第十五話 打ち上げと急報
「美味しいところは全部キロ達が持って行くんだもんなぁ」
作戦参加の報酬を後日に回すお詫びか、ギルドが企画した打ち上げの席にはキロ達を始めとした様々な冒険者が集まっていた。
ゼンドルが酒を胃に流し込み、キロを見る。
「ちょっと前まで俺達と実力は変わらないくらいだったはずだろ。大活躍してくれやがってよ」
「相性が良かったんだ。それに、ゼンドル達も活躍してただろう。捕縛十人だっけ?」
岩の手の男がいた建物を守る者や、シールズ捕縛後にやってきた者を含めて十人程、ゼンドルはティーダと協力して捕えている。
「カルロさんがいたからな。あの人、自分は冒険者じゃないから捕えても仕方がない、って俺達に譲ってくれたんだよ」
「その代わりに危なくなるまで二人で戦わされたんだろ?」
「それはそうだけどさ。後ろから竜にでも見守られてる気分だったぜ」
ゼンドルの言う竜はどうしているのかと打ち上げ会場を見回すと、カルロは阿吽の冒険者と酒を酌み交わしていた。
周囲にいるのはベテランらしい冒険者ばかり、カルロ達がいる区画だけやけに年齢層が高い。
カルロ達の横では女性冒険者が固まって話に花を咲かせている。漏れ聞こえてくるのが一々今回の作戦とは関係のない会話ばかりなのはご愛嬌だろう。
女子会のような雰囲気になっている華やかなその場にはクローナとミュト、ティーダの姿もある。
アシュリーと女主人はカルロ達との境で両方の集まりと適度に会話していた。
アシュリーの隣にちゃっかり陣取っている辺り、アンムナは流石である。
キロとゼンドルがいるのは女子会横の男冒険者の集まりである。女子会との境には女装冒険者が七人居座っていたが、キロは目を背けて見なかったことにした。
「キロは酒飲まないのか?」
美味いぞ、と差し出された杯にはなみなみと琥珀色の酒が入っている。
キロは首を振って断り、杯を押し返した。
「明日に響くからやめとくよ」
「結構な額を貰ったはずだろ。そんなに稼いでどうすんだよ」
ゼンドルが不思議そうに問う。
キロは苦笑して、依頼じゃない、とひらひらと手を振った。
「やらないといけない事が残ってるだけだ。どんなにやりたくなくても、やらないといけない事がさ」
これ以上は聞くな、と話を打ち切りつつ、キロは魚のフライを口に運ぶ。
「ゼンドルこそ、これからどうするんだ? やっぱりティーダと一緒に傭兵団に入るのか?」
「いや、カルロさんに稽古を付けてもらおうかと思ってる」
途端に真剣な顔になったゼンドルが、ベテラン冒険者に交じって酒を飲んでいるカルロを横目に見る。
「話も通してある。一年くらい稽古を付けてもらいながら、武器防具の商売をしているカルロさんの知り合いを紹介してもらって、人脈広げてから傭兵団に入るつもり」
「なるほど。傭兵団なら武器を扱う商人との人脈があった方がいいのか」
ゼンドルも考えて行動してるんだな、と少し失礼な感想を抱きつつ、キロは納得した。
ゼンドルがカルロと談笑している阿吽の冒険者を指差す。
「あの二人はカッカラでアンムナさんの代わりに魔物狩りをするとさ。昔カッカラにいた事があるらしいぜ」
そういえば以前に聞いたことがあったな、とキロは思い出す。
カッカラの周辺は魔物が多く、街の食糧も周辺の魔物で賄っている。
シールズが逃走してからはアンムナが代わりに魔物の間引きを行っていたが、アシュリーが生き返ったためにカッカラに戻る事が出来ない今、阿吽の冒険者に後を引き継ぐのだろう。
「それじゃ、この街で解散だな」
名残惜しい気はしたが、またどこかで会う機会もあるだろう、とキロは頭を切り替える。
明日は早くに動き出さねばならないため、キロは打ち上げの席でそれぞれに別れを告げておこうと思い、席を立った。
宴も終わりに差し掛かり、キロは挨拶を済ませてクローナとミュトの元に向かう。
「そろそろ店を出る」
キロが事前に言い聞かせていた事もあり、酒を勧められても断っていたらしいクローナとミュトはあっさり立ち上がる。
「ちょっと名残惜しい気がしますね」
「また機会があるさ」
「表彰式みたいなのはもう嫌だけどね」
そう言ってミュトが苦笑すると、肩に乗ったフカフカが鼻を鳴らす。
「豪華な食事が食べられてよかったではないか。我はシールズの魔力で腹をやられて吐いた後、何も口にしとらんのだぞ?」
文句たらたらなフカフカに、ミュトは苦笑を深めた。
作戦に参加した冒険者達がキロ達三人と一匹の動きに気付き、手を振る。
キロ達も手を振り返して、打ち上げの会場である料理屋を出た。
通りに出てみれば、明るい太陽が見下ろしてきた。
山城から町に帰還した時点で昼頃だったため、まだ空は明るいのだ。
「そういえば、宿を取っていませんね」
思い出したように、クローナが空を見上げた。
暢気なクローナとは異なり、ミュトは通りを見回して宿を探す。
「窃盗組織の件で冒険者の人がたくさん来ているから、早くしないと部屋が取れないよ」
ミュトが危機感を告げる。
また幌馬車の中で眠る事も出来るが、今は冬の真っ盛りだ。連泊すれば風邪をひきかねない。
丁度いい、とキロが今後の予定を詳しく説明しようとした時、通りの向こうから走ってくる人物が目に入った。
昼の大通りを走ってくるその人物に目を凝らすと、ギルドに残っていた冒険者だと分かった。
キロは言いかけた言葉を飲み込み、冒険者に声を掛ける。
「そんなに慌てて、どうかしたのか?」
冒険者はキロの前まで来ると、膝に手を付いて息を整え、打ち上げ会場の料理屋を指差す。
「入ってください。ギルドに急報が入ったもんで、みんなに知らせろとギルド長が」
事情が分からないキロ達は冒険者に言われるまま料理屋に戻る。
今日の料理屋はギルドが貸切っているため、外からの客はないと考えていたのだろう、騒いでいた冒険者達が一斉に入口に立つキロ達を見る。
「どうした、キロさん、忘れ物か?」
「いや、こいつが急報があるとかなんとか」
キロは未だに息が荒い冒険者を料理屋の中に押し込む。
冒険者は一つ大きく深呼吸をした後、料理屋全体に響く様に声を上げる。
「――竜が空を食ってるらしい」




