ツキノワグマ(作:奈月ねこ)
吹雪いてきた。そんな中、真っ白な雪の上に鮮血が散る。
明男は地元の猟友会のメンバーだ。ツキノワグマが出没したとの報告を受け、他のメンバーと一緒に駆除に乗り出した。雪の降る中ではあったが、被害が出てからでは遅い。猟友会のメンバーは行動を起こすことにした。
少しずつ雪の降り方が強くなってきた気がする。しかし猟友会のメンバーにとってこの山は庭のようなもの。はぐれないように少しずつ進む。とそのとき、一陣の風が明男を襲った。風に耐えきれず、山道を踏み外してしまった。
「明男!」
仲間の声が遠くから聞こえた。
ここはどこだ?明男は気を失っていたようだ。一面真っ白な銀世界。「白」が何もかも覆いつくしている。山道に出なければ凍え死にしてしまうかもしれない。だが方向は?わからない。下に降りていけば町へ出られるだろう。明男は山を降りることにした。
段々と吹雪いてくる。雪が顔に当たって痛いほどだ。少し歩くと小屋があった。猟師小屋だ!有難い。ここで吹雪が止むのを待とう。
明男は猟師小屋を開けた。すると先客がいた。こちらに背を向けて座っている。
「ちょっと邪魔するよ」
明男は声をかけて小屋へ入っていった。
「吹雪が凄いねえ」
先客がポツリと呟いた。
「ああ、ここがなかったらやばかったな」
明男も答える。
「まあ、座りなよ」
「ああ、有難い」
明男は銃を置いて腰を下ろした。
「こんな雪の中、なんで山に入ったんだい?」
男が質問してきた。
「ツキノワグマが出てね、駆除のためさ」
「……へえ、そうかい。今までも駆除したのかい?」
「ああ、最近だと三ヶ月前にメスのツキノワグマを駆除したよ。中々しぶとくてね。大変だったよ」
「……そうかい。あんたが……」
「え?何か言ったかい?」
「……俺の妻を殺したのはお前か」
男は表情を一変させた。
「な、なんのことだ?」
明男は狼狽して訊ねた。この男は頭がおかしいのかもしれない。そう思った時だった。男の顔は裂け、真っ黒な顔が表れた。鼻が突き出てくる。体もむくりと一回り大きくなった。
ツキノワグマだった。
「ひっ」
明男は銃に手を伸ばそうとした。しかしツキノワグマの鋭い爪が明男の顔から腹にかけて引き裂いた。
「……!」
明男は声も出ない。必死で小屋から転げ出た。しかしツキノワグマが追ってくる。明男は力の限り走った。どこを走ったのかもわからない。後ろを見ると、ツキノワグマはいなかった。明男はほっとして歩き出そうとした。が、目の前にツキノワグマが立っていた。明男の腕に噛みつき、むしりとった。次は足を狙われた。倒され、明男はツキノワグマにのし掛かられた。ツキノワグマはゆっくりと明男の腹を引き裂いていく。明男は気も失えず、恐怖に震えた。
「妻の思いを知れ」
ツキノワグマは明男の喉元を噛みきった。
「白」の世界に散る「赤」
それも雪が覆い隠していった……。