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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第八話  ムカデの守魔

 洞窟道の先にうっすらとした明かりが見えた。

 点滅しない蛍のように、光はあちこちに飛び回っている。

 蛍と違って光は強く、周辺を照らしていた。

 街灯にも使われる虫が野生化したものらしい。


「あれがいるという事は近くに水場がある証拠だよ。今回は守魔の縄張りの中にあるみたいだけど」


 地図を確認しながら、ミュトが説明してくれる。

 しかし、キロはミュトの説明を暢気に聞いている余裕がない。

 なぜなら、飛び回る光に照らされた巨大な魔物とばっちり目が合ったからだ。

 ムカデに似たその魔物は灰色がかった甲殻を持ち、無数の足を地面につけている。

 頭部の幅だけで三メートル近く、触覚も合わせればさらに三倍の幅があるだろう。

 かつて相手にしたパーンヤンクシュですら丸呑みに出来そうな巨大さと長大さを併せ持つその魔物は、支柱に阻まれて巨体を入れる事の出来ない洞窟道にいるキロ達を今か今かと待ち受けている。


「大丈夫だよ。あの守魔はここまで来れないから」

「分かっていても、怖い物は怖いですよ」


 安心させようとするミュトに言葉を掛けられても、クローナは怯えたように杖をぎゅっと両手で握った。

 キロは守魔の様子を観察しつつ、ミュトに訊ねる。


「別の入り口の調査から始めるか?」

「そうした方がいいね。反対側へ回り込もう」


 地図を描きながら、ミュトが頷き、踵を返す。


「無駄だと思うのだがな……」


 フカフカがミュトの背後を警戒しながら呟いた。



 フカフカの言葉通り、広間に通じる四つの道のどこから侵入を試みても、守魔が待ち構えていた。

 音か、匂いか、何らかの方法でキロ達の接近を察知しているらしい。


「広間内部の地図がないから、おかしいと思ったよ……」


 ミュトが困り顔で呟く。

 今まで調査に来た地図師達も、守魔を恐れて内部に足を踏み入れる事が出来なかったのだろう。

 今回の調査項目の内、洞窟道の調査自体はすでに終えている。

 問題は入り口付近にある支柱の摩耗状態の調査だ。

 守魔であるムカデの魔物の甲殻は左右に平たく鋭くなっており、移動するたびに支柱を傷付けているらしい。

 支柱の状態次第では広間が崩落する恐れもあり、連鎖的に周辺の洞窟道にも影響が出かねない。

 重要な調査のはずだが、今回のような形でミュトに仕事が回されるからには誰もやりたがらなかったのだろう。

 ――あんな凶悪な面構えで出待ちされたら当然か。


「俺とクローナで守魔の注意を惹きつけるとして、支柱の調査にどれくらいかかる?」


 守魔と周辺の支柱の配置、地面の様子などを頭に入れながら、キロはミュトに訊ねる。


「支柱を一周、ぐるりと回る時間があれば大丈夫、かな。一目見れば太さや高さは判るから」

「一体、どういう訓練をしたらそんな事できるようになるんですか……」


 クローナが感心を通り越して呆れたように呟いた。

 支柱を一周する時間をおおよそ五秒と考えて、キロは作戦を練る。


「クローナはここから魔法で援護してくれ。俺は守魔を支柱から引き離す」


 心配そうな目を向けてくるミュトに微笑みかけて、キロは槍を構えた。


「それじゃ、行こうか!」


 掛け声をかけ、キロは動作魔力を練って広間に飛び込む。

 守魔はすぐさま迎撃態勢を作った。発達した大あごが、頭部の下から伸びていた。

 わざわざ飛び込む必要はない。

 キロは槍の石突で地面を穿ち、槍を支点に方向を転換、守魔の側面に移動する。

 守魔が反応し、キロを追って顔を動かそうとする。

 しかし、キロが横に動いた事で射線を確保したクローナが石弾を撃ち込んでいた。

 空気を切り裂く音を数瞬だけ響かせ、守魔の顎先に石弾が激突する。

 キロの方を向いていた守魔の顔が石弾の直撃を受けて逸れ、キロを視界から外したそのわずかの間に、キロは再度方向を転換する。

 守魔へ正面から仕掛けたのだ。


「――ミュトさん、早くこっちへ」


 クローナの声が聞こえ、キロは視界の端にいるミュトとクローナを確認する。

 ミュトが驚いた顔で足を止めていた。

 正面対決を仕掛けたキロの行動が無謀に思えたのだろう。

 しかし、クローナはキロを特に心配した様子もなく、ミュトを急かした。

 ミュトの事はクローナに任せておけば大丈夫だろうと判断して、キロは守魔を見る。

 体勢を立て直しかけている守魔だったが、視線を外した隙に方向転換したキロの姿を見失っていた。

 キロは動作魔力を纏わせた槍で守魔の左足を払うよう切り付ける。

 一本一本が人間大の太さと長さを持つ守魔の足の関節に、キロは槍の刃を突き立てた。

 ガリガリと硬質な音を立てながら、キロの槍が守魔の足を薙ぎ、切り落とす。

 足を切り落とされた事でようやくキロの姿を発見し、顔を向けた守魔に半径二メートルほどの水の塊が叩きつけられた。

 クローナによる一撃ではあったが、まとまった水量であるにもかかわらず威力はほとんどない。

 守魔も脅威を感じなかったらしくキロに集中しようとするが、先にキロが動いていた。

 水の塊に片腕を突き込み、動作魔力を通したのだ。

 守魔の顔、正確には触覚に当たる部分をキロの動作魔力で生み出された水の乱流がかき回す。

 目を回した守魔が暴れ出す前に、キロは後方へ逃れながら槍で守魔の足をさらに二本、切り落としていた。


「キロさん、撤退です!」

「分かった!」


 身をひるがえし、キロは動作魔力を身体に纏わせ広間を離脱、洞窟道へ滑り込んだ。

 守魔が混乱している内に、キロはクローナとミュト、フカフカを連れて洞窟道を走り、広間から距離を取る。

 しばらく走って十分に距離を取り、キロ達はその場に腰を下ろした。

 肩で息をしながら、ミュトが広間の方向を振り返る。


「守魔の足を三本、切り落とした……?」


 キロ達に視線を移し、ゆっくりと事実を認識する。

 理解がなかなか追いつかない様子のミュトは置いて、キロは新品の槍を見る。


「刃こぼれはなし、とかなりの切れ味だな。あの足を叩き折ろうとしたのに、まさか切り落とせるとは思わなかったよ。あんなに動作魔力を込めなくてよかったな」

「試し切りしておけばよかったですね」


 キロの反省を聞いたクローナがホラオオカミを思い出しながら言う。

 何もおかしなことはなかったように、平然と言葉を交わしているキロとクローナを見て、ミュトがフカフカに声を掛ける。


「ボクの見間違いだったのかな? キロが守魔の足を切り落としていたように見えたんだけど……?」

「にわかには信じがたいが、我にもそう見えた。短時間の戦闘ではあったが、守魔を相手に善戦しているようにも見えたな……」


 互いに見た物が事実だったと確かめて、フカフカはキロに声を掛ける。


「強いとは思っていたが、これほどとはな」


 キロは肩を竦めた。


「クローナの援護があったからな。一人だったら近付く事も出来ない」

「集団でも容易には勝てないからこそ、倒せば像が立つ偉業なのだ」

「倒すのは無理そうだけどな」


 足を落とすだけならばともかく、幅三メートルの胴体となると刃がどこまで通るか分からない。

 せいぜい、切り裂く程度で、切り落とす事が出来るとは思えなかった。


「それに、次からは警戒されてると思う」

「依頼は調査だけですから、守魔を倒す必要はありませんよ。支柱の調査だけきちんと終えて帰りましょう」


 無理は禁物、とクローナは釘をさす。

 もしも守魔を倒せば、ミュトに上層探索の許可を出さない、などという受付のわがままも通らないだろう。

 だが、依頼書がある以上、支柱の調査を終えるだけで目的を達成できる。


「後三カ所だろ。すぐに終わらせよう」


 キロはミュトを促し、次の地点への案内を頼んだ。



 二つ目の入り口はすぐ目の前に支柱があった。

 守魔の姿はない。


「フカフカ、守魔の位置は分かる?」


 ミュトの問いかけに、フカフカは目を閉じて耳を澄ませる。


「足を切り落とした場所で暴れておるようだ。よほど腹に据えかねたのだろう。胴が長い割に気の短い奴であるな」


 愉快そうに尻尾を揺らして、フカフカはミュトを促す。


「今の内にここの調査を済ませてしまえ」


 念のためキロとクローナが周囲を警戒する中、ミュトが支柱を上から下まで眺め、ついでとばかりに周囲に視線を巡らせては視界が利く範囲の地図を描く。


「その地図、高く買い取ってもらえそうだよな」


 守魔の縄張りであり、誰もが存在を知りながらも内部に侵入した事のない場所の地図だ。

 フカフカがミュトの顔の向きに合わせて器用に尻尾を動かし、サーチライトの様に周囲を照らす。


「守魔を倒して一山当てようと目論む輩も多い。一部とはいえ縄張り内部の様子が描かれたこの地図には高値が付くであろうな」

「協会に買い取ってもらうんですか?」


 クローナが魔法の光で視界を確保しながら問うと、ミュトが頷いた。


「地図師から協会が買い取って、他の地図師や行商人に売るんだよ。守魔の縄張りの地図だと行商人は買わないけど、私兵を持っているような貴族なら買うかも」


 今まで縁がなかったから詳しくは知らない、とミュトは困ったように笑う。

 守魔の縄張りに潜入調査など、いままでは夢にも考えなかったらしい。

 フカフカが耳をピクリと動かし、口を開く。


「守魔が大人しくなったぞ。そろそろ移動した方が良さそうであるな」

「この辺りの地形は覚えたから、洞窟道へ戻ろう。キロとクローナも」


 ミュトに呼ばれて、キロとクローナも洞窟道へ戻る。

 広間を振り返るが、虫達がそこかしこで光っているだけで守魔の姿は見えなかった。

 かなりの広大な空間であるらしい。



 その後の二つの調査でも守魔は現れなかった。

 どうやら、広間の中央で傷を癒しているらしく、キロ達の侵入には反応しているものの動く気配がない、とフカフカは言う。


「足を三本切り落とされただけでそんなに堪えたんでしょうか?」


 クローナが広間の中央に顔を向けながら首を傾げる。


「二百本くらいありそうなのにな」


 切り落とした張本人が不思議そうに呟くと、フカフカとミュトが横目で見る。


「数の問題ではなかろう」


 フカフカのツッコミにミュトが頷いた。

 調査がやり易いため、守魔が動かないに越した事はない。

 二つの入り口を調査し、守魔が襲ってこないのをいい事に周辺の測量も済ませてしまう。

 どうせなら最初の地点も地図を作成しておこう、とキロ達は再び足を運んだ。


「……切り落とした足がない」


 守魔との戦闘があった地点で、ミュトが眉を寄せて周囲を見回した。

 キロが切り落としたはずの守魔の足が三本とも無くなっていた。

 協会に持ち帰って度肝を抜いてやろうと思っていただけに、キロは小さく舌打ちする。


「タコみたいに自分の足でもお構いなしで食うのか?」


 無くなった物は仕方がない、と諦めて地図を作製する。

 足を切り落とされた直後に守魔が暴れた影響もあり、支柱の状態を再び調査して、キロ達は町へと引き返した。


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