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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第十七話  集合体

 マッドトロルの残骸である泥がぬかるみを作り始めても、キロ達は足場の悪さをものともせずに討伐を続けていた。

 目の前の敵を食い止めるのに精一杯の村人達は、キロ達の動きにまで気を配ってはいない。

 しかし、すぐそばで着々とマッドトロルを仕留めるランバル護衛団の仕事ぶりは嫌でも目に入るらしく、ちらほらとランバル護衛団への感謝の声が聞こえていた。

 村人の声に気を良くしたのだろう、ランバル護衛団の動きがあからさまに攻撃的になる。

 より多くのマッドトロルを撃破するための動きだ。

 キロはランバル護衛団の動きに気付き、フカフカへ目を向ける。

 ランバル護衛団は拠点防御に適した戦術を取っている。反面、横列であるため、敵陣に飛び込んでも囲い込まれて押し潰されてしまうだろう。

 ランバル護衛団の攻撃方法は歩調を合わせて正面の敵を倒す戦法だ。

 キロのように直線状の敵を一掃する攻撃でも、クローナのように一面を巻き込む広範囲の攻撃でも、ミュトのように止まる事なく流れるように切り殺すわけでもない。

 どちらが優れているとは断じる事が出来ないが、ランバル護衛団には防衛線から離れて敵に飛び込む戦法は不向きだ。

 指摘して注意を促すべきではないかとキロは思ったのだが、フカフカは首を振った。


「功を焦った連中に、敵愾心を抱かれた我らの助言は届かぬ。それに、余所の心配をしておる場合でもなくなったようだぞ」


 フカフカの言葉に眉を寄せたキロだったが、問い返す前にフカフカが尻尾の光を洞窟道へと向ける。


「……なんか、大きいのが来ましたね」


 洞窟道の奥の影を見て、クローナが呟く。

 通常の五倍近い大きさがあるマッドトロルが洞窟道から侵入してきた。


「大きすぎる気がするんだけど。ボスか」

「群れない魔物だからボスっていう概念はないと思うよ」


 キロの言葉に真面目な返答をして、ミュトがフカフカに目を向ける。

 目を細めて巨大なマッドトロルを見つめていたフカフカが、そうか、と何かに納得する。


「あの中に五つの魔力源がある。つまり、あの中には五匹の本体が入っておる」

「ばらけるのを待てば普通の大きさに戻るって事か」

「ばらけるのは当分先であろうな。あれは交尾中だ」

「……近づきたくないなぁ」


 お楽しみ中の虫達は放っておこうと思ったキロだったが、フカフカが呼び止める。


「待て、産卵前には栄養を求めて狂暴になる。あの図体で襲われては防衛線が破壊されかねん」


 どうやら、無視は許されないらしい。

 キロは仕方なく五匹の集合体に目を向けるが、大きさはそのままに二体目が現れていた。


「増えてるぞ、おい」

「誰が集合体は一体だと言った。洞窟道の奥にまだ七体控えておる」


 ――あの大きさのマッドトロルが七体かよ。

 キロは眉を寄せる。

 泥の質量が五倍になっているため、中の虫を出すために吹き飛ばす泥も多くなる。つまりは倒す際の魔力が多く必要になるのだ。

 それが、九体もいるとなれば、残っている魔力を使い果たしてしまうかもしれない。


「もう少しこちら側に引き寄せよう。デカブツを倒した後で防衛線まで戻れないと困る」


 キロの提案にクローナとミュトも賛成し、集合体の動きに注意しつつ近くにいた通常サイズを始末する。

 集合体がやってきても戦闘が可能なように開けた場所を作ろうとしたのだが、通常のマッドトロルが隙間を埋めるように続々と押し寄せてきた。

 もっとも討伐速度が速いはずのキロ達でさえ、処理が追いつかなくなってきているのだ。

 集合体が、その巨体をのっそりと動かしながら、村人が守る防衛線へと向かっていく。

 ――このままだと間に合わないな。

 キロはクローナ達へ目配せする。


「俺が道を作る。二人は時間稼ぎを頼んだ」

「分かりました!」


 言うや否やクローナが水球を浴びせ、流動性が増したマッドトロルの中の虫をミュトが素早く一刀両断する。

 その隙に魔力を貯めたキロは石弾を撃ち出し、集合体への道を切り開いた。


「よし、いまだ!」


 そう掛け声とともに飛び出したのは、キロ達ではなかった。

 キロが作った道をいつのまにか近くに来ていたランバル護衛団が走り出したのだ。

 驚くキロ達を置いて、ランバル護衛団は通常のマッドトロルには脇目も振らずに集合体へと向かっていく。

 ランバル護衛団の動きに気付いた村人から歓声が上がった。

 通常のマッドトロルを蹴散らしながら防衛線を守っていたランバル護衛団が攻勢に打って出た。しかも、狙いは通常の五倍の大きさを持つ集合体。

 勇敢な進軍に見えた事だろう。

 だが、戦略的には愚の骨頂だった。

 歓声を挙げる村人の中に苦い顔をする人物がいる。指揮を取っていた年かさの女だ。

 ランバル護衛団の戦い方は動作魔力を用いた体当たりで泥を弾き飛ばし、露出した虫を踏み潰すというもの。

 五倍の泥を纏った集合体は重量があり、五匹の虫によって供給される魔力は泥を使った衝撃緩和の能力を強化する。

 ランバル護衛団とは相性が悪いのだ。

 マッドトロルを蹴散らすほどの戦闘力で士気向上を担っていたランバル護衛団が、手も足も出ずに負けてしまっては村人達が集合体に恐怖してしまう。

 戦略的に見て、士気降下に繋がるランバル護衛団の敗北は許されない。

 年かさの女はキロと目が合うと無言で顎をランバル護衛団へとしゃくる。意味はキロにも察せられた。

 ――助けろって言いたいんだろ。でも……。

 キロは自らの視線を使って、年かさの女の視線をランバル護衛団が走ってきた方向へ誘導する。

 キロの視線を辿った年かさの女がすぐに顔を顰めた。


「キロさん、来ます!」


 クローナが杖を掲げつつ注意を促す。

 功を焦ったランバル護衛団が引き連れてきたマッドトロルが、キロ達に標的を変更したのだ。

 ――雑魚をなすりつけて行きやがって!

 キロは槍を構え、マッドトロルを迎え討つ。

 しかし、フカフカが声を張り上げた。


「無理に戦うでない。一時撤退するぞ!」

「……でも、ボク達が逃げたら、ランバル護衛団の退路が無くなる。無理にでもボク達が抑えるしかないよ」


 フカフカの指示にミュトが小さな声で反対する。

 フカフカが驚き、目を見張る。

 反対された事に対してではない。

 意見を衝突させてもなお、一人で戦う、という逃げの選択ではなく、キロやクローナを含めた全員で戦う、という意見をミュトが提案した事に驚いたのだ。

 なぜなら、意見がぶつかっても共に居ようという考えが前提に存在しなければ、出てこない提案だから。

 衝突を嫌って逃げてばかりいたミュトがするには、異例の提案。

 キロはクローナと共にミュトを見つめる。

 一世一代の告白をしたような緊張の面持ちで、ミュトはキロとクローナを見つめ返した。

 キロはミュトに背を向ける。

 撤退しなければ自分達の命が危ない事はフカフカ同様、キロも理解している。自らが助かるために、ランバル護衛団を見捨てるのは仕方がない事だと、割り切る事も出来る。

 だが、村人のヒーローとなりつつあるランバル護衛団を見捨てる選択は、村人に非難されるだろう。

 ミュトへの偏見に具体的な証拠が出来てしまう。

 ――それだけは絶対に避けるべきだ。

 自分には関係ないと割り切るには、ミュトを取り巻く環境をキロは肌で感じ過ぎた。

 あまりにも利己的な形で自分への言い訳を完成させ、キロは苦笑する。

 本音はもっと、簡単なのだ。

 キロの隣にクローナが立ち、水球を準備する。


「さぁ、ミュトさんの成長を祝福して、一暴れしましょうか」

「クローナの、自分に素直なところは尊敬するよ」


 キロが石弾を準備した瞬間、クローナの水球がマッドトロル達に向けて打ち出され、炸裂する。

 水分を追加されたマッドトロル達の纏っていた泥が緩くなった直後、キロの放った石弾がマッドトロル達の泥をまとめて弾き飛ばす。

 キロとクローナの連続攻撃を見つめて、フカフカが呟く。


「まったく、そう言われては逃げられぬであろうが……」


 泥と共に外へ放り出された虫達をフカフカが尻尾の光で指し示す。


「居心地が良すぎて、怖くなるよ」


 ミュトが呟き、駆け抜けざまに小剣の振り回しやすさを生かした連撃で虫達を切り裂いていった。

 ミュトの呟きを聞き取ったキロは笑みを浮かべる。


「衝突してでも意見をすり合わせて行けば、もっと居心地良くなるよ。俺も最近気づいたばかりだけどさ」


 ミュトがキロを振り返り、はにかむように笑った。

 八体ほどのマッドトロルを三人の連続攻撃で仕留めたキロ達は、驕る事無く次に迫るマッドトロルへと目を向ける。


「ランバル護衛団の退路を維持する。きつくなったら言えよ」


 キロが槍を下段に構えながら宣言する。

 集合体に体当たり戦法が通用しないと分かれば、功を焦ったランバル護衛団でも撤退を選択するだろう。

 キロ達は退路を維持し、ランバル護衛団と合流後に防衛線まで一時的に退けばいい。

 しかし、キロ達の見通しの甘さを突きつけるように、事態は暗転する。


「――ちくっしょう!」


 罵声が聞こえて顔を向ければ、集合体と対峙するランバル護衛団の姿があった。

 体当たり戦法が効かないとようやく理解したのだろう、とキロは視線を戻しかけ、慌てて再度ランバル護衛団を見た。

 再び目に入った光景に、思わずキロは舌打ちする。


「この期に及んで手の掛かる奴らだ」


 ランバル護衛団のうち二人が、マッドトロルに顔へ圧し掛かられていた。

 無事な三人は周囲から迫りくるマッドトロルを捌くのに必死で、窒息寸前の仲間を助ける余裕がないようだ。

 ――助けられるか?

 キロは自問する。

 助ける事自体は可能だと思えた。

 だが、恐らく気を失っているだろう窒息寸前の二人を担いで防衛線まで撤退するのは非常に困難である。

 村人達が落胆を含んだ悲鳴を上げる。

 キロが村人を振り返った時、年かさの女と目があった。

 まずい、と思う間もなく、年かさの女がキロ達を指差す。


「地図師、ランバル護衛団を助け出しなさい!」


 申し訳なさに眉を下げながら、それでも年かさの女はキロ達へ命令を下した。


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