恐焦
国王もまた、ミツリを畏れる人間の一人でした。
魔王を倒すために呼んだ少女。
それはつまり、魔王より強い存在である、という事に遅まきながら気づいたからでした。
黒の色を持ち、常に冷然として、魔物を一瞬で殺す力を有する少女。
彼女の存在は、王の心に大きな恐怖を呼び起こしました。
ミツリは寡黙で、毎日一定の時間【首斬り】の練習をする以外は、与えられた部屋で大人しく過ごしています。
問題を起こすでなく、何かに文句を言うでもなく、魔術師や宰相の指示に素直に従っています。
しかし、魔王を倒した後、彼女がとんでもない要求をしてくるかもしれない、元の世界に帰せと言うかもしれない、もしかすれば、王国を滅ぼされるかもしれないと、少々行き過ぎた疑念に囚われて、国王は悩み込んでしまいました。
そして、その悩みを宰相に話しました。
宰相も、その可能性には気がついていました。
そこで、宰相は魔術師を呼んで、三人でミツリの扱いについて相談しました。
結果として出されたのは、彼女に【隷属の印】を施す、という事でした。
【隷属の印】は、奴隷に必ず付けられるもので、主人の命令に絶対服従させられる魔術でした。
これがあれば、ミツリに反逆される事もないだろう、と国王たちは考えたのです。
そしてそれは、彼女が寝ている間に、極秘密裏に行われたのでした。