黒の少女
少女は黒い髪に、黒い眼をしていました。
人間の間では、黒は魔の象徴として忌避されていました。
国王たちは、魔術師が魔族を召喚したのではないかと疑いましたが、少女が全く魔力を持っていないので、正真正銘の人間だと魔術師は保証しました。
少女は一言も発さず、無表情に周りの人間たちを見ていました。
その黒い瞳には、敵意が宿っているようにも見えました。
国王たちはしばし混乱していましたが、やがて目的を思い出して、少女に魔王を倒すように告げました。
少女は顔をしかめただけで、黙っていました。
言葉が通じないのかと魔術師は問われ、そんなはずはないと言い返します。
彼らが口論を始めそうになった時、初めて少女が口を開きました。
「あの、寒いのでせめて靴をくれませんか」
一同が驚いて少女を見れば、なるほど、少女は薄い半袖のシャツに膝丈のズボン、そして裸足でした。
よく見れば、少女は小さく震えていて、両腕をさすっていました。
召喚術が行われたのは、神殿の地下でした。
王国の季節は春。
どちらかと言えば暖かい気温でしたが、石造りの地下は冷えていました。
国王は、ハッとしてすぐに少女を着替えさせるよう宰相に命令しました。
それからしばらくして、ちゃんとした服をもらい、一度湯浴みをさせてもらった少女は、今度は王の執務室にいました。
部屋には、召喚術の場にいた者たちも皆揃っていました。
宰相が王国の現状や人間たちの歴史を軽く説明し、魔術師が召喚術について説明しました。
少女は、始終眉間にしわを寄せて黙って聞いていました。
話が終わり、最後に国王がもう一度、魔王を倒してほしいと言いました。
少女は黙ったまま彼らを一人一人見て、終わりに国王を見つめました。
しばしの間、部屋は沈黙しました。
少女は口を開こうとしません。
国王たちは少女の返答を待って待って待って、やっぱり言葉が通じてないんじゃ、と再度疑い出した頃、少女がぽつりと言いました。
「分かりました」
彼らはいっせいに安堵の息を吐きました。