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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第三十二話  ロウヒ討伐隊

「自殺志願者じゃないんで」

「お断りですよね」

「ボクも嫌だなぁ」


 キロ、クローナ、ミュトが口々にランバルの提案を一刀両断する。

 ミュトの首に巻き付いたまま、話だけは聞いていたらしいフカフカの尻尾が揺れた。


「満場一致であるな」

「おいおい、ちょっと待て!」


 ミュトとフカフカの言葉からキロとクローナの言葉の内容まで類推したらしいランバルが慌てて引き止める。


「地図師だろ。守魔を倒して名を挙げようとか思わないのか?」


 守魔を倒せば、功績を称えて像が立つ。

 ミュトも、地図師が目指す到達点の一つだとキロに語っていたが、あくまでも地図師全体の傾向としての話だ。

 ミュトが困り顔でキロ達を見た後、ランバルに向き直る。


「名を挙げようと思ってないから」

「最近の若い奴は欲がないんだな」


 ランバルがミュトの答えに落胆する。

 護衛団の五人組を横目に見た後、ランバルはため息を吐いた。こいつらは使い物にならない、と顔に書いてある。


「せめて、話くらいは聞いてくれ」


 それでも諦め切れないのか、ランバルは切り出した。

 気乗りしなさそうなキロ達を見て、ラビルが苦笑いを浮かべる。


「ランバルが言っているのは、ムカデの守魔ではないんだ」

「あいつは縄張りに出向いても姿が見えなかったからな、どちらにせよ討伐なんかできねぇよ」


 つまらなそうにランバルは愚痴る。

 クローナがキロを見てくすりと笑った。


「あの魔物さん、足を切られてまだ不貞腐れてるんですね」

「みたいだな」


 キロはクローナと笑いあう。

 ラビルが話を戻す。


「ランバルが討伐計画を立てたのは、最上層と未踏破層の境に住まう守魔。確認できる最古の魔物だよ」


 最古の枕詞が付くと途端にロマンの香り漂うのは何故だろう、とキロは湧き出した好奇心に言い訳する。

 クローナも例外ではないようで、興味が無さそうな振りをしつつ耳を傾けているのが分かった。

 唯一興味が無さそうなミュトの様子を窺いながら、ラビルは追加情報を提示する。


「なぜ最古の魔物だと断言できるかと言えば、一昨日の遺跡の壁画に絵があったからだよ。つまり、八千年以上の長きに渡り広間を縄張りにしている個体という事だね」


 ミュトの関心が向いたのが分かる。

 キロは空の喪失と人類が地下へ移住するまでの経緯を描いた壁画を思い出す。

 壁画にあった魔物らしきモノといえば、悪食の竜が真っ先に思い浮かぶ。

 しかし、ラビルが口にしたのは別の名前だった。


「各地の壁画にも姿が描かれている魔物でね。名前はロウヒ、遺跡の左側の壁に描かれていた女神のような魔物だよ」


 地上を睨んでいた女神像はロウヒというらしい。

 魔物だった事も驚きだが、描かれていたモノが実在するという事は壁画の内容も真実味を帯びてくる。

 ミュトとフカフカが揃ってため息を吐いた。

 空の喪失が史実かもしれないとわかって、気落ちしたのだろう。

 クローナが何かを思い出すように顎に手を当てる。


「でも、壁画の女神像は上を睨んでましたよね」

「あぁ、上を睨んでた。それにあの壁画は人類が地下に潜ったばかりの頃を描いているように見えた」


 キロも記憶を探り、クローナの言葉を肯定する。

 ――喪失歴が空を喪失してからの暦だとすると、今よりも浅いところで人間が生活していたんじゃないのか?

 憶測に過ぎないが、実際にロウヒは未踏破層と呼ばれるかなり上の層に縄張りを持っている。

 上の層、つまり地上に近い場所だ。


「ロウヒって守魔に興味はないけど、ロウヒの縄張りを越えた先に何があるのかは気になるな」

「でも、倒す必要はないんじゃないかな?」


 わざわざ守魔であるロウヒを倒さずとも、縄張りを迂回してしまえば上を目指すことができる、とミュトは言いたいらしい。

 確かに、とキロは頷きつつ、ラビルを見る。


「特層級でなくとも未踏破層の探索ができるなら、迂回するのも選択肢の一つだな」


 キロの指摘に、ミュトは困ったように眉を寄せ、ラビルに視線を移す。

 キロとクローナの言葉が分からないラビルやランバルは、キロ達の間でどんな言葉が交わされているのか、断片的にしかわからない。

 ミュトはバカにされないよう空を探している事は伏せて、ラビルに問う。


「ロウヒの討伐に成功したら、未踏破層の探索許可がもらえるの?」

「貢献度次第ではあるけど、評価はかなり高いね。逆に失敗しても評価が下がることはないから安心していいよ」


 成功時のメリットが無視できなかったのか、ミュトは思案顔をする。

 しばらく悩んだ後、ミュトは首を振った。


「やっぱり駄目だよ。危険すぎる。ボク達は参加しない。キロ達もそれでいいよね?」


 珍しく確固とした意思を伝えるミュトに、キロとクローナは笑みを浮かべた。


「急がば回れともいうからな。トットにもいかないといけないんだ。参加する必要もないな」

「五年かかるはずの最上層級昇進も数日で終わりましたからね。上を目指すのも大事ですけど、今は一休みしつつ懐中電灯の持ち主を探しましょう」


 方針が決まり、ミュトはランバルに向き直って頭を下げた。


「参加はお断りします」


 下げられたミュトの頭を見下ろして、ランバルは悔しそうな顔をした。


「無理に参加しろとは言わないが、気が変わったら来てくれ。討伐戦は十日後だ」


 ランバルは名残惜しそうにキロとクローナに視線をやった後、五人組に声をかける。


「鍛えなおしてやる。ついてこい」


 びくりと震えた五人組が大慌てで立ち上がる。

 ランバルはラビルに視線を向けた。


「お前はどうすんだ?」

「自分はここに遺跡調査の仕事で来てるんだ。気の荒い女神様を口説き落としに行く時間はないね」


 ランバルは舌打ちする。


「それなら、儂らが女神様を落としてやるよ。強引にな」


 勇ましい啖呵を切ってランバル護衛団は観客席へ向かっていく。

 おっかなびっくり、といった調子で五人組がランバルについていく。

 五人組の一人はミュトと目が合うと口を開いた。


「俺達が地図師協会で守魔の足を出した時、守魔の縄張り調査を受けてたよな……?」


 ミュトがこくりと頷く。


「なら、守魔の足を切り落としたのは本当に――」


 ランバル護衛団の視線に、キロは肩を竦めてはぐらかした。


「証拠はお前達が持って行ったのでな。キロはただ働きだ」


 フカフカがつまらなそうに呟く。

 ランバル護衛団は頭を下げ、ランバルの後を追って逃げ去った。

 ラビルが五人組の後ろ姿を見送ってクスクスといじわるに笑う。

 ミュトに視線を戻したラビルは、微笑を浮かべた。


「空を目指しているのかな、と思っていたから、断ったのは正直意外だったよ。余計な事をしてしまったね」


 フカフカが顔を上げる。


「いや、少なくともここにいる地図師や傭兵連中はミュト達を見直しただろう。我らから言い出したところで嘘つきと呼ばれるだけであるからな。よい機会を提供してくれた。感謝する」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。自分はしばらくあの遺跡の調査でこのあたりに滞在しているから、何か聞きたいことがあった遠慮なくおいで」


 ラビルは気さくにそう言って、観客席を見上げる。

 いくつかの視線が洞窟道を見下ろしている事を確認したラビルは大仰に腰を取って一礼し、石板を生み出したかと思うと特殊魔力を用いて即席の飛行機を作り、梯子を使わずに観客席へと飛んで行った。

 観客席に降り立ったラビルは、芸を披露した後の礼儀とばかりに一礼する。

 しかし、誰一人注意を払っていないことに気付き、顔を俯かせながら去って行った。

 ――つくづく地味で締まらない人だな。

 本人が聞けば泣き出しそうな感想を抱いて、キロは苦笑した。

 キロ達が観客席に上がると、受付の男が腕を組んで待っていた。


「余計な時間を取らせないでください。まだ手続きが残っているんですから」


 小言を口にしつつ受付の男は街へと歩き出す。

 キロはクローナに目くばせした。


「ミュト、俺とクローナは街で買い物してくる。フカフカの腕輪を貸してくれ」


 手続きでミュトが動けない間に合格祝いを用意してしまう作戦である。

 ミュトは首を傾げる。


「別にいいけど、今日は街に泊まった方がいいんじゃないかな?」


 どうやら、キロ達が旅の食糧等を買い出しに行くのだと思ったらしく、ミュトは見当違いな事を言う。

 今まで誰かに昇進を祝ってもらったことなどないのだろう。

 フカフカがキロを振り返り、尻尾を一振りする。

 機嫌が良い時の振り方だな、とキロはフカフカの心理状態を読み取った。

 聴覚に優れたフカフカは、キロとクローナが観客席でしていた合格祝いの話を聞き取っていたのだろう。


「好きにするがよい。この街でなら、もうミュトにちょっかいをかける不届き者はおらんだろうからな」


 試験のために手を抜いていたとはいえ、特層級であるラビルから一本取ったミュトの戦闘技術は高い。

 また、ランバルに腕を買われたキロやクローナが護衛である以上、並みの腕では怖気づくだろう。

 街に着いたキロはフカフカの首輪代わりになっていた翻訳の腕輪を受け取ってミュトと別れる。

 クローナと共に街をぶらつきながら、サングラスを探す。

 太陽光とは無縁の地下世界でサングラスは見つからず、キロは休憩がてら民家の壁に背中を預けて代替案を思案する。


「やっぱり、一から作るしかないみたいだな」


 クローナは通りを眺めながら、キロの言葉に頷く。


「材料が問題ですよね」

「サングラスの材料、思いつかないな」


 ――プラスチックだと手に入らないし、曇りガラスとか。

 そう考えて、地下世界ではガラスが高級品だったと思い至る。

 手持ちの金で足りるだろうか、とキロは財布を覗いた。


「……材料見つけた」

「財布の中に、ですか?」


 何を言い出すのか、と怪訝な顔をするクローナに、キロは財布から宝石を取り出した。

 煙水晶である。

 財布に入っていただけあって小さなものだが、地下世界では貨幣の代わりに使われる宝石だ。

 貨幣代わりに使用されるため、地下世界では簡単に入る。


「大きい物と両替して、加工すればいいと思う」

「時間があるといいですけど」


 クローナは地図師協会の方角を気にするが、材料だけでも手に入れようとキロ達は行動を開始した。


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