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複数世界のキロ  作者: 氷純
最終章  新世界の三人と一匹

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第六話  窃盗組織の状況

 ラッペンに着いたのはすっかり日も落ちた頃だった。

 窃盗組織の報復を警戒して門は閉じられていたが、キロの顔を覚えていた冒険者が守衛の騎士団に掛け合い、例外処置として門を開けてもらった。

 騎士団長は責を問われて更迭され、副団長は窃盗組織との戦いで死亡しているため、騎士団の臨時統率権をギルド長が持っている事も関係しているのだろう。

 キロは騎士と冒険者に礼を言って、ラッペンの門をくぐり抜ける。

 まずは状況の把握を行うためギルドへ足を向けるが、アンムナとアシュリーが立ち止った。


「僕らは宿の方に向かうよ。彼女を仲間に引き込んだ方がいい」


 女主人の事を言っているのだろう。

 拠点防御はもちろん、敵アジトを包囲する場合においても有用な特殊魔力であるため、仲間にいてもらえれば心強い人物ではある。


「口止めもしないといけないから」


 アシュリーがもう一つの理由を語る。

 女主人は生前のアシュリーを知る人物であり、キロの特殊魔力に気付きかねない。

 それならばいっそ事実を教え、口止めをした方が良いという考えだろう。

 許可を求めるようなアシュリーの視線に、キロは頷きを返す。


「説得をお任せします。俺達はギルドで待っているので」


 落ち合う場所を決めると、アンムナとアシュリーはキロ達に背を向けて別行動を開始した。

 キロはギルドに向かう。

 すれ違うのは観光客や行商人ばかりだったが、あまり明るい顔を浮かべてはいない。

 囁くような噂話をフカフカが拾ったところでは、窃盗組織との戦いの影響で騎士団の不甲斐なさが露呈したため、防衛面での懸念が持ち上がったようだ。

 観光客や行商人は早くラッペンを出て行こうとしているらしい。

 キロは背中で身動ぎする気配を感じて、肩越しに振り返る。


「眠り姫、ようやくお目覚めか?」

「……もしかして、半日くらい寝てた?」


 ミュトが目を擦りながら暗くなった空を仰ぎ、街中でキロに背負われている事に気付いて慌てて降りる。

 地面に足を付けたミュトは気恥ずかしそうに俯いて、服の皺を伸ばした。

 クローナの肩からミュトの肩へと、フカフカが飛び移る。


「よほどキロの背中が心地よかったとみえる。ムニムニよ、気分はどうだ?」


 声に笑いの気配をにじませながら、フカフカがミュトをからかう。

 ミュトはほんのりと頬を赤く染めつつ、頷いた。


「全然揺れなくて温かいから、すぐ眠くなって……。気分はもう大丈夫。というか、ムニムニって何の話?」


 ミュトはフカフカを見て、小刻みに揺れる尻尾から碌でもない話だと察したのか、難しい顔でキロを見る。

 キロは親指を立て、笑顔を浮かべた。


「役得って話だ」

「私はおこぼれに与りました」


 キロと同じく笑顔で、クローナが便乗する。

 難しい顔から不安そうな顔になったミュトが眠っていた間の事をしきりに訊ねてくるのを飄々と受け流していると、ギルドに到着した。

 ギルドの中は閑散としていた。

 見るからに腕の立つ冒険者が二人、左右の壁に背中を預けているが、他に冒険者の姿は見当たらない。

 夜とはいえ、やけに警備が手薄だと思ったが、受付の職員によるとギルドの業務のほとんどを一時的に騎士団詰所に移しているらしい。


「どちらも被害が大きかったので、人員の補充があるまでは統合した方が警備がやりやすいんです」


 職員の説明に納得したキロ達は、名前と窃盗組織討伐への参加を告げる。

 キロ達の名前に少し驚いたような顔をした職員は、少々お待ちくださいと言い残して奥に引っ込んだ。

 その隙に、キロはフカフカに声を掛ける。


「シールズの特殊魔力で盗聴されてないか?」

「安心するがよい」


 フカフカの答えにほっとして、キロは職員を待つ。

 しばらくして、職員はギルド長を連れてやってきた。

 カルロが目を見開く。


「言ってもらえれば、こちらから騎士団詰所に足を運びましたよ」


 今やギルドと騎士団二つの防衛機構を統率するラッペンの重要人物であるギルド長が直々に足を運んでくる事態に、カルロのみならず壁際にいた警備の冒険者まで驚きをあらわにする。

 しかし、キロはクローナやミュトと一瞬視線を交差させた。

 クローナが一歩前に出てギルド長に声を掛ける。


「騎士団詰所では話せないんですか?」


 ギルド長は肩を竦め、察しがいい、と呟いた。

 ちょうどその時、ギルドの入り口が開かれ、アンムナ、アシュリー、女主人の三人が入ってくる。


「間に合ったようだね」


 アンムナは笑みを浮かべてツカツカとキロ達へ向かう。

 キロ達のそばにはギルド長がいるため、警備の冒険者二人が進路を妨害しようとするが、ギルド長が直々に制止した。

 女主人が挨拶するように片手を挙げ、キロに目くばせする。


「なんて挨拶しようかね。六年ぶり、でいいか?」


 女主人が冗談めかして挨拶する。

 キロとクローナ、ミュトは笑みを浮かべて頷いた。


「ある意味、六年振りですね。再会を祝して、六年ぶりに一緒に仕事をしませんか?」

「あん時のお前らはさっさと消えちまったじゃないか。アンムナとアシュリーまで消えやがって、ギルドに根掘り葉掘り聞かれて面倒だったんだぞ」


 キロの首に腕を回して、女主人はキロの頭に拳をぐりぐりと押し付ける。

 ギルド長に目を向けた女主人が、アンムナとアシュリーを顎で示す。


「この面子で窃盗組織の討伐戦に参加する。好きに使え」


 ギルド長はアンムナを見て、目を細めた。


「確か、シールズの師匠の……。そちらの女性は?」

「僕の相棒だよ。ついこの間、駆け落ちしてきたんだ」


 さらりと嘘を吐き、アンムナはキロに向けて片目だけ閉じて見せた。

 キロの考えた設定を使う事にしたらしい。

 見え透いた嘘ではあっても、アンムナや女主人は単独でもかなりの戦力になると知っているギルド長は深く事情を聴く事はせず、キロ達を見回した。


「窃盗組織の根城を捜索する冒険者はすでに出発しているのだが、現場は少々困った事になっている」


 ギルド長はここから先の話は内密に、と前置きして話し出した。


「まず経過と状況を説明しよう。ここラッペンに存在した窃盗組織のアジトに使われた倉庫を調査したところ、最奥の部屋からは何も出てこなかった。つまりは持ち出されたと推測できる。倉庫を借りたのもつい最近の事だと分かった。あれは仮の拠点だったと見るべきだ」


 そんな事だろうと思った、というのがキロ達の感想だが、ここからもう一つ別の事実が浮かび上がってくるという。

 カルロがギルド長の言葉を先回りして、結論を口にする。


「他の街にも仮の拠点が存在するんでしょうな。その中に根城となる本拠地もあるかもしれない、と」

「その通り。すでにいくつかの街に連絡を取り、貸倉庫などを大々的に当たっている。しかし、窃盗組織による妨害は実に散発的だった。捕えた下っ端の口を割らせてみれば、東の方の山岳部に根城が存在しているらしい」


 ギルド長が職員を振り返り、何事か合図をする。

 職員が手元の地図を広げ、掲げて見せた。

 山の高さも分からない雑な地図だが、山と道の配置だけは辛うじて判別がついた。


「ギルドの過去の資料によれば、十年近く前に騎士団が立てた山城のようだ。魔物を定期的に討伐するための拠点として使われていたものの、街の発展に伴って冒険者の数が増え、魔物討伐を完全にギルドに任せ、山城は使われなくなったらしい」

「厄介な物を放置しておくなよ」


 ゼンドルが苦い顔で呟くと、ティーダがため息を吐いて頷いた。

 キロはクローナと共に地図を覗き込み、街との距離を目測する。徒歩で半日ほどは離れているように見えた。

 魔物を討伐するための拠点というだけあって、山の奥深くに作られているのも気にかかる。


「この周辺の魔物は強力な個体ばかりだ。特に山城周辺は魔物が多い。どうしてこんな場所を拠点にしたのかは、シールズが絡んでいると推測されている」

「空間転移で魔物を無視して出入りできるからか。本当に便利だな」


 シールズの特殊魔力を以ってすれば、強力な魔物の群れは山城を守る防衛兵に過ぎなくなる。

 窃盗組織の側としては、魔物が群れている方が安全なのだ。

 ギルド長は苦い顔で話を続ける。


「魔物が強力すぎるため、参加した冒険者の中から辞退する者が出始めている。窃盗組織も根城がばれたと知れば、いよいよ都市同盟の外へ逃亡を図るだろう。時間の猶予はないが、手を出せなかったのだよ」


 窃盗組織の居場所まで掴んでいるのに動き出せない不甲斐なさをため息にして吐き出したギルド長は、実はもう一つある、と口にするのも嫌そうに切り出した。


「最寄りの街に冒険者を集結させれば窃盗組織に気取られかねん。そこで、近隣の森に冒険者を野営させているのだが、シールズの特殊魔力が根城周辺に張ってある可能性が否定できず、対応策がない。つまり、奇襲が出来ない」


 うわぁ、とキロは思わず額を抑えた。

 単なる山城がシールズの特殊魔力ひとつで難攻不落の堅牢な城に思えてくる。

 だが、ふと気付く。

 これは絶好の機会だ、と。


「……俺に一つ、作戦がありますよ」


 キロは集まった面々を見回しながら、作戦を説明した。


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