表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
至上命令  作者: 緒方 玲
3/6

第一章 国境の森で

「若―っ!!」


城内に響き渡る声が呼んでいる人物は他でもない、自分のことだ。

兄たちが居ないこの場において、「若」と称されるのは自分だけ。

その証拠に、徐々に近づいてくる叫び声が「若」から自分の名前である「朱虎アケトラ様」に変わっている。


「若、良いのですか?今日は一段と東雲シノノメの機嫌が悪いようですが」


明らかに怒気を含んだ東雲の声に、馬の準備をしてくれていた厩係が困ったよう言う。

確かに、このまま東雲の制止を振り切って馬に跨った日には、暫しの自由と引き換えに長い説教が待っていることは明らかだろう。

付き人でありながら、東雲は幼い頃から兄弟のように育ってきたせいか、主である自分に対する物言いが少しばかりハッキリし過ぎているきらいがある。

まぁ、それほどハッキリした忠告、警告の数々を聞きながら、自由気ままに暮らしている自分にもかなり非があるのだろうが。

そんな事を考えながら、今回も東雲の呼び止める声を綺麗に無視して馬に跨れば、厩係が呆れたように苦笑する。


「若、東雲のこともそうですが、牙黄丸ガオウマル殿を困らせるのも大概にいたしませんと、お二人から揃ってお叱りを受けるのも近いのではありませんか?」

「そうかも知れない。だけど悪いな、俺は城の中でじっとしているよりも、外で走り回っているほうが性に合っている。それに今日はこの時間だ、すぐに帰ってくるさ」

「左様ですか。若、くれぐれも国境にはお近づきになりませんように。近頃、東軍が不穏な動きをしているようですので」

「東軍が?」

「はい、白虎王の容体が芳しくない旨、どうやら東軍に悟られているようです」

「そうか、父上のことが」

「奴ら「異能者」は、我らと完全に袂を分かつ異形の集団。白虎王不在を好機として、いつ攻めて来るやも知れません。皆、気が張っているのですから、もし若の御身に何かございましたら、戦は避けられないでしょう」

「わかった、気を付けるよ。だから、そんな怖い顔するな。怖い顔は東雲だけで十分だ」


言いながら振り返れば、そこには赤茶色の髪を振り乱し、金色の瞳を釣り上げた東雲が鬼の形相でこちらに走り寄ってくる姿が目に入った。


「それじゃあ時間稼ぎ頼むと、東雲に伝えておいてくれ」

「承知いたしました。お気を付けて、いってらっしゃいませ」


そう言って頭を下げる厩係に見送られるようにして馬の腹を蹴ると、ほぼ同時にやっと城門に辿り着いた東雲の怒号が飛んだ。


「若、最近は日が落ちるのが早いんです!一刻も早く戻ってきてください!若!!」


小柄で可愛らしい容姿に似合わぬ怒鳴り声に片手を上げて答えると、更に張り上げた東雲の声が。


「「暗黒の森」にだけは、決して近付かないでください!わかりましたね!!」

「わかった、行ってくる」

「絶対ですよ!!」


振り返ることなく適当に返した言葉に、被せるように叫ばれた言葉。


「「暗黒の森」か。国境には近づくなと厩係も言っていたし、大国が二つになってからは戦も減っていると聞いていたが、そんなに緊迫した状況なのか」


この世界は、かつて四人の王が治める四つの大国に分かれており、「人間」と「異能者」との間で戦が絶えなかったという。

しかし、かつて朱雀王が治めていた南方の国が白虎王率いる西軍の、それと対照的な位置にある玄武王が治めていた北方の国が青龍王率いる東軍の傘下に下ってからというもの、戦の数は激減した。

その最大の理由は、二つの大国の国境に存在する「暗黙の森」と呼ばれる鬱蒼と生い茂った深い森の存在だと言われている。

虎の姿を持ち、太陽の光の下で暮らす白虎王が治める国「暁」と、「異能者」と呼ばれる特殊な力を持ち、闇夜で暮らす青龍王が治める国「宵」。

もともと真逆の生活を送っており、生活環境があまりにも違う二つの国が歩み寄ることは容易ではなく、その上に勢力が拮抗していることもあって、両国は常に対立し、長きに渡り戦が続いていた。

だが、南方の「水神の湖」を西軍が治めるようになり、「異能者」の多くが「暗黒の森」を越えて北方の「水仙の蒼海」に拠点を移してからというもの、極端に「人間」と「異能者」の接触が減り、ここ数年は頻繁に起きていた戦がほとんどない。


「このまま戦など起きずに、平和な世が続けば良いのにな」


思わず口を突いて出た言葉が現実にならないであろうことは、自分でもよく分かっている。

国境に一番近く、戦が始まれば真っ先に標的になるであろう場所にあるとはいえ立派な城も与えられ、白虎王第三公子として何ら不自由ない、優遇された日々。

それでも優秀な兄と比べれば至らぬところの多い自分が政に関わることはなかったというのに、近頃では頻繁に王から呼び出しがかかり、今まで一度も出席したことのない軍事的な会議に何度も出席させられている。

それはつまり、開戦間近を意味しているわけで・・・


「しまった、随分と遠くにまで来てしまったな」


考え事をしながら馬を走らせ、ふと気が付いて前を見れば、そこに広がるのは散々近づくなと言われていた「暗黒の森」。


「まずい、早く戻らないと日が落ちるまでに城に帰れない」


暁の中で一番国境に近いとはいえ、城までは結構な道のりがある。

今からどんなに馬を走らせたとしても、彼ら「異能者」の領分である夜がくる前に城に帰るのは不可能だろう。

ならば、争いをしてはならないという暗黙の了解が両国間でなされている「暗黒の森」に足を踏み入れるのも一興かもしれない。


「東軍が攻め込んで来るなんてこと、そう簡単にはないだろうしな」


そう自分に言い聞かせるように呟きながら適当な木の幹に馬を繋ぎ、一つ深い深呼吸をしてから、生まれてこのかた一度も入ったことのない「暗黒の森」へと足を踏み入れる。

森の中に入った瞬間、襲ってきたのは言いようのない恐怖。

一瞬にして周囲の音が消え去り、まるで世界に自分一人が投げ出されたかのような孤独感が身体中を占めた。

ただただ鬱蒼と木々が生い茂り、恐ろしいまでに沈黙を決め込んでいるこの森は、侵入するモノ全てを拒絶しているようで。

無意識の内に抜いた剣を片手に、慎重に足を進める。

本当は一刻も早く森を出て、小言の待っている城へと帰りたい。

でも、何故だか今ここでは引き返すことはおろか、立ち止まることすら許されないような気がして仕方がない。

この森が放つ、異様なまでの威圧感のせいだろうか。

前に進め進めと、背後から見えない何かに追い立てられている感じがするのだ。

そんな強迫観念にも似た何かに急かされるようにして歩みを進めると、急に今までの暗く不気味な雰囲気が嘘のように、妙に明るい視界の開けた場所に出た。


「ここは、まだ「暗黒の森」なのか?」


先程までとは、まるで違う別世界のような場所。

色とりどりの花々が咲き乱れ、降り注ぐ日の光は温かく柔らかい。

もうあの纏わり付くような嫌な感じは一切しないと、ホッと胸を撫で下ろし、空高くに昇った太陽を見て、我に返る。


「森に入る前、暁では日が落ち始めていた。こんなに太陽が高い位置にあるはずがない」


暁と宵では、昼夜が逆転していると聞いた。

場所的には森の中心辺りなのだろうが、既に国境を越えていたのか。


「マズい、早く戻らないと」


東軍の人間と出くわす前に、早く森を出なくては。

そう思って元の道を戻ろうとした時、不意に背後で音がした。

反射的に木の陰に隠れて相手の様子を窺うと、そこにはこちらに背を向けるようにして座り込んでいる宵の人間と思わしき人物。

どうやら向こうはこちらに気が付いていないらしく、切り株の上に置いてある籠にせっせと薬草を摘んでいる。

あの様子では、声をかけないかぎり気が付かれることはないだろう。

気が付かれる前に立ち去ろうと、一歩後ろに下がる。

すると抜き身のまま手にしていた剣が木の幹に当たり、思いの外大きな音が森に響き渡った。

その音に、黒髪の人物は驚いたように立ち上がると、勢い良くこちらを振り返った。


「誰!?」


凛とした、鈴のような美声。

振り返った人物は、その声に相応しい秀麗な容姿の二十代前半と思われる人物。

腰の辺りまである漆黒の長髪に同色の瞳、陶器のように滑らかで透き通るほど白い肌。

この世のモノとは思えないほど、異常なまでに整った顔立ちの、美し過ぎる女性。

あまりの美しさに思わず目を離せずにいると、身を硬くした彼女が数歩後ろに下がるのが見えた。


「あ、怪しい者ではない。ちょっと、この森に迷い込んでしまっただけだ」


そう言いながら彼女の前に姿を曝すも、彼女はますます身構えてしまう。

慌てて剣を鞘に戻し、両手を上げて敵意がないことを示す。

「漆黒」という、暁ではあり得ない髪と瞳の色からして、彼女が宵の人間であることは明確。

自分が宵の人間に会うのが初めてなように、彼女も敵国である暁の人間と会うのは初めてなのだろう。

このまま彼女に悲鳴を上げて逃げ出されてしまったら、それこそ戦が始まってしまうかもしれない。

彼女はきっと、敵軍の自分が自国の偵察に来ていると思っているのだろうから。


「俺は暁、西軍に属する朱虎だ。驚かせてしまったのなら、すまない。だが、少しで良いから話を聞いてほしい。俺はそなたの国を偵察に来たわけでもないし、敵対の意思も全くない。抜き身の剣を手にしたまま姿を現しておいて、こんなこと信じろというのは確かに無理な話かもしれないが。どうか、信じて欲しい」


言いながら頭を深々と下げると、少しずつ後退していた彼女の足が止まった。

ゆっくりと顔を上げれば、まだ不安そうな表情を浮かべてはいるものの、逃げ出す様子は見られない。

話を、聞いてくれるつもりになったのだろう。

ならば、彼女が宵に戻ってしまう前に、少しでも多くの誤解を解いておかなくては。

とはいえ、いったい何から話せば良いものか。

そう思案していると、彼女が先に口を開いた。


「あなた様は偵察に来たのではないと仰いましたが、敵情視察ではないとすれば、いったい何用で国境を跨ぐ森に参られたのですか?暁の中でも、特に西軍の方々は甚くここを嫌っていると聞き及んでおりますが」

「あぁ、俺は考え事をしながら馬を走らせていたら、思いのほか遠くまで来てしまってな。これでは日が落ちるまでに戻れないと思い、中立地点であるこの森で夜を明かそうかと」


下手に誤魔化しでもしたら疑われるかもしれないと、包み隠さず事実を述べてから我に返る。

これでは、結局ただの言い訳にしか聞こえないのではないだろうか、と。

しかしそんな心配は必要なかったようで、彼女は理由については特に追及してくることはなく、少し考える素振りを見せてから、逆にこちらを心配するように言葉を紡ぎ出した。


「あなた様の仰る通り、暁では既に夜が更けているでしょう。ですが、この森で一夜を過ごすというお考えは、改めた方が宜しいかと存じます」

「何故だ?ここでは両国間で争い事が禁じられているはずだが」

「はい、左様にございます。しかしながら、この森の住人たちはその、西軍の方々をあまり好しとはしておりませんので」

「この森の住人?」

「この森には我ら宵の住人とも、暁の方々とも違う、全く別の種族が住んでおります。そのモノたちは個々ではとても非力な存在ですが、彼らには森の守護があり、その力は絶大なもの。この森で彼らに逆らえば、あなた様の国の白虎王でさえ、おそらく太刀打ちは出来ないでしょう」

「だから、ここは中立地帯なのか。彼ら、森の住人たちの住処だから」


彼女の説明で、妙に納得してしまった。

だから、ここに足を踏み入れた瞬間から、別世界のように感じていたのだ。

ここは暁からも宵からも独立した、特別な場所。

この森自体を一つの国として考えれば、森に入ろうとした時の侵入者を拒むかのようなアレにも納得がいく。


「それで、俺たち西軍の人間は、何故ここの住人たちに嫌われているんだ?」

「それは西軍の方々が開拓のため、南方にある「水神の湖」を穢してしまったから」

「「水神の湖」は、確かに西軍が開拓を進めた地ではあるが、あそこは元々「異能者」の住処だろう?」

「いえ、確かに表立って暮らしていたのはそうですが、彼らから土地を借り受けていたにすぎず、元を辿れば彼らの神域にございます。それ故、彼らと共存する道を歩んでいた我ら宵の人間はこの地に出入りすることが許されておりますが、西軍の方々は」

「故郷を追いやった俺たちは、嫌われていると」

「はい」

「そんなことが、あったのか。俺は、何も知らないんだな」


この森のことも、住人のことも、もちろん南方の地のことも、全く知らなった。

幼い頃より勉学に励んでいたつもりだったが、彼女の口から語られた内容は、一度たりとも見聞きすることはなかった。

暁で故意に隠された真実なのか、それともこの者が知識人なのか。

そうだ、そもそも何故このような女子が一人で森にいるのか。

しかも暁が夜ということは、宵の国では人々が活動を停止している昼のはず。

それなのに、彼女はどうして何事もないかのように一人で行動しているのだろうか。

彼女はいったい、何者なのか。


「そなた、随分と知識が豊富なようだな」

「え?いえ、そのようなことは」

「俺も学ぶのは好きな方だが、そなたの話した内容は一度たりとも聞いたことがなかった」

「それは、当然のことではございませんか?南方を追われ、東軍に助けを求めたのは宵の歴史にございます。あなた様の国では悪しき「異能者」を遠ざけたという事実のみが伝わり、その背景に存在するこの森の住人たちのことなど、一切記録されてはおりませんでしょうから。今しがた私が申し上げた内容は、故郷を追われた敗者だからこそ残された記録にございます。それに、あなた様の暮らす暁は、とても豊かな国だと聞き及んでおります。国境近くの危険な地まで、わざわざ薬草を取りに来る必要などございませんでしょうし」

「そなたは、薬草を取りにわざわざ?」

「この地は、人の出入りが滅多にない辺境の地。宵では育たぬ植物が豊富な上、西軍の方々が足を踏み入れることはまずございません。森の住人たちの機嫌さえ損ねねば、とても安全に良質な薬草が採取できる地なのです」

「そうだったのか。ならば、西軍の人間である俺が姿を現したときは、さぞ驚いただろうな」

「えぇ、この地にはよく足を運びますが、暁の方とお会いすることはまずありませんので」

「宵では、それほど頻繁に薬草が必要になるのか?」

「いえ、戦時中ではごぜいませんので、それほどでは。ただ、主がよく怪我をするお方なので、どうしても」

「武人に仕えているのか?」

「はい、武人の方に、お仕えしております」


今まで、何を聞いてもハッキリと答えていた彼女が、初めて言葉を濁した気がする。

思わず追求しようかと考えていると、俺より先に彼女が口を開いた。


「先ほどから私のことばかり案じてくださいますが、あなた様こそ、お一人で参られたのですか?お見受けしたところ、高貴なお方と存じます。そのようなお方がお一人でこのように危険な場所に参られたとなれば、お付きの方も、さぞ気を揉まれていることでしょう。この地で夜を明かせない以上、早急に戻られた方が宜しいのではありませんか?」

「あぁ、そうだな。だが、それはそなたにも言えるのではないのか?そちらの国では、朝方から昼にかけて活動を停止していると聞いた。あまり遅くなると、そなたの仕えている主が心配するのでは?」

「そのようなことは、決してございません。主にお仕えする者の代わりなど、いくらでもおりますから。それよりも、やはりあなた様は早くお帰りになった方が宜しいようです」

「え?」


言っている意味が解らずに首を傾げれば、彼女がおもむろに後ろの茂みを指さした。


「護衛の方が、あなた様のお迎えに参られたようですので」


そう言われて振り向くと、そこには見慣れた大柄な男。

剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるように構えた状態で立っているのは彼女の言う通り、自分の迎えに来たであろう護衛だ。


「牙黄丸・・・」


名前を呼ぶものの牙黄丸がその声に答えることはなく、ただ射貫くように鋭い目つきで彼女を睨みつけるようにして佇んでいるだけ。

背後にまで迫っていた牙黄丸の気配に気が付かなかったことも驚きだが、歴戦の武将と謳われている牙黄丸がここまで殺気立っている姿を見るのも初めてだ。

チリチリと肌を焦がすような殺気と、張り詰めた空気に思わず息を呑む。

しかし殺気を向けられている本人である彼女は一向にその事を気にした様子もなく、ただ自身に向けた警戒心を一切解こうとしない牙黄丸を見て、少しだけ困ったように眉尻を下げた。


「腕の立つ護衛の方が参られたのなら、森の住人たちがあなた様に危害を加えることはないでしょう。私も宵に戻りますゆえ、あなた様も暁にお戻りくださいませ。お互い、必要以上の関わり合いは持たないほうが得策にございます。では、失礼いたします」


彼女は優雅に頭を下げると、籠を手に宵に向かって歩き出した。

本当はもっと、彼女の話を聞きたかった。

自分の知らないことを知っている彼女と話をして、もっと多くのことを知りたい。

そして何より、厳しい修練を積んでいる自分でさえ指一本動かすことが出来ないほどの牙黄丸の殺気を真正面から受けながら、顔色一つ変えずに平然としている彼女のことを、もっと知りたい。


「そなた、名は?」


随分と小さくなった彼女の背に、やっとの思いで問いかけると、彼女は足を止め、暫し思案するような素振りを見せてから静かに答えた。


「ハク、と」

「ハク、だな」

「それから・・・勘違いしておられるようですので、一応申し上げておきますが・・・私は男です」

「・・・え?」

「それでは、失礼します」


そう言い残して彼女、否、彼は一度も振り返ることなく森を後にした。


「あの顔立ちで男か・・・計り知れないな」


彼の姿が見えなくなってから暫くして、思わず口から出たのはそんな言葉。

何度思い返しても、先ほどまで共に居た人物はとても男とは思えない。

鈴のように凛とした涼やかな声も、一つ一つ洗礼された優雅な立ち振る舞いも。

何より、美人画に描かれた美女さえもしっぽを巻いて裸足で逃げ出してもおかしくない、あの美しさは尋常ではない。

美し過ぎるからこそ性別を超えていると言われれば、それまでかもしれないのだが。


「若」


呼ばれて振り返ると、先ほどまで考えていたくだらないことが一瞬して吹き飛ぶほど、真剣な顔をした牙黄丸の姿。

気持ちを入れ替えて居直すと、牙黄丸が神妙な様子で口を開いた。


「あの者とは、金輪際お会いになりませんよう」

「ハクと、か?」

「はい、あの者は完全に気配を立った我輩の存在を、意図も簡単に見破りました。おそらく、我輩がこの森に入った時点で、誰かが来たことには気が付いていたでしょう。女子のような姿をして温和そうに見えますが、あの者はかなりの手誰でございます。おそらく、「異能者」かと」

「あの者が「異能者」・・・なぁ、牙黄丸。俺と彼が本気で戦ったら、俺は負けるか?」

「確実に。我輩とて、あの者に傷を負わせることが出来るかどうか」


その言葉を聞いた瞬間、「人間」が長きに渡って「異能者」を迫害してきた意味が少しわかってしまったような気がする。

「人間」と「異能者」の実力には、あまりにも差が開き過ぎている。


「あのような者たちが、東軍には多くいるのだろう?そんな東軍と戦などしたら、俺たち西軍はどうなるんだ?」


その問いに、牙黄丸は静かに首を振った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ