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旧作2-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.騎士と紅の瞳の新入生
5/53

03 王国暦五九八年 コンセル 六日

 甘い。

 瓶に入っている中身を全部飲み干す。

「喉にはミエルが良いらしいんだけど。どうだ?」

「……」

 声は出ないな。

 でも、甘くて美味しい。

 もう少し、甘くても良いけど。

「結構上手く行ったと思ってたんだけどなー」

 カミーユが錬金術の本を置く。

 声を出せるようになる薬。

 飲み薬なんてまずいイメージしかなかったけど。甘いなら飲みやすくて良い。

 予冷が鳴る。

 もうすぐ昼休みが終わりだ。

「教室に戻るか」

 実験室を出る。

 …あ。

「エル」

 アレク。

 と、グリフとロニー。

「一年から実験室を使うなんて、勉強熱心だね。君は、エグドラ家のカミーユだったかな」

 あの教科書。錬金術の授業かな。

「覚えていただいていて光栄です」

 カミーユが頭を下げる。

 アレク、本当にこの国の王子なんだな。

 そういえば。

 マリーにもらった紙をアレクに見せる。

「室内楽か。何にするか決めかねているのかな」

 そうじゃなくて。

「あぁ。楽器がわからないのかい」

 頷く。

「そうだね…。放課後、見せてあげよう。教室で待っていてくれたら、迎えに行くよ」

 もう一度頷く。

「それじゃあ。授業に遅れないようにね」

 予冷が鳴っていたから、急いで戻らないと。

「アレクシス様、良くお前の考えてることわかるな」

 相手が何を考えているのか読むのが上手いんだ。

 貴族の仕事なんてそんなものだと、前に言っていた気がする。


 ※


 四限目が終わって、ホームルーム。

「エル、居るかい?」

「ヴェロニク。まだホームルームだ」

「なら、丁度良い。初等部一年の皆、これから、私たちのクラスで演奏会をやるから講堂においで」

「演奏会?」

「先生、引率は頼んだよ。じゃあ、待ってるから」

 言うだけ言って、ロニーが出て行く。

「仕方ないな。放課後、用事のない者は出席するように」

 楽器を見せてくれるって、こういうことか?


 講堂には、すでに楽器が設置されている。

「いらっしゃい、初等部の諸君。これが、今日やる曲だ」

 アルベールから、一枚の紙を受け取る。


 七つの管弦楽曲

 一 炎の精霊と戦いの詩

 二 光の精霊と調和の詩

 三 水の精霊と翼の詩

 四 闇の精霊と快楽の詩

 五 大地の精霊と時の詩

 六 風の精霊と魔法使いの詩

 七 大河の精霊と奇跡の詩


 その下に、奏者が書かれている。

 使う楽器は、ピアノ、バイオリン、ビオラ、チェロ、フルート、オーボエ。

 奏者と配置が書かれている。

 アレクはバイオリン。グリフはチェロ、ロニーはピアノだ。

 アルベールは指揮をやるらしい。

 ピアノが二台も並んでる。

 こういうのって、もっといろんな種類の楽器を使うんじゃなかったっけ。

 でも、本で読んだだけの知識だから分からない。

 こんな準備、いつの間にしたんだろう。

 昼休みから、放課後までの間に?


 ※


 演奏が終わって、解散。

 アレクのところに行く。

「どうだった?」

 楽しかった。

 フルートの音が耳触りが良くて好きだったけど。

 たぶん、俺が演奏するには向いてない。

 アレクの持っているバイオリンを指さす。

「バイオリンが気に入ったなら、もう一曲弾いてあげようか。…ロニー、妖精の踊りをやろう」

「了解」

 ピアノの音が急に鳴って、アレクがバイオリンの音を鳴らす。

 なんて激しい音なんだ。

 演奏会が終わってざわついていた講堂が、静かになる。

 さっきのとは全然違う。

 テンポが速くて。

 息をつく暇もない。

 この楽器、こんなに細かく色んな音色が出るのか。

 どきどきして。

 音色に巻き込まれる。

 あぁ。楽しい。

 なんて面白い音色。

 弾いているアレクも楽しそうだ。

 本当に踊っているように、テンポもどんどん変わる。

 今の、どうやったんだ?

 アレクが指の動きを見せてくれるけど、全然追いつけない。



 突然、バイオリンの音も、ピアノの音も止まる。

 今ので、終わり?

 周囲から拍手と歓声が沸き起こる。

「気に入ったかい」

 頷く。

 まだ、ドキドキしてる。

 アレクが俺の頭を撫でる。

「バイオリンなら多少は教えられるよ。困ったら聞きにおいで」

 バイオリンを勉強しよう。

 今の曲、いつか弾けるようになるかな。

「みんな。帰宅の邪魔をしてしまったね。さぁ、帰ろうか」

 アレクの腕を引く。

 もう一度、聞きたい。

「後片付けがあるからね。また今度」



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