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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第二十一話  水没地点

 洞窟道にひしめく集合体を前に、ミュトが速度を緩めた。

 小剣を用いた一撃必殺を得意とするミュトは、本体である虫が数匹で泥を維持している集合体のマッドトロルと相性が悪い。


「ミュトさん、交代です」


 速度を緩めたミュトを抜き去り、クローナが走りながら石弾を複数用意する。

 フカフカがクローナの肩へと華麗に飛び移り、本体である虫が潜んでいる集合体マッドトロルの各部を尻尾で照らし出した。

 照らし出された各部にクローナが狙い定めた石弾を放ち、撃ち貫く。

 潜んでいた虫をすべて撃ち貫かれたマッドトロルは、魔力の支えを失いただの泥に戻った。

 地面に泥が広がる頃には、クローナはすでに次弾を撃ち出していた。

 集合体のマッドトロルが次々に泥へと帰る。

 走りながらそれをやってのける魔法の発動速度と狙いの正確さは、平凡な魔法使いには到底真似できないだろう。

 キロはクローナの杖に目を向ける。

 ――まだ蓄積した魔力に余裕はありそうだな。

 クローナが素早く魔法を展開できる理由は、杖を補強するリーフトレージの蓄積魔力だ。

 普遍魔力を動作魔力や現象魔力に振り分ける工程を省き、魔法を即時展開できる。

 裏を返せば、リーフトレージに蓄積した魔力が枯渇した瞬間、魔法の即時展開はできなくなる。

 クローナも慎重にリーフトレージから引き出す魔力の量を調整しているようだが、集合体の数が多すぎて最後まで持つのかどうか、キロは不安だった。

 ミュトが道の先に目を凝らしながら、クローナに声をかける。


「右の壁に寄って、マッドトロルの処理は最小限に留めよう」


 道の真ん中を走るより、右に壁を置くことで敵と接触する面積を少なくする策だ。

 マッドトロルがひしめく洞窟道では壁と挟み撃ちにされるかもしれないため事前に却下されていた策だが、魔力消費を少なくするために多少のリスクはやむを得ない。

 クローナが右側の壁すれすれを走り始める。

 その時、クローナの石弾で処理されるだけだったマッドトロルから初めて反撃があった。

 石弾ならぬ泥弾が撃ち出されたのだ。

 石弾を撃ち出した直後のクローナに防ぐ術はない。


「――甘いな、虫けらめ」


 フカフカがクローナの肩から飛び出し、泥弾を尻尾で叩き落とす。

 地面に着地したフカフカはすぐに飛び上がり、クローナの後ろを走っていたミュトが差し出した手を踏み台にクローナの肩へと戻った。


「あの尻尾、武器にもなるのか」

「魔力を纏いやすいから、動作魔力の効率も良いんだよ」


 キロの独り言にミュトが返す。

 フカフカがキロをちらりと振り返った。


「あまり何度もやれる事ではないのだ。泥が付いては光を放てぬからな」


 マッドトロルの本体が隠れている個所を的確に照らし出しながら、フカフカが期待するなと念を押す。

 ミュトが道の先を指さした。


「そこの曲がり角を右へ」


 昨日も見た曲がり角が目前に迫っていた。

 ランバル護衛団と別れたあの曲がり角だ。

 クローナが二十数個の石弾を準備しつつ、道を曲がった瞬間に撃ち出す。

 曲がり角の死角に潜んでいたマッドトロルが、クローナに反応する暇もなく大量の石弾を浴びせられ、風穴をあけられた。

 曲がり角の先にいたマッドトロルを排除するために足を止めたクローナの横を、ミュトがすり抜ける。

 石弾の射程内にいたマッドトロルが壊滅してできた空白地帯を維持するように、ミュトが特殊魔力による透明な壁を張った。

 クローナとキロが曲がり角を曲がり切ったことを確認したミュトは、特殊魔力の壁を消す。

 すぐさま、フカフカが進路上にいたマッドトロルを照らし出し、クローナの石弾が飛ぶ。

 クローナが再びミュトを抜き去り、石弾を撃ち始める。

 散発的に飛んでくる泥弾はミュトが小剣で切り落とし、間に合わなければフカフカが尻尾で叩き落としていく。

 二人と一匹の見事な連携だが、次第に走る速度が落ちてきていた。

 洞窟道に対するマッドトロルの密度が増し、集合体と個体とが混在し始めたことで、対処が難しくなってきたのだ。

 さらに、リーフトレージに蓄積していた魔力も残量が乏しくなっていた。

 クローナが合間を縫って自身の魔力を練り、リーフトレージに少しずつ供給しているようだが、消費量とは到底釣り合っていない。


「もう少しで落盤のあった地点だよ。頑張って!」


 ミュトが荒い呼吸をしながら伝える。

 戦闘しながら走っているため、魔力だけでなく体力も奪われているのだ。

 後ろを振り返れば、討ち漏らしたマッドトロルが体勢を整えて追いかけてきていた。

 このままでは挟み撃ちにされてしまう。

 ――俺も戦闘に加わるか?

 魔力の温存も大事だが、マッドトロルに殺されては本末転倒だ。

 キロが戦闘に加わるべく走る速度を上げようとした時、フカフカが声を上げ、洞窟道の奥を照らす。


「見えたぞ、落盤地点だ」


 フカフカの尻尾の明かりで照らし出されたのは天井が崩れて塞がった道と、上にぽっかりと空いた穴から続く別の洞窟道だった。

 しかし、集合体のマッドトロルが多くひしめき合っている。どうやら、落盤で生じた柔らかい土を目当てに群がっているようだ。

 天井に空いた穴から続く洞窟道へ行くためには、穴の下から真上に跳躍する必要がある。

 クローナとミュトが群がるマッドトロルを排除しようと各々の武器を構える。


「数が多すぎますね」

「仕方がないよ。一時停止してでも、完全に排除してからでないと上に登れないんだから」


 眉を寄せるクローナの言葉に、苦い顔をしながらミュトが返す。

 クローナとミュトが速度を緩めるが、キロは反対に魔力を練りながら速度を上げた。


「排除する必要はない」


 キロが前を行く二人に声をかけると、クローナとミュトに加え、フカフカまでもが不思議そうに振り返った。


「利用すればいいんだよ」


 にやりと笑って、キロはクローナとミュトの前へと出る。

 練っていた魔力で石壁を作り出してすぐにそれを押し倒し、マッドトロルを支柱代わりに天井の穴へと届く橋を作り上げる。

 集合体は泥を維持し形状を保つ力が個体よりも強い。突然天辺に落とされた石壁にも潰されることはなく形状を維持し、石橋の支えとして機能していた。

 即席の橋を作り出したキロが率先して穴へと駆け上がる。

 石壁が邪魔で攻撃できずにいる集合体のマッドトロルを橋ごしに踏みつけながら、クローナとミュトも続いた。


「ちょっと気分いいかも」


 ミュトが口元に手を当ててくすくすと笑う。


「うむ、お楽しみ中に頭を踏みつけられるなど、虫けら共も思わなかったであろうな」


 フカフカが尻尾を左右に振る。

 意趣返しができて胸がすっとした一同だったが、すぐに気を引き締めて前を睨む。

 マッドトロルの個体がいくつか、ずるずると近付いてきていた。


「こっちの道にも群れてるんだな」

「数は少ないみたいですけどね。ミュトさん、前をお願いします。ここから先は道が全く分からないので」


 クローナが道を譲ると、ミュトが前に出る。フカフカがクローナの肩からミュトへと飛び移った。


「やはりここが一番しっくりくるな」

「ボクは肩こりに悩まされそうだよ」


 機嫌よさそうに言うフカフカに苦笑を返したミュトが、まっすぐ正面を見る。


「水没地点までは細かい分かれ道がいくつかあるから、はぐれないように気を付けてね」


 キロとクローナに方向感覚を失わないように、と注意してミュトは走り出す。

 すぐ近くまで迫っていたマッドトロルをミュトが切り裂き、文字通り道を切り開く。

 ミュトは地図を持っていなかったが、道は事前に暗記してあるようだ。

 クローナとは異なり、最小限の動きでマッドトロルを処理するミュトは魔力に余裕があるのか、速度を落とさずマッドトロルを始末していく。

 ミュトの後ろを行くクローナは、次の戦闘に備えて杖に魔力を込めているようだ。リーフトレージに蓄積した魔力は使い切っても、体内に保有する魔力にはまだ余裕があるらしい。

 ミュトが右手を挙げる。右折の合図だ。

 クローナが石の散弾を放つ用意をしながら走る速度を上げて、ミュトの右隣に並ぶ。

 右折路に差し掛かった瞬間、クローナが曲がり角へ石の散弾を放った。

 一拍おいてミュトが石の散弾に続いて右折路へ侵入、泥から飛び出した無傷の虫を切り落として走り抜ける。

 左折、右折、また右折、グルグルと同じ所を回っているような感覚がしてくるが、曲がる度にミュトとクローナの連携が洗練されていく。

 いつしか、ミュトもクローナも速度を一切緩めることなく曲がり角における処理をこなしていた。

 互いの動きと攻撃範囲を把握し始めたのだ。

 そして、最後の曲がり角を流れるような連携技で左折した時、フカフカがキロを振り返った。


「出番であるぞ」

「やっとか」


 フカフカがミュトの肩からクローナの肩へ、さらにキロの肩へと飛び渡る。

 キロの肩に飛び移ったフカフカは、尻尾の光をスポットライトのように一点を照らすものから周囲一帯を照らす物へと変化させる。

 キロは背後からマッドトロルが来ていない事を確認し、クローナとミュトの間に入る。

 二人の腰に手をまわして動作魔力で持ち上げ、壁へと跳躍した。

 フカフカの光で照らし出される壁の凹凸を見極めつつ、キロは動作魔力をクローナとミュトに作用させ、体勢を維持する。


「フカフカになった気分……」

「扱いが女の子に対するモノじゃないですよね」

「しゃべるな、舌を噛むぞ」


 ミュトとクローナが口々に感想を述べるが、フカフカが黙らせる。

 キロは壁を走りながら、内心で焦っていた。

 ――動作魔力を使っても、さすがに二人はきつい……ッ!

 水没している区画は長かった。

 分かれ道がないのは救いだが、魔力より先に腕が持ちそうにない。

 ――腕が痛い。

 引き攣り始めた口元を悟られないように取り繕っている内に、水没地点の先が見えてくる。

 水没地点の端にマッドトロルが待ち構えていた。個体と集合体が混在している。


「クローナ、魔力は?」

「もうあんまり残ってません」

「わかった、ここからは俺が先頭を走る。討ち漏らしをミュトが片付けてくれ」


 キロは壁を蹴り、魔法で石の壁を生み出して足場にするとクローナとミュトを降ろす。

 水際からマッドトロルの群れが泥弾を撃ち出してくるが、距離があるために躱すのはたやすい。


「それじゃあ、後半戦と行きますか」


 キロは槍を構え、足場にしていた石の壁からマッドトロルの集団が待ち構える水際へと跳んだ。


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