとまっていた鳥が俺に気付く。


 それに従って多くの小鳥達が『ジェドだ』と波紋を広げたように連呼していく。


『なあジェド! 話があるんだけどよ』


「楽器の話ならまた今度ね。今日は違う目的で来たから」


『んん? それもそうか。まずはゴブリンの事にケリを付けてからだな! その後に俺達のバンド『バードストライク』結成だ!』


『『いえーい!』』


 バードストライクって俺達の世界でよく起こる事故じゃないか。


 主に航空機と鳥が衝突するやつ。


「じゃあ、斥候と道案内頼むよ」


『『おっけい』』


 声を揃えてそう叫ぶと一斉に飛び立ち、一羽が俺の右肩に止まる。


『案内は俺がするぜい』


 全身が青い毛並みの小鳥。よく見るとお腹の毛の色が明るいオレンジ色をしていて綺麗だ。


 頭にちょこんと伸びた毛が何とも可愛らしい。


「よろしくね」


『おう!』


 俺達は挨拶をして歩き出す。


『……ねえ、白パン無い?』


「……もう少し後で」




 それから俺は小鳥達に案内をしてもらい森を進んだ。


 危険な場所や、動物、魔物と出会うことなく安全に進むことができた。時には美味しい果物の成る木も教えてもらい、小鳥達と楽しく森を歩く事が出来た。


『いたよ! 奴等だよ』


 一羽の鳥が羽ばたきながら報告をしてくれる。


『兄貴、でやしたぜ!』


 この声は俺の肩にとまっている小鳥。あまりにも白パンを強請るので仕方なくあげたら兄貴と呼ぶようになった。


「場所と数は?」


『このまま真っすぐに百回くらい羽を羽ばたいたくらいかな?』


「いや、俺小鳥さんじゃないから、わからないんだけど」


『結構近くってことです!』


「う、うん。わかった」


 小鳥との感覚の違いに悩みながらも、俺は気を引き締めて足を進めた。


 すると十五分くらい歩いたところで、少し道幅の広い所に出た。


 周りは木の他にも大きな石の重なりが囲んでいる。その重なり合った石の隙間からは、丁度三匹のゴブリンが出てくるところだった。


『いんやー、よく寝たぜ』


「…………」


 その声を聞いて俺は絶句した。まさかとは思ったのだが、魔物の言葉までわかるとは。


 頭が痛くなるのを感じながらも、茂みに隠れてゴブリン達を観察する。


『全くだな』


『それより俺腹減ったぜ』


 何と言うか……とても人間らしい。それぞれのゴブリンは大きく老人のようにポッコリとしたお腹をかきむしりながら、あるいは伸びをしながらゆっくりと歩く。


『兄貴ゴブリンですぜ。なんて醜悪な顔をしているんだ。こりゃ、相当な悪ですよ』


 耳元で小鳥囁いてくる。


 そうだろうか。俺には朝日を気持ちよさそうに浴びるおっさんにしか見えないのだが。


「小鳥さんはゴブリンの話し声が聞こえないの?」


『まあ、聞こえたり聞こえなかったり様々でやんすね』


「一応話は通じるんだ」


『まあそれでも、魔物は大体が凶暴な上に強いでやんすから』


「まあ話せない魔物もいるし。そうだよね」


 絶対的優位な魔物が小鳥とまともな会話をするかと言われると厳しいだろう。


 人間でもそれは言えることで、身分の低いもの、力無き者は問答無用で淘汰されてしまう。


 常に下にいる者の言葉を上にいる者が聞き入れる訳がない。


 ましてや生きる為なのだとしたら尚更であろう。



『お前がこの間の鳥を逃がさなかったらなあ』



『いや、石ころ投げて当てただけでも上出来だろう!』


『焼き鳥食いたかったなー』


『やっぱももだな。あのずっしりとした食べ応え』


『いや、皮だろ皮。血のソースをかけてあの弾力を味わうんだ』


『いや、心臓だろ。あの力がみなぎってくる味』


『まあ、あんな小さな鳥じゃあ、たいして食えないけどな』


『『それな』』


 本当にただの好きな部位を語っているおっさんにしか見えない。


『人間だ。人間の匂いがする』


 すると一匹の少し背が小さく、丸い個体のゴブリンが大きな鼻をスンスンと鳴らす。


『『まじか!?』』


『どこだよ?』


 ゴブリン達は辺りを歩き回る。


『やばいっすよ兄貴!』


 突然、魔物に襲いかけられてしまう恐怖からか、俺の体に緊張がはしった。


 もう少しどんな奴等なのか観察しておきたかったのだが、やるしかないのか。


『こっちだ!』


『お! あっちか!』


『行ってみるぞ!』


 ゴブリンのその声と同時に、俺は茂みから立ち上がり『魔法言語』を唱えようとする。


 しかし、見えたのはこちらを向いた三匹のゴブリンでは無く、反対方向へと向かい背を向けたゴブリン達の姿であった。


『どこにいんだよ!?』


『どこにもいねえじゃねえか!?』


『あれー? おかしいな』


『ったくよ! お前に期待した俺が馬鹿だったぜ』


『全くだ』


『確かに匂いがしたんだけどな』


 そう言いながら、顔が細長く少し長身のゴブリンと、顔が四角い普通サイズのゴブリンが、丸いゴブリンを叩く。


『……あ、人間だ』


『……本当だ。人間だ』


『本当だ!』


『『お前が匂いに気付いたんじゃねえのかよ!?』』


 と二匹に頭を叩かれる丸いゴブリン。


 何か聞いていた魔物のイメージと違う。


『心サンサン! おはようサン!』


歌手『バードストライク』


作詞者・作曲者・編曲者『錬金王』


カテゴリ 小説家になろう


『『今日も昇るよ太陽サン』』

『『太陽サンサンおはようサン!』』

『『君がいるから笑うのさ』』

『『心も身体もポッカポカ』』

『『翼を揺らして風を切る』』

『『草木もつられて歌い出す!』』

『『サンサンサンサンおはようサン!』』


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