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首斬り魔王少女  作者: 有寄之蟻
・真章・
15/17

オーディション

金色の光の中に、ミツリは浮かんでいました。


ほんわかと温かく、ハチミツのような光です。


不意に、声がしました。


"異なる世界より堕とされし哀れな人間の娘よ。よくぞ来られた"


力強い男性のようなその声は、ミツリの頭に直接響いているようです。


「誰、ですか」


"我は『魔を司るもの』。魔神などと呼ばれておる"


ミツリはハッとして、顔を輝かせました。


「あの、私が異世界から来た事を知ってるんですよね?私を元の世界に戻してくれませんか!」


彼女の声には、期待がこもっています。


しかし、魔神は沈んだ声で返しました。


"残念だがそれはできぬ。其方(そなた)の世界はこの世界より上位次元にある。この世界に堕ちる事はあっても、昇る事はできんのだ"


「そう・・・なんですか」


ミツリは顔を歪めて俯きました。


"其方(そなた)が堕とされてしまった事に関しては、本当に申し訳ないと『人を司るもの』が言っておった。それと、原因は我にもあるのでな、我からも謝罪させてくれ。本当に済まぬ"


魔神の言葉に、ミツリはゆるゆると首を横に振りました。


「大丈夫です。戻れる可能性はほとんどないと思ってましたから」


"う、うむ、そうか。其方(そなた)は強いのだな。ーーーーおほん!では、本題に入るとしよう"


「本題?」


ミツリは首を傾げます。


"そうだ。魔界の掟でな、魔王を倒した者は魔王候補となり、魔神の、つまり我の審査を受けるのだ"


「あー、なるほど。そう言えばカユラさんが、自分のこと『魔王候補を導く者』って言ってました」


ミツリは右手をぽんと左手に打ちつけて言います。


"うむうむ。それでだな、実は審査はもう始まっておるのだ"


「え?そうなんですか?」


ミツリはキョロキョロと周りを見ます。


"其方(そなた)の本質を見るのだが、気づいておらぬか?其方(そなた)、よう話しておろう"


「ん?そう言えばーーーーって、そう言えば、すごく喋ってる!?」


口に手を当てて、ミツリは目を見開きました。


確かに、寡黙で無表情だったミツリが、魔王を倒してから、表情が動き、よく話していました。


"それが其方(そなた)の本来の姿であろう?こちらの世界に堕とされた時、其方(そなた)其方(そなた)の心を守るために、無意識に感情を麻痺させておったのだ。でなければ、普通の女なら泣き叫んで怯える魔物を殺す事などできぬし、ましてや魔王と対峙する事など不可能だからの"


「・・・確かに、そうかもしれません」


考えてみれば、思い当たる事はたくさんあります。


召喚された時に冷静だったのも、魔王を倒す事を受け入れたのも、魔物を殺す事ができたのも、元の世界のミツリのままでは不可能だっただろうと思われました。


実際、彼女の心中は不安や恐怖に満ちていたのですから。


"この光は我の力の一端でな、魂の性質を引き出すのだ。其方(そなた)の魂は綺麗で元気な色をしておる。其方(そなた)自身も、明るい性格だったのではないかの?"


ミツリは元の世界の事を思い返してみました。


家での家族との会話や、学校での友達とのお喋り、部活に積極的に参加していた事、塾に通っていた事など、たくさんの記憶が頭を巡りました。


そこで、ミツリはふとある事に気づきました。


「そういえば、私、元の世界の事をあまり考えたりしませんでした」


"それも自己防衛の一つだったのだろうて。だが、今はちゃんと思い出せるであろう?ーーーーさて、其方(そなた)の本来の自分を取り戻したところで、話を戻そうかの"


「話?・・・あぁ、魔王の事ですね?」


"うむ。結果から言えば、其方(そなた)は合格だ。魔王を倒した。魂の質も良好。其方(そなた)自身の性格も悪くない。という事で、其方(そなた)に選択を迫ろう。ーーーー異世界より堕ちし哀れな人間の娘よ、汝は魔王となる事を望むか?"


「・・・・・・・・・」


ミツリは沈黙しました。


困惑した表情を浮かべて、口を開きません。


しん。とした時が流れて、やがて魔神が痺れを切らした声を出しました。


"ええい!ハイとかイイエとか、何か言わんか!"


「いや・・・でも・・・」


戸惑った声音で、ミツリは視線を彷徨わせます。


「あの・・・それって、私が選ぶんですか?」


"そうだ!"


ぷんすかとした魔神の声に、ミツリはますます困ったように眉尻を下げます。


「それって・・・断ってもいいんですか?」


"もちろんだ!・・・って、其方(そなた)、魔王になるのは嫌なのか?"


「いえ・・・」


ミツリはしばし目を泳がせて、やがて視線を上向けました。


「なんというか、魔神さんが審査して、合格なら魔王になる、と思っていたので・・・。私が、選ばなきゃいけませんか?」


"ここまできて弱気になるでないわ。確かに、普通審査を受けるのは自ら魔王になる事を望む者だけだからの、断った者などおらぬが・・・其方(そなた)が望まぬなら、断ればよい"


呆れたような魔神の声は、最後に優しい声音でそう言いました。


ミツリは黙り込みました。


ハチミツのような金色の光を見つめて、見つめて、見つめてーーーーやがてふと顔を上げました。


「私、ミツリは魔王になる事を望みます」


しっかりとした口調で、強い意志をその眼に宿して告げました。


"良かろう。汝の意思はしかと受け取った。今より、『魔を司るもの』の名において、汝に魔王を名乗る事を許す"


魔神の宣言と共に、金色の光が一層煌きを増しました。


ミツリの体の奥が熱くなり、ジリジリとした熱が外へ出ようともがきます。


「ッーーーー!」


ぶわりと熱が体内から放出されると同時に、ミツリの脳内に大量の情報が流れてきました。


この世界の事、魔神の事、魔界の事、魔王の事、魔王城の事、魔界に生まれるものたちの事。


溢れた言葉と映像に、ミツリの意識は強制的に閉じられました。


情報を処理するために、睡眠状態に入ったのです。


ミツリの体がふわりと動き、光の壁を抜け出ました。


光の柱の外には、いつからか待機していたカユラがいました。


カユラはミツリをそっと抱きかかえます。


光の柱は今やその色を変え、透き通った若葉色をしています。


その中心には、光柱より強い光を放つ透き通ったミツリの姿がありました。


「この方の魂は、美しいお色でございますね」


眩しそうに目を細めて、感心した声でカユラが呟きました。


"うむ。彼女は争いなき上位次元から来た者。(けが)れもなく、魔力もこれまでにない程穏やかなものだ"


満足そうに魔神が同意します。


「歴代で最も中和能力の高い魔王陛下となられる事でございましょうね」


カユラは微笑んでミツリの顔を見つめました。


"(まこと)にそうなるであろう。ほれ、早く部屋へ運んでやれ。お前の新しい主人だ。忠義を尽くして仕えるがいい"


「もちろんでございます。不肖カユラ、魔王城歯車筆頭として、全身全霊でミツリ様に仕える所存でございます。ーーーーそれでは、『魔を司る御方』様、御前(おんまえ)を辞させて頂きます」


光柱に恭しく膝を曲げ、カユラはゆっくりとした足取りで壁へと歩みます。


そして、壁に吸い込まれるようにしてその姿は消えました。


"ふむ。歴代最高の資質を持つ人間の魔王(・・・・・)とな。面白い事になりそうだて"


楽しげな魔神の呟きが、緑光に満ちた部屋に溶けてゆきました。

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