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複数世界のキロ  作者: 氷純
第三章 世界の岐路

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第二話  女装の講義

 受付の男性が深刻な顔で言うには、シールズの空間移動の特殊魔力を用いた窃盗事件が相次いで起こっているという。


「好き放題やられて、ギルドも各街の騎士団も面目丸潰れです。盗品の数からみて、近い内にオークションがいくつかの街で同時開催される見込みで、犯罪組織の検挙に力を貸してくれる冒険者を探していました」

「拒否権は?」

「ありますよ。別の形で協力してもらいますが」


 キロはクローナと顔を見合わせる。


「お金はどれくらいあるんだ?」

「出発する時に翻訳の腕輪を買ったりしたので、残金は心許無いです。でも、アンムナさんのところに行ってから稼ぐことにしても遅くはないと思いますよ」


 余裕はあるらしい。

 シールズはもともと腕の立つ冒険者であり、特殊魔力を隠し立てしなくなった今ではキロ達の手に余る相手だ。

 戦闘を回避するのが無難だろう、とキロは受付の男性を見て、別の形の協力を申し出る。

 すると、受付の男性はなぜか待ってましたと言わんばかりの笑顔で頷いて、立ち上がった。


「それでは、キロさんと同じくオークション会場への潜入調査を依頼しておいた何人かの冒険者に女装の仕方を教えてください」

「待て、何故そうなる」


 キロはすかさず突っ込みを入れるが、受付の男性は明日また来てくれと言ってギルドの奥へ消えて行った。女装させる冒険者に声を掛けに行ったのだろう。

 藪蛇だった、と額を抑えるキロに、クローナがくすくす笑う。


「久しぶりに可愛いキロさんが見れますね」

「俺は教える側だ。あぁ、もう、この際だからミュトも化粧の仕方を覚えとけ。少し勝手が違うけど、応用は利くだろ」


 開き直って、キロは自らの鞄からクローナの世界の貨幣が詰まった皮袋を取り出す。

 いくらか見繕って、当面の資金としてミュトに渡した。


「この依頼が終わり次第、別の街に向かうから、旅装を整えておこう。帽子も買った方がいい」


 地下世界とは違って日差しがあるため、必要な物も異なるだろう。

 どうせ町まで来たのだから、とキロはミュトの旅支度を整える事に決めて、ギルドを出た。

 フカフカがギルドを振り返り、鼻を鳴らす。


「キロよ、悪目立ちしておったようだが、昔何かしたのか」

「あぁ、訓練教官と喧嘩したり、実戦形式の試合でクローナと一緒に相手の二人組を完封したり……」

「それで睨まれておったのか」


 納得するフカフカから視線を逸らし、キロはさりげなく背後のギルドから出てくる男達の視線を気にする。

 ――クローナと手を繋いで入ったのは失策だったな。

 妬まれてそうだと思いつつ、キロは足を速めて退散する。


「男装はもうやめるんだろ? 服も新しく買い足さないとな」


 あれこれと必要な物を思い浮かべつつ、キロ達はまず服屋に向かう。

 並べられた商品は古着ばかりで、新品は値が張るためあまり出回らない。新品が欲しければ注文するのだろう。

 しばらくは冒険者生活をすることになるため、動きにくい物や肌の露出が多い物は避けなくてはならない。

 自然と女性向けの物は数が限られてしまう。

 しかし、現地で培った長年の経験か、クローナはミュトの体にあれこれと服を当てては似合いそうな物を選んでいく。

 キロはキロで、服をクローナに任せて髪飾りなどの小物を見繕った。


「ボクには似合わないと思うんだけど」

「鏡見てから言いましょうね」

「慣れれば可愛くなるって。後は髪型だな」


 好き勝手に弄り回し、着せ替えたミュトを一回転させて確認したキロとクローナは互いに頷きあう。


「流石に良い仕事するな」

「キロさんこそ、女装歴はだてではありませんね」

「うるさいぞ」


 キロはクローナの頬を人差し指で両側から突いて黙らせる。

 明日には女装のやり方を冒険者に教える事になるため、キロはいくつかの化粧道具を買い直す。

 また化粧道具を手にする日が来ようとは思わなかった、とキロはため息を吐いた。


「とりあえず眉毛だけでも整えておくか」

「キロ、なんだかんだで乗り気だね」

「だからこそ、あの受付に付け入られたのであろうな」


 好き勝手に言葉を交わすミュト達を無視して、キロは教会への帰り道を行くのだった。



 翌朝、ギルドに出向いてみると何とか誤魔化せそうな体型の冒険者を二十人ほど紹介された。

 受付の男性が冒険者達を手で示す。


「潜入調査の実績はありますが、変装はあまり得意ではない者達です。腕は立つので、女装の仕方だけ教えていただければ、後はこちらで何とかします」


 キロは冒険者を見回して、腕を組む。


「全員に教えるのか?」

「三人ほどで結構なので、見込みがありそうな方を選んでください」

「それじゃあ、技術を身につけられるか分からないので余裕を持って七人ほど」


 選りすぐられた七人は複雑そうに互いの顔を見ていたが、キロは武士の情けで何も言葉を掛けず、女装の講義を始める。

 椅子に座らせたミュトと冒険者の一人を並んで座らせ、キロはてきぱきと違いを解説していく。

 なぜか目を輝かせている冒険者が二人いたが、キロは関わりを最低限にしておこうと無視した。

 相手の視線に注意する事や振る舞い方について説明してみると、冒険者達は熱心にメモを取りはじめた。

 潜入調査の心得にも通じるものがあるため、興味をひかれたのだろう。


「師匠は女装して潜入調査した経験があるって聞きましたけど」

「誰が師匠だ」


 瞳を輝かせている二人のうちの一人に師匠と呼ばれ、キロは突っ込みを入れつつ振り返る。


「潜入調査をしたことはある。偶然顔見知りがいて、見破られたけどな」

「女装を過信しちゃダメって事なんですね」

「ばれたら破滅だと思え。いろんな意味で」


 他の五人とは違って頷かない二人に突っ込んで聞く事をせず、キロは講義を続けるのだった。


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