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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第十九話  救援要請の作戦

 魔力を回復するための休息を言い渡され、キロ達は戦線を離れた。

 村は第一防衛線が粘っているうちに少しでも第二防衛線を強化しようと躍起になっているようだ。

 キロ達は土嚢を運ぶ村人を横目に宿へと向かう。


「ミュト、具合はどうだ?」


 キロは背中のミュトに声をかける。

 魔力欠乏で足元が覚束なかったミュトを見かねて背負っているのだ。

 未だに顔色の悪いミュトが、すれ違う村人から隠すように顔をキロの背中に埋める。


「……大丈夫って言っても降ろさないんでしょう?」

「明らかに嘘だからな。少しは良くなったか?」

「吐き気はおさまったけど、クローナが……」


 ミュトが身じろぎする気配を背中越しに感じ、キロは首をかしげつつクローナを見る。


「ミュトさん、良いなぁ。ズルいなぁ」

「クローナ……」


 羨むようにミュトを見つめながら呟くクローナに呆れを込めた視線を向けて、キロはため息をつく。


「今度お姫様抱っこでも何でもしてやるから、体調が悪い奴にそんな顔を向けるな」

「――言質取りましたからね!」


 ぐっと両手を握って、クローナが嬉しそうに言う。

 ミュトが苦笑する気配がした。


「二人は本当に仲がいいね」


 今度はミュトが羨むように呟く。

 キロは機嫌よく歩を運ぶクローナを見ながら、ミュトに言葉を返す。


「色々あったからな。この世界に来る直前も喧嘩したし」

「……喧嘩したんだ」


 戸惑うように、ミュトがキロの言葉を繰り返す。

 ミュトの反応に、キロはくすくすと笑う。


「あぁ、喧嘩もしたし、キスもした――クローナ、何もないところで転ぶなよ」


 キロはニヤニヤしながら、クローナに声をかける。

 クローナは赤い顔でキロを睨んだ。


「羞恥心が転がってたんですよ。でっかい羞恥心が!」

「ちゃんと拾っておけよ。からかい甲斐がなくなったら困るから」

「キロさんにも分けてあげたい、この思い」

「すでに愛でいっぱいだから、入る余地はないかなぁ」


 背中がかゆくなるような気障な台詞をキロが返すと、免疫のないクローナが真っ赤な顔で悔しそうに唸る。

 フカフカがうんざりした様子で尻尾を一振りし、キロの頭をはたく。毛足の長い尻尾はポフッと軽い音を立ててキロの頭に弱い衝撃を与えた。


「お前達、バカであろう?」

「否定はしない」


 キロはあっさりと認める。

 落ちないように首に回されたミュトの腕が少し強く絞められた気がして、キロは肩越しに振り返る。


「……キロ達でも喧嘩、するんだ」


 少し安心したように呟いたミュトは、キロの視線に気付いて顔を上げる。

 キロは肩に乗っていたフカフカの首を片手で摘み、ミュトの顔の前に持っていく。


「ほら、今のうちに言っておく事があるだろ」


 抵抗せずにプランと提げられたフカフカをミュトの前で揺らしながら、キロは促す。

 ミュトは戸惑いがちに視線を泳がせたが、すぐに意を決したようにフカフカを見つめた。


「……ごめん」

「今更であるが、許してやろう。我は懐の広い尾光イタチであるからな」


 偉そうに鼻を鳴らして、フカフカが身じろぎする。

 キロが摘まんでいた首根っこを放してやると、フカフカはミュトの頭の上で丸くなった。

 ――雨降って地固まる、と。

 地下世界では通用する見込みのない慣用句を思い浮かべつつ、キロはミュトを背負いなおす。

 前方に見えてきた宿の前に年かさの女が立っているのを見て、キロは眉を寄せた。


「キロさん、気持ちは分かりますけど、堪えてください」


 露骨に嫌そうな顔をするキロをクローナが肘で突いて諌めた。

 しかし、年かさの女はすでにキロの表情を見た後だったらしく、申し訳なさそうに頭を下げた。


「何の用?」


 ミュトがキロの首筋に顎を埋めながら、年かさの女に訊ねる。

 吐息が首筋をくすぐってキロとしては落ち着かないが、ミュトは声をくぐもらせて性別を偽ろうとしているだけだ。

 年かさの女は申し訳なさそうな顔のまま、村の奥を指さす。


「長老があなた達を呼ぶように言っていてね。付き合ってくれ」


 喜んで、と二つ返事で了承するほど、キロ達は年かさの女を信用していない。

 懐疑的な視線を向けるキロ達に、年かさの女は再度頭を下げる。


「さっきは無理をさせて済まなかった。ランバル護衛団は厳重注意の後、私の指揮下に組み込んで無理をさせないようにする」


 言いたいことはあったが、下げられた頭を見てキロ達は言葉を飲み込んだ。

 代わりに、年かさの女が先ほど指差した村の奥へと足を向ける。


「……ありがとう」


 すれ違う瞬間、年かさの女が呟いた。



 村の奥に足を運ぶと、老婆が待っていた。


「よく来てくれたね。入っとくれ」


 どうやら、この老婆が長老らしい。

 老婆に促されるまま家の中に入る。

 クロスが掛けられた石のテーブルを囲む人影はない。

 老婆が奥の椅子に座り、背筋をピンと伸ばした。


「話は聞いたよ。素晴らしい戦いぶりだったそうだね」

「愚か者の後始末で死にかけたがな」


 フカフカが言い返すと、老婆は無言でただ頷きを返した。


「その話も聞いている。迷惑をかけて済まないね。だけれども、このままだと迷惑をかける事さえできなくなるんだよ」


 深刻な顔で告げて、老婆は一枚の地図をテーブルの上に置く。

 端に泥が付いた地図は、キロの記憶が確かならミュトが作成したものだ。

 ――そうか、救援を呼びに行った村人がマッドトロルに鉢合わせして逃げ帰ってきたんだったな。

 キロの背中から降りて椅子に座ったミュトが、地図を見つめた。


「不備が?」

「いや、地図通りだったそうだよ。途中まではね」


 老婆が地図上の一点を指して、続ける。


「落盤事故、よくある話さ。マッドトロルが泥を補充したせいで天井が薄くなったらしくてね。道が塞がれている上にマッドトロルがたむろしていて近寄る事もできなかったそうだよ」


 書き込むよ、と断って、ミュトが地図に落盤事故の地点を書き記す。

 顎に手を当てて何事かを思い出そうとしていたミュトは、やがて記憶の照合を終えて口を開く。


「この道の上に、細い洞窟道があるはず。確か、水没して使用できなくなってる」


 ミュトが描かれていない細い洞窟道を大まかになぞると、老婆は満足げに頷く。


「若いのに、大したもんだ。二十年前に発見されて、四年前に入り口が水没するまで使用された細い洞窟道があるよ。当時の地図を引っ張り出してきた」


 老婆が古びた地図をテーブルに置く。

 キロの目には全く別の場所を記した地図にしか見えなかったが、ミュトは地図上の文字をなぞり、自らが作成した地図と照らし合わせ始めた。


「水没原因となった水脈はこの村の畑にも水を供給してるはず。まだ枯れてないということは、入り口は水没したまま……」


 地図を睨みながら呟き、ミュトは何かに気付いたように目を見開く。

 ミュトがキロを振り返り、老婆に視線を戻す。


「ボク達に救援を呼んで来いと?」

「現状、手元にある資料だとこれ以外の道がなくてね。そこの槍使い君がいなけりゃあ、村は全滅一直線だよ」


 いきなり話の俎上に挙げられて、キロは首をかしげる。

 クローナを見るが、同様に話についていけておらず、首をかしげていた。

 フカフカがミュトの肩を尻尾でたたく。


「キロ達に説明してやれ」


 フカフカに促され、ミュトはキロとクローナに向き直る。


「ボク達がこの村に来る時に通った洞窟道が落盤事故で塞がっていて、その上を通る古い洞窟道と連結したんだ」


 ミュトの説明を聞きつつ、キロは頭の中で洞窟道の配置を組み立てる。

 話によれば、連結した古い洞窟道は一部が水没しているものの、水没地点を超えていけば滝壺の街へとつながる道であるらしい。

 村にある資料では救援を呼び行ける洞窟道は他にもあるものの、行き来に時間がかかりすぎるため、救援を呼んで来ても村は手遅れとなっている可能性が高いという。

 救援を呼び行く際の問題点は大きく二つ、道中にたむろするマッドトロルの群れと水没地点を越える方法だ。

 そして、この二つの問題を解決できる人材として、キロ達が選ばれた。


「――理由を聞いてもいいか?」


 キロが頭を掻きつつ訊ねると、ミュトが老婆に目を向けた。

 年の功か、ミュトの視線だけでキロの言葉の内容を察したらしい老婆が口を開く。


「第一に、いま村にいる人間で最も機動力と突破力に優れる者である点。第二に水没地点の状況だね」

「水没地点の状況って、どういう事ですか?」


 クローナがミュトに問うと、ミュトは地図の裏にさっと図を描いた。


「胸まで浸かる水深で、渡り切るまでかなり時間が掛かるんだ。マッドトロルが周囲にいる可能性も高いから、迂闊に近づくと殺される。けど、キロなら――」

「壁、ですか」


 クローナがミュトの言葉を先取りしつつ呟く。

 水没地点だからといって、わざわざ泳いで渡る必要はない。

 キロならば水没地点の壁を走って移動ができ、水中ではないためマッドトロルの攻撃に対しても対処が可能となる。

 ランバル護衛団を助け出した際、キロが壁を走ってマッドトロルの囲みを突破したため、老婆は作戦を考え付いたのだろう。

 フカフカが古びた地図を見て、老婆に訊ねる。


「水没した洞窟道がいまだに使える確証はあるのだろうな?」

「……ないね」

「ミュトよ、見立てを聞かせろ」


 フカフカに水を向けられて、ミュトは少し考えた後、はっきりと答える。


「使えるよ」

「ならば、我はこの作戦に賛成である。このまま村に居ってもマッドトロルに押し切られるであろう」


 フカフカの賛同を得て、ミュトはキロとクローナに顔を向ける。


「一緒に来てくれる?」


 キロはミュトの額を人差し指で弾いた。


「行くに決まってるだろ」


 キロが笑いかけると、ミュトは嬉しそうに笑った。


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