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複数世界のキロ  作者: 氷純
最終章  新世界の三人と一匹

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第九話  奇襲作戦開始

 夜明け前の最も暗い頃、キロ達は野営地を出発した。

 事前に女主人の特殊魔力で魔物を追い払った突撃経路を音もなく走る。

 キロが後方を振り返ると、少し離れたところを野営地にいた冒険者達が付いてきていた。

 キロの隣で、ミュトが地図に視線を落とす。


「そろそろ速度を上げて、後ろの人達から離れた方がいいよ。ボク達は陽動部隊なんでしょ?」

「アンムナさん、前をお願いします。山城に着いたら壁に大穴を開けてください」

「了解だ。アシュリー、急ぐよ」


 アンムナとアシュリーが急加速し、女主人がその後ろを追走する。

 流石に冒険者歴が長いだけあって動作魔力の扱いにも慣れているらしい。

 アンムナ達三人は見る見るうちに小さくなり、夜の森へと消えて行った。

 キロは槍の握りを確かめて、クローナとミュトの前に出た。


「最初の狙いはシールズだ。逃走を防がないといけないからな」


 キロが確認すると、クローナがミュトの肩の上で足元を照らしているフカフカを見る。


「前回と同じくミュトさんの特殊魔力で拘束してフカフカさんが特殊魔力を食べる流れで良いですよね?」

「今回は俺とクローナもミュトの特殊魔力を使えるけどな」


 リーフトレージに特殊魔力を込めてあるため、使用できる回数は少ないながらもキロとクローナはミュトの特殊魔力を扱う事が出来る。


「ミュトはシールズに警戒されているはずだ。真っ先に狙われるかもしれないから注意しろよ」


 ラッペンにおけるシールズとの戦いで空間転移の特殊魔力を見破れる事と無効化する特殊魔力をミュトが持っている事はシールズにも知られている。

 ミュトが頷き、森の先に見えてきた山城を見て小剣を抜いた。


「いざという時はキロとクローナが守ってくれるでしょ?」

「当たり前だ」


 笑みを返して、キロ達は山城を睨み、速度を上げた。

 森から出てきたキロ達を見て、アンムナが丸太を立てて作られた山城の壁に手を触れる。


「――戦闘開始!」


 キロが宣言すると同時に、山城の壁の一部が吹き飛んだ。

 山城内部に向けて丸太だった木片が派手に舞い散る。

 飛び込んだキロは、舞い落ちる木片を口を半開きにして呆然と見ていた窃盗組織の男を殴り飛ばした。

 キロに続いてフカフカを肩に乗せたミュトとクローナが入る。

遅れて阿吽の冒険者、カルロ率いるゼンドル、ティーダ組が山城に入った。


「アンムナさん達はここで退路の確保をお願いします」

「あぁ、くれぐれも気を付けて行っておいで」


 緊張感のない言葉で見送って、アンムナは山城の壁に再び奥義を発動する。

 立てられた丸太が次々と爆散して、空堀の一部を埋め立てた。

 女主人が山城をぐるりと囲むように特殊魔力を張り始めるのを視界の端に収めた後、キロは山城内部に視線を走らせる。

 同様に周囲を見回していたフカフカが、キロに声をかけた。


「物見やぐらの上に特殊魔力が張ってあるな」

「分かった。クローナ、右側から物見やぐらに遠距離攻撃、片端から壊しておく」

「火で良いですよね。突撃班の冒険者に戦闘が始まった事を教えたいですから」


 未だ太陽は昇っていない。火球を打ち上げればかなり目立つ事だろう。

 キロも右手に現象魔力を集め、火球を作り出すと向かって左側から物見やぐらに攻撃を加えて行った。

 七つある物見やぐらを破壊し終える頃には、山城の内部もキロ達の襲撃に気付いて騒がしくなってきていた。

 しかし、武器や防具を装着した状態で眠っていた者はいないらしく、建物の中が騒がしいだけで誰一人出てこない。

 シールズの監視網を周囲に張り巡らせた山城の中にいるという安心感が、彼らに日頃の準備を怠らせたのだ。


「中央に向かおう。シールズがいるとすれば、組織の頭の近くだろうから」


 後から出てきた窃盗組織に囲まれる可能性があるものの、キロは当初の予定通りに行動する事に決めて走り出す。

 どちらにせよ、突撃班の冒険者が四方から山城に攻めかかるのだ。準備を終えた構成員も突撃班との戦闘で手いっぱいになるだろう。

 キロ達は中央に見えるひときわ大きな建物に走る。

 宿舎と武器庫の前を通りかかるが、慌ただしい気配があるだけで構成員は外に出てこない。未だに事態を把握していないらしい。

 耳を立てて宿舎内部の声を拾っていたフカフカが唐突にキロ達へ呼びかける。


「止まるのだ。賊が窓から顔を出す」


 フカフカの指示に従い、キロ達は一斉に足を止め、ミュトの近くに集結する。

 窃盗組織の男が窓から顔を出したが、ミュトが素早く頭上に特殊魔力の壁を張った。

 ミュトが頭上に張った特殊魔力の壁が空間を数秒前の状態に戻し、キロ達全員の姿を隠す。

 窃盗組織の男は外を一通り眺め、アンムナが暴れているだろう防壁の方へ顔を向けた。


「――防壁の方がなんか騒がしいみたいだ」


 宿舎の中に報告しながら、男は窓を閉めた。


「……行こう」


 男をやり過ごした事を確認して、キロ達は再び走り出す。

 一度も窃盗組織の人間に見つかることなく中央のひときわ大きな建物に辿り着いて、キロ達は物陰に姿を隠す。

 山城が機能していた頃は司令部兼上官の宿舎であった建物は四階建ての立派なものだった。

 石造りの頑丈な建物でもあり、耐火性にも気を使っている事が分かる。

 入口に人影はないが、フカフカの耳を頼りに内部を探ってみたところ一階部分だけで十人程が潜んでいるらしい。

 にわかに山城の外が騒がしくなった。

 阿形が防壁を振り返り、目を細める。


「突撃班が攻撃を仕掛けたようだな」

「早くシールズと接敵しなければ、防壁の突撃班に奇襲を掛けられるかもしれないのか」


 ゼンドルが焦ったように言うが、キロは首を振る。


「防壁にシールズが現れた時はアンムナさんとアシュリーさんが対処してくれる。あの女主人もいるし、問題ないだろ」


 女主人と聞いて、阿吽の冒険者とカルロが盛大に顔をしかめる。

 以前、悪臭の特殊魔力で無力化された事を思い出したのだろう。


「空間転移した先であの臭いに出迎えられたら……少し同情してしまいますがね」


 カルロが鼻を弄りながら呟く。

 キロは一瞬だけ苦笑したが、気を引き締める。


「防壁にアンムナさん達がいるのはあくまでも保険です。俺達ができる限りシールズ達を捕まえないといけません」


 キロは四階建ての建物を見上げ、高さを目算する。

 クローナとミュトがキロの視線を追って、考えを見抜いたように頷いた。

 キロの左右に立ったクローナとミュトに頷いて、カルロ達五人を見る。


「二手に分かれましょう。俺達三人と一匹で、あの建物の最上階から攻撃を仕掛けます。カルロさん達は五人で建物の正面から乗り込んでください」

「建物の中で上下から挟み撃ちか。手早く終わらせるならそれがいいだろうな」


 阿形がキロの作戦に賛同しつつ、建物を見上げる。


「……そういえば、町の防壁を駆け登ったんだったな」

「お察しの通り、壁を登って窓から侵入します。中で落ち合いましょう」

「おう、気を付けてな」


 建物の入り口に向かう阿吽とカルロ、ゼンドル、ティーダを見送る。

 キロはクローナとミュトの腰に手を回し、動作魔力を練った。


「それじゃ。奇襲を掛けようか」


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