公認輸送士のとある1日
注意 あくまでも地球に似ているだけで別世界です。
「おい、速水」
僕の名前が呼ばれクラスの皆が僕と彼を見ている。
僕は皆の視線を受けながら彼を見る。僕は彼の呼び掛けに応えなくてはならない。そして、その後に言い渡される命令にもだ。何故ならそれが僕の仕事だからだ。
「ちょっと、飲み物買って来いよ」
僕を見てニヤニヤと笑いながらパシリを言いつけたのは、同じクラスの不良生徒である茂部 一だ。
うざったい金髪に耳にダサいピアスをつけて、周りに他クラスの似たような格好をした取り巻きを5人ほどつれている彼は、一学年上であるの高校三年生の不良と喧嘩をして勝った事があるらしい。
そんな彼からしたら、地味で大人しそうな見た目の速水 瞬という学生、つまり僕は標的にし易かったのだろう。
「おい、話を聞いてンのか‼」
おっと、少し考え事に気を取られすぎたようだ。
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていまして。ところで、飲み物は具体的に何が良いんですか?」
「アァン?コーラに決まってンだろ」
彼は怪訝な顔で僕を見ながら答えた、多分僕が何かしらの理由をつけて逃げようとするとでも思っていたのだろう。
しかし、今気にするべき事ではないと僕は「そうですか」と返事をしながら仕事の計画をたてる。
コーラならA棟1階の売店かグラウンドの自販機で売っていたはずだ。ならばA棟3階にあるこの教室からそこまで時間は掛からない。
そして、売店のおばさ……お姉さんから買った方が時間が短縮できる。
なんか今殺気を感じたような気がしたけど気のせいだろう。ウン、ソウニチガイナイ。
ま、まあ、とりあえず売店で買おう。
「では、行ってきます……買ってきましたよ」
「はっ?」
「コーラです。代金は150円です」
「おい、今何をしたんだ?」
彼は驚いた顔をしながら、僕に変なことを聞いてきた。
何をとはどういう意味だろう?普通に売店でコーラを買ってきただけなんだけど。
「売店に行ってコーラを買ってきました」
「なっ、なに言ってンだてめえ!たった1秒でコーラ買ってくるなんてできるわけねえだろうが‼」
僕は事実を言っただけなのに、彼は何故かキレて認めようとしないので、僕は証拠を見せることにしよう。
「できますよ。それに証拠だってあります」
「なら見せてみやがれよ」
「これです」
僕はそう言ってレシートを見せると、彼は目を白黒させながら聞いてきた。
お前は何者だ、と。
僕は答えるべきか迷ったけれど、特に隠す必要もないので言ってしまおう。
「僕ですか?僕は【公認輸送士】です」
そう言った瞬間クラスが一瞬にして静まり返ったので、僕はちょっと気まずくなったけど、すぐにクラスメートの1人がポツリと呟く。
「【公認輸送士】だと……」
それが合図となったのか、堰を切ったようにクラスの皆が喋りだした。
「【公認輸送士】って国内にたった80人しかいないパシリのエリートじゃなかったっけ」
「パシリにしてパシリにあらず、只のパシリと思うことなかれってじっちゃんが言ってた」
「確か輸送士試験っていうのに合格しないとなれないらしいよ」
「知識、運搬能力、戦闘能力、その他諸々が人外レベルだって聞いたことが……」
「ああーーーーー‼」
皆が思い思いのことをしゃべるなか一人の生徒が大きな声をあげた
「【公認輸送士】の速水瞬って、輸送士序列3位以内に入り、その配達スピードから《神速》の二つ名を持つ、僅か10才にして輸送士試験に合格して、最年少合格記録を持つ天才輸送士じゃあないですか‼」
「マジか、サイン貰わなきゃ‼」
「キャー《神速》様ぁー、抱いてー!」
僕は、ここまで反応をされると思っていなかったのでびっくりしたけど、すぐに冷静になった。なぜなら彼が、そう茂部君が僕に何か言おうとしていたからだ。
そして、彼は徐に口を開く。
「で、で、弟子にしてくれ」
あまりにも唐突なその言葉に、僕は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまった。
だが僕には彼に言わないといけないことがある。そう、それは……
「とりあえずコーラ代の150円を早く払って下さい」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
公認輸送士は実在せず、実在する国際複合輸送士とは何の関係もありません。