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複数世界のキロ  作者: 氷純
第三章 世界の岐路

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第三話  地下世界の考察

「悪食の竜、か。興味深いね」


 キロが土産話に地下世界の旅の顛末を語ると、遺物潜りの考案者、アンムナは顎を撫でながらミュトを見た。

 視線を向けられたミュトは、揺り椅子に座るアシュリーの隣で窓から空を見上げている。

 アンムナからアシュリーを人形だと紹介されたミュトは疑問を覚える事もなく、興味を持つ事もなく、青空を見上げ続けている。

 クローナの世界に戻ってきて丸一日、女装についての講義を終えたキロ達はいくつもの疑問を抱えて司祭がいる町を出発し、アンムナを訪ねた。

 だが、一日程度で空を見飽きるはずもなく、ミュトは四六時中空を見上げ続けている。

 ひまわりだって時々は俯くだろうに、とキロは苦笑する事しきりだ。

 アンムナはミュトと、その肩に乗るフカフカを興味深そうに見つめて、くすりと笑う。


「地下で人々が暮らす世界とは……色々な世界があるんだね」


 行ってみたいな、としみじみ口にした後、アンムナはキロに向き直る。


「さて、遺物潜り自体は成功したようだけど、何か疑問はあるかい?」


 アンムナに本題を切り出されて、キロは頷く。

 遺物潜りは死亡した持ち主の念を媒体にして異世界への扉を開く魔法であり、持ち主が死亡した直後の世界へ行くことができる。

 しかし、キロとクローナが地下世界に赴いたところ、周辺に持ち主の遺体は存在せず、地下世界の住人にとっては未知の場所である未踏破層の先に存在した虚無の世界で、遺体もないのに念が解消された事を示す帰還の扉が開いた。

 遺体が持ち去られたと考えても不自然な場所であり、何よりも懐中電灯の持ち主である女子高生は自力でロウヒの縄張りを越えた形跡がある。

 改めて考えても、疑問がいくつか浮かび上がってきた。

 疑問の一つをクローナが口にする。


「懐中電灯で潜った先が何故か地下世界の中層だった事が今回の発端ですよね」

「最初からロウヒの縄張りの奥にあったあの虚無の世界に出ていれば、面倒がなかったよな」


 キロは塵一つない真っ暗な空間を思い出す。

 手持ちの情報では、懐中電灯の持ち主である女子高生は虚無の世界で餓死したと考えられる。

 持ち主が死亡した直後の世界への扉が開くのであれば、女子高生が餓死した直後の虚無の世界に出てこなければおかしい。

 しかし、アンムナはすでにこの疑問に対する答えが出ていたらしい。


「それは魔法の性質上、仕方がないと思うな」

「どういう事ですか?」

「遺物潜りは物に宿った念を媒体にする魔法だからね。今回の場合、持ち主は懐中電灯と旅をしたかったという無念があったんだと推測できる。そこで遺物に宿った無念を晴らす魔法である遺物潜りを発動したのだから、無念を晴らすための行動が求められ、持ち主と同じ虚無の世界まで懐中電灯と〝旅をする〟必要が出てきたんだ。そして、キロ君達が遺物を同じ虚無の世界に〝旅の果てに辿り着いた〟から、無念が晴れて、遺物潜りの発動終了を告げる帰還の扉が開いた」


 流石は開発者と言うべきか、理路整然と持論を並べるアンムナにキロは聞き入った。

 少し間を置いて理解したキロは納得する。


「つまり、遺物潜りはあれで成功だった、という事ですか」

「そうなるね。持ち主の願いが、懐中電灯をこの手に持っていたかった、なら直接虚無の世界に行けたかもしれない。懐中電灯そのものに虚無の世界の記憶がないから、相当念が強くないと難しいけどね」

「それなら、虚無の世界で懐中電灯をこの手に持っていたかった、という無念なら位置情報も念に込められているから、虚無の世界に直通ですか?」

「そうだと思うよ。何度も遺物潜りを行って確かめてみないと確かな事は言えないけどね」


 キロは頭の中で時系列を必死に思い浮かべ、納得する。


「それって、この世界で誰かが別の世界に行きたいと思って死んだら、遺物潜りで別の世界に行けるってことになりますよね?」

「行けるだろうね。ただ、別の世界を強く想像して死ぬことができる人はまずいないと思うよ」


 ――結局、俺と同じ世界から来たらしい遺品を探す以外に方法はないか。

 媒体の幅が広がるかもと期待しただけに少し残念だった。

 その時、キロの肩にフカフカが飛び乗った。


「アンムナと言ったな。悪食の竜に関しては何か分からぬか?」


 フカフカの言葉を聞いて、ミュトが振り返った。

 アンムナは困ったように天井を仰ぐ。


「話を聞く限り、空間を食べて虚無の世界にしてしまう竜みたいだけど、良く分からないな。僕は異世界の生物には詳しくないからね」

「そうか。それにしても、我が口を利いても驚かぬのだな。この世界には人以外に言葉を話す生物はいないと聞いたのだが」


 フカフカが尻尾を揺らし、訝しむ様にアンムナを見上げる。

 アンムナはわざとらしく肩を竦めて、フカフカの首を指差した。


「君が翻訳の腕輪を首に掛けている時点で予想がついていたからね」


 アンムナの答えを聞いたフカフカは首にかけた翻訳の腕輪に前足を掛けて引っ張る。


「目敏い男であるな。観察されている気がしたのは我の早とちりであったか」


 なおも怪しんでいる様子のフカフカに苦笑を返したアンムナは謝る。


「気に障ったなら謝るよ。僕も人並みに異世界に興味があるんだ。キロ君やミュト君は人間だからいまいち実感がなかったけど、君は動物だからね。好奇心をそそられるんだよ。という事で、いくつか質問してもいいかな?」


 フカフカから尾光イタチの生態を聞き始めるアンムナを横目に、キロは考えをまとめる。

 隣で同じように考え事をしていたクローナがキロを肘で突く。


「終着点に旅の終わりを迎えた遺体がなかった理由ってわかりますか?」

「死後に誰かが持ち去った、と考えるのが妥当だろうな」

「その誰かはやっぱり」


 口に出さず、キロはクローナと目を合わせ、頷いた。


「十中八九、悪食の竜だ」


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