1/1
始マリノ章
東の果てに小さな島国が存在していた。
幾度かの戦乱を経て、長い時をかけて、その国は一つにまとめられた。
しかし平和が訪れると同時に、数知れぬほどの人々が国を離れた。
間諜、盗人、暗殺者といった、闇に生きる者たち。
戦乱というもっとも深い闇が失せるのと共に、彼らも排除されたのだ。
しかし異国へと追放されてもなお、彼らはくじけなかった。
西へ、西へと幾代もの世代を重ねつつ、最後に古来からの近辺の住民すら寄り付かなかった、
深い森と険しい霊峰のそびえる地に根を下ろした。
ただ彼らには、風雨を凌ぐ家も、それを建てるための財産すら何一つ持っていなかった。
それで、彼らは何をしたか。
盗んだ。
たくましく誇り高き罪人であった先祖と同じように、
周りの国から技術を、物を、人材を。時に巧妙に、時に大胆に。
彼らは己が無力だと、長い放浪の末悟っていた。だから特定の敵を作らなかった。
異国の技術を、自分たちなりに発達させる腕を持っていた。だから盗んだ後、己の力で立ち上がった。
やがて彼らが自らの国を建てたとき、周りの国々からこう呼ばれた。
『極東より来たる忍びの国 風蓮国』と。