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複数世界のキロ  作者: 氷純
第二章 地下世界の帰路

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第五十話  ロウヒ

 ロウヒの天井から伸びる新たな洞窟道。

 つまり、ロウヒの縄張りより上、未踏破層へと延びる道である。

 ひいては――空へと続く道。


「この洞窟道から目視できる距離にあるのか?」


 キロの問いに、ミュトは地図の縮尺から距離を導き出し、頷いた。


「ロウヒの縄張りのそばからなら、ぎりぎり目視できる距離だと思う。ここからだと縄張りまで半日もかからないはず」


 問題があるとすれば、ロウヒの縄張りの天井に開いた入口へ侵入する方法と、食料品がない事だ。

 クローナが口を開く。


「探索は後回しにして、町に続いてるらしい道へ進むことを優先するべきだと思います。食料品を買い足さないと、落ち着いて探索もできませんから」

「町へ続く道は左側にあるらしいって事しか分からないから、ロウヒの縄張りの天井に開いた新洞窟道から見下ろして、位置を確認したいんだ。それでも、目視できるかはわからないけど」


 ミュトも探索を強行するつもりはないようだ。


「それに、未踏破層へ登れるかもしれないって話をすれば、ロウヒ討伐隊を再招集して、探索隊を組めるかもしれない」


 そのためにも一度新洞窟道へ入りたい、とミュトは言う。

 キロは死亡した男が持っていたもう一枚の地図を指さす。


「町までの日数はどうだ?」

「ロウヒの縄張りを抜ければ、丸一日の距離だと思う。地図が当てにならないから、正確な距離は分からないけど、食糧はぎりぎりで保つよ」


 キロは腕を組み、唸る。

 死亡した男の地図と合わせた結果、今いる洞窟道が袋小路である事は判明している。

 脱出を図るか、救援を待つかの二択があるが、後者は望み薄だ。

 脱出するためには八千年の長きに渡って守魔として君臨するロウヒの縄張りを抜けるしかない。

 ランバル率いる討伐隊が手も足も出なかった守魔だ。


「正直、うわ言とやらを確認するだけで、戦闘は避けるつもりだったんだけど……。そうも言っていられないな」


 キロの言葉にクローナとミュトが頷き、フカフカが尻尾を揺らす。

 フカフカがキロ達を見回した。


「決まりであるな。ひとまず、ロウヒの元へ向かい、現場の状況を見て作戦を練るべきであろう」


 フカフカの言葉にキロ達は立ち上がり、死亡した地図師の男の遺体を火炎魔法で火葬した後、丁寧に埋める。

 地図師の男が遺した地図を片手にキロ達はロウヒの縄張りに向かった。



 ロウヒの縄張りは向かいの壁はおろか、横の壁さえ見えない広大な空間だった。

 あちこちに立ち並ぶ柱が支える天井は高く、暗闇に霞んでよく見えない。

 発光生物の中でも最大の光量を誇るフカフカでさえ照らし出せない天井にある新洞窟道を、光虫を入れる虫かごしか持たなかった地図師がどうやった発見したのか。

 その答えはすぐに明らかとなった。

 天井の一点から、大量の光虫が出入りしているのである。

 無数の光虫に照らしだされた新洞窟道は支柱と天井とが接する場所のすぐ近くに入り口を開いていた。


「高さは五十メートルくらいかな。高すぎるね……」

「キロさん、登れますか?」

「動作魔力を使うにしても、二人を抱えて一息で登るのは厳しいな。駄馬もいるし」


 ――建物一階分の高さが三、四メートルだから、ざっと十三階建て相当か。

 キロは計算して高さを大まかに計る。

 足場になりそうなのは、入り口のそばにある支柱だ。


「フカフカ、左を照らして」

「うむ、壁に沿って町への道を探すのだな」


 ミュトがロウヒの縄張りに足を踏み入れ、肩に乗ったフカフカが尻尾の光で壁を照らす。

 見落とさないようにゆっくりと光を移動させていく。

 光に照らし出された壁の様子に、ミュトが極度に緊張しているのが分かった。


「ミュト、どうしたんだ?」

「壁に焼けた跡があるんだよ」


 キロは縄張りに入り、ミュトの視線を追って壁を見る。

 壁の内、高さ五十メートル、幅八メートルほどの面が高温の火の柱をぶつけられた様に焼けて変色していた。

 キロの隣に立ったクローナが絶句する。

 魔法を度々使うキロでも、この規模の魔法は一度しか見た事がない。


「クローナの町で見た火柱並みだな」


 オークション会場を吹き飛ばした魔法を思い出す。

 遠目にしか見ていなかったキロ達だが、高さがやや足りないものの規模としては同等の火柱だった。

 キロはミュトの肩に乗るフカフカに視線を移す。

 視線に気付いたフカフカは壁を見つめ、頭を横に振った。


「魔力は残っておらぬ。特殊魔力もな」


 魔力食生物のフカフカなら、残存魔力から何らかのヒントを得られるのではないかと考えていたキロの当ては外れたようだ。


「ロウヒは大規模な魔法を使う守魔だと聞く。この壁の有様が単なる余波によるモノなら、正面から戦って勝てる相手ではあるまい」


 フカフカの分析に頷いて、さらに壁を照らしていく。

 左にあるという町へ続く洞窟道はなかなか見つからない。


「地図師の男の人も光球を飛ばしたりして調べたかもしれません。ここらだと死角になっていて見えないのかも」


 クローナの予想を肯定するように、壁が縄張り側へとせり出し、裏側の様子が見えなくなる。

 縄張りへさらに踏み込み、壁の裏の死角を潰さなければならないようだ。

 焦りのあまり舌打ちしそうになるのを深呼吸で堪え、キロ達は縄張りへさらに踏み込む。

 洞窟道から最も近い支柱を越えた直後、フカフカの尻尾が動き、壁ではなく縄張りの中央を照らす。

 キロ達は怪訝に思ってフカフカに視線を向けた。

 フカフカはしきりに耳や目、尻尾の明かりを動かしている。


「キロ、クローナ、奥を照らすのだ。広すぎて我の耳でも音の出所が分からぬが、重い何かが動く音がかすかに聞こえた」


 ――ロウヒか?

 離脱準備を整えつつ、キロはクローナと共に魔法で生み出した光球をいくつか、奥へと放つ。

 支柱に遮られて霧散する光球も多かったが、偶然支柱の合間を縫うように飛んだクローナの光球が縄張りの奥深くを照らし出す。

 それでも、動くモノは見当たらなかった。

 フカフカが耳を動かし音を探っている。

 キロは追加の光球を飛ばしつつ、フカフカに訊ねる。


「まだ音はしてるのか?」

「分からぬ。風の音が邪魔で索敵が難しいのだ」

「風の音?」


 キロはふと思いついて、光球を天井に向けて放った。

 むなしく天井にぶつかる光球にかまわず、キロは角度を変えて次々に光球を放つ。

 光球が白い何かを照らし出した。

 フカフカがすぐさま尻尾の光を向ける。


「……音がせぬはずである」


 光に照らされたのは雪で作られたような白い像。

 美しい女の姿をしたその像は、高さ八メートルほどもあった。

 自然と、壁画に描かれていた姿を思い出す。


「――あれが、ロウヒ」


 八千年の歴史を持つ守魔は石像の魔物だった。

 途方もない重量があるはずの石像は、動作魔力を巧みに作用させて地面にゆっくりと離着陸を繰り返し、キロ達へ向かってくる。


「動作魔力を使えば重さも何も関係ないって、事か」


 石でできた顔から、敵意は読み取れない。

 ――マッドトロルの近縁で、泥の代わりに石を纏っているのか?

 分析しつつ、キロはロウヒの出方を窺う。

 ロウヒが地面に着地し、キロ達に向き直った。

 次の瞬間、ロウヒの前に火球が浮かぶ。

 火球の大きさを見た瞬間、キロは悟った。いや、キロだけでなく、全員が悟っただろう。

 ――敵わない!


「洞窟道へ逃げ込め!」


 急に発せられたフカフカの指示にミュトが真っ先に動き出す。

 ミュトはロウヒに向けて右手を突き出し、特殊魔力の壁を生み出しながら来た道を駆け出した。

 クローナがミュトの後に続き、キロがさらに追う。

 キロが動き出してから数瞬置いて、ロウヒが魔法を放った。

 強烈な熱波をまき散らしながら、ロウヒの全身を覆うほどの火球から火炎の渦が放たれる。

 体の正面に生み出した火球に対して、周囲の空気に動作魔力を通して生み出した強風を吹き込み、横向きに火炎の渦を発生させているのだ。

 直径八メートルほどの火炎の渦が、キロ達が数瞬前までいた場所を焼き尽くす。

 ――わざと外した?

 キロは振り返り、違和感を覚えた。

 タイミングを考えれば、狙いを調整してキロ達に当てる事ができたはずだ。

 吹き込む風の角度を変えたのか、火炎の渦がゆっくりと角度を変え、キロ達を追い立てるように地面を焼いていく。

 キロは確信した。

 キロ達を焼き尽くすつもりなら、ゆっくりと角度を変える意味はない。

 ロウヒはわざとキロ達に魔法を当てていないのだ。

 だが、足を止めるわけにはいかなかった。

 ロウヒがわざと攻撃を外す理由が不明であるため、いつ逆鱗に触れるか分からないからだ。

 逆鱗に触れることなく洞窟道へキロ達が逃げ込むと、火炎の渦が消え去る。ロウヒが攻撃を中断したらしい。

 直後、洞窟道の入り口にロウヒが降り立った。

 キロは反射的に天井を見上げる。

 天井の高さは二十メートルほど、ロウヒが侵入するには十分な高さがある。

 それ以前に、洞窟道へ火炎の渦を流し込まれたら?


「キロ!」

「キロさん!」

「二人とも、足を止めるな!」


 答えながら、キロは全力で現象魔力を練り、洞窟道を塞ぐように石壁を生み出す。

 ロウヒは入り口に立ったまま、動かなかった。

 入り口の七割方を塞いだキロは、走り出す。

 底が見え始めた普遍魔力に歯噛みしながらも、キロは懸命に足を動かす。

 ふいに、ロウヒの縄張りから声が追いかけてきた。

 その声は繰り返し、こう呟いていた。


「――我らの空は失われた、引き返せ」


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