虚無の痛み
ミツリは突然の暗闇に驚きましたが、その事に安堵をしました。
魔王を殺したショックで、ミツリの心は打ちのめされていたからです。
ミツリが今まで殺してきたのは、みな動物の姿をした魔物でした。
中には言葉を操る高位の魔物もいましたが、動物の範疇を抜けた事はなかったのです。
しかし、今回初めてミツリは人の形をしたものを殺しました。
どんなに魔物を殺す事に慣れたつもりでも、争いのない世界から来たミツリには、どうしようもなく耐えられない事に変わりはなかったのです。
魔王の表情が、声が、血の色が、鉄の臭いが、ミツリの心に焼きついて、彼女を一瞬でズタズタにしました。
まるで、今までミツリが魔物たちにしてきた事が、一斉に彼女に跳ね返ったようでした。
だから、視界が黒くなった瞬間、魔王の姿は消え、血の色も見えず、鉄の臭いもなくなって、ただぽっかりとした虚しさに包まれて、ほっとしたのです。
ーーーーふと、ミツリの前に、誰かが立っていました。
その人は男とも女ともつかない中性的な美しい顔で、微かに微笑んでミツリを見つめていました。
目が合うと、小さくお辞儀して、
「魔王陛下スキミュラ様の死亡を確認しました。スキミュラ様を倒されたのは、貴女で宜しいですか?」
高くも低くもない柔らかな声でそう言いました。
ミツリは、いつの間にか涙を流していました。
彼女はただ、頷きました。
「分かりました。私は魔王候補を導く者、カユラと申します。私の指示に従って頂けますか?」
カユラは、どこからか取り出したハンカチでミツリの涙を拭いながら問いかけました。
ミツリはまた、黙って頷きました。
「感謝致します」
と、カユラはにっこりと笑いました。
※ちなみに、ミツリの「私」→「わたし」です。
カユラの「私」→「わたくし」。




