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旧作2-1  作者: 智枝 理子
Ⅶ.騎士と竜
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02 王国暦六〇三年 コンセル 二十日

「以上で、今期のテストは終了だ。各自、卒業に向けた活動を始めるように。では、解散」

 集めたテストを持って、先生が教室を出て行く。

 高等部二年前期のテストが終了した。実質、これが養成所で受ける最後のテストだ。

 今後は卒業に向けた活動がメインになる。もちろん、単位が足りない場合や取りたい授業がある場合は好きに受けることが出来るけど。ほとんどの時間を卒業研究に費やすことになるだろう。

 もしくは、研究所へ行って所属したい部署を見学することも可能だ。錬金術研究所や魔法研究所を好きに見学出来るのは今だけだし、行ってみても良いかもしれない。

「どうだった?エル」

 カミーユ。

「いつも通り」

「相変わらず優秀な返事だな。卒業研究は何やるか決めたか?」

「あぁ」

「え?もう決めたのか?」

「もう作り始めてる」

「卒業まで半年以上あるのに?」

「半年はかかる予定だから」

「そんな研究、どこでやってるんだ?一人で出来るのか?」

「秘密」

 話してしまったらつまらないから。

「シャルロ、知ってるか?」

「知るわけないだろう」

 誰にも話してないからな。

「この間、買っていた紐が関係あるのか?」

「正解」

 シャルロは勘が良い。

「紐って?」

「麻、木綿、絹、亜麻……。動物の毛や金属の糸も買っていたな」

「どれが一番相性が良いか試してるんだよ」

「手芸でもやるつもりか?」

「半年もかけて?」

 数を作るとなると、時間がかかるから。

「良いだろ。俺が何やろうと」

「エルの研究かー。絶対、面白いものだろうな。俺も負けてられないな」

 俺も、皆の研究が楽しみだ。

「エルロック、居るか?」

 教室に先生が戻ってきた。

 まだテスト用紙を持ったままだ。

「ツァレン様がいらっしゃってる。着替えて校門に行くんだ」

「着替えて?」

「そうだ。外出許可も外泊許可も下りてる。荷物をまとめたら、急いで行くように」

「わかった」

 先生が教室を出る。

「なんで、外泊許可まで出てるんだ?」

「さぁ?」

 それは、俺が聞きたいぐらいだ。

 明日も授業があるのに。

「どこかに行くのか?」

「知らない」

「何も聞いてないのかよ」

「行けばわかるだろ」

 荷物を片付ける。

「気をつけてな」

「いってらっしゃい」

「ん。いってきます」

 

 ※

 

 制服から私服に着替えて、普段、家に帰る時の荷物を持って門に行くと……。

「なんで、馬に乗ってるんだ?」

 ツァレンが騎士の出で立ちで馬にまたがっていた。

「なんでそんな軽装なんだよ。マントぐらい羽織って来い」

「マントならある」

 荷物の中からマントを出して羽織る。

「乗れ。急いでるんだ」

「どこに行くんだよ」

 馬上に引き上げられて、ツァレンの前に乗る。

「ここを掴んでおけ」

 鞍の前にある出っ張りのような取っ手を掴むと、早速、馬が歩き出した。

「身分証は持ってるだろうな」

「持ってるよ」

「良かった」

 そのままウエストストリートを西に進んで王都を出ると、早速、ツァレンが馬を走らせた。

 王都を出るなんて。

「どこ行くんだよ」

「神聖王国クエスタニア」

「は?」

 ちょっと、待て。

「国外に出るなんて聞いてない。俺はまだ学生だぞ」

「しょうがないだろう。主君がお前を連れて来いっていうんだから」

「なんだって?」

「挨拶回りが済んだから、寄り道して帰るんだよ。現在、皇太子殿下は行方不明中だ」

 行方不明って。

 アレクの奴、何馬鹿なこと考えてるんだ?

「陛下は知ってるのか?」

「御存知ないよ。ばれたらまずいから、急いで逃げてるんじゃないか」

 後ろを振り返って見る。

 誰も居ない。

 これだけ広くて見通しの良い草原なら、追手があればすぐに気付くだろう。

「セルメアと戦争中なのに……」

 アレクは公爵領を巡ってすぐ、最初の訪問国としてセルメアを選んで、セルメアの大統領と会談した。

 なのに、その後、停戦の約束は破られ、再び国境戦争が始まったのだ。

 セルメアは、ラングリオンが攻めてきたって言ってるけど。ラングリオンはセルメアの言いがかりだって言っていて、状況が正しく伝わっていない。

 ただ、開戦のきっかけとなった場所は、停戦協議の結果、セルメア領となった橋の街だ。ローレライ川を巡る要衝で、ラングリオンが建てた歴史ある街……。国境を巡る争いに幾度となく巻き込まれた末にセルメア領となったその都市を、ラングリオンが武力で奪還したのは間違いない。

「心配しなくても、西は安定してるぜ」

 西だって。安定なんかしてない。

「アレクは、西南諸国に行ったのか?」

「あぁ。同盟国にちゃんと挨拶に行ったって聞いてるぜ」

「こんなに情勢が悪いのに」

「南の国境が不穏なだけだ。セルメアだって、東の港はすべての国に開放してる」

「ラングリオンと戦争中なのに?」

「ラングリオンを経由せずに大陸北の諸国と貿易は出来ないからな」

 ねじれてる。

 だったら、戦争なんてすぐに止めたら良いのに。

 ……国境が複雑なせいで。

「国境をローレライ川にしてしまえば良いのに」

 川に隔てられているなら、国境ラインは明確だ。

「そう簡単にいくわけないだろ。生まれ育った故郷や思い出、歴史を失いたくないのは、皆、一緒だ」

 恩恵の高い土地の獲得という理由以上に、お互いに刻んできた歴史を譲れないから妥協点を見出だせず、戦争が終わらないらしい。

「竜の山みたいに、誰のものにもならない緩衝地帯を設けるのは?」

「無法地帯を作る気か?守るもののない土地は簡単に荒らされる。誰も得しないぜ」

「だって……」

「竜の山がどの土地にも属さないでいられるのは、ドラゴンの縄張りなのと、ラングリオン、ティルフィグン、クエスタニアの三すくみになってるからだ」

 それは、習ったけど。

 皆、平和に生きたいだけなのに。

 平和を勝ち取る為には武力に頼らなきゃいけないなんて。

「元気出せって。これから遊びに行くんだぜ?」

 そうだ。

 なんで、今、こんな状況になってるんだ。

「もしかして、ツァレンが王都に残ってたのは、俺をアレクのところに連れて行く為?」

「お。ようやく気付いたか」

 信じられない。

「近衛騎士の仕事は、主君を守ることなのに」

「主命が第一だからなぁ」

 ツァレンが笑う。

 これが、アレクの主命?

「なんで、もっと早く言わないんだ」

 知ってたら、長旅に出る準備をしておいたのに。

「テストが終わるまでエルに手を出すなって、フラーダリーから言われてたんだよ」

「フラーダリーも知ってるのか」

「当たり前だろ?保護者の了承を得なかったら誘拐だ」

「十分誘拐だろ」

『誘拐よぅ』

『そうだな』

 きっと、この前、城に桜を見に行った時には二人共知ってたんだ。

 今日はコンセルの二十日だから……。

「年末までに帰れる?」

「その予定だぜ」

 良かった。

 年末には間に合う。

「アレクは今、どこに居るんだ?」

「俺も正確な情報はもらってないんだよ。今のところ、クエスタニアのルプカナで合流予定だ」

 全然、知らない都市だ。

「どこだよ」

 地図は……。

「動くなよ。何か落としても取りに戻れないからな」

 大人しくしてるしかないらしい。

『エル、本当に行くのぉ?』

「今更、帰れないだろ」

 ここから王都まで歩いて帰るなんて無理。

『落ちないようにな』

 流石に、安定した二人乗り用の鞍に乗ってれば落ちないと思うけど。

「後で、鐙の位置を調整して」

「長かったか?」

「短いんだよ」

「エルもでかくなったなぁ」

 ツァレンが笑う。

 本当に、ツァレンはすぐに笑う。

「旅に出る予定なら、バイオリンは置いて来たのに」

 ついでに先生に会いに行けると思ってたから、持って来てしまった。

「過酷な旅にはしないから平気だろ。旅程は、街に着いてからゆっくり話してやる」

「街?」

 街道を使わず、こんな平原を突っ切って、街を目指してたなんて。

「野宿しながら行くのかと思ってた」

「そんなわけないだろ。必ず規則正しい生活をして、夜は落ち着けるベッドで寝かせろって言われてるからな」

「フラーダリーから?」

「あぁ」

「別に、俺は野宿でも構わないけど」

「エルを危険な目に合わせるなんて、主君も許さないぜ」

 皇太子近衛騎士が一緒なら、危険なんてないと思うけど。

「こんな道なき道を行く方が危ないんじゃないのか」

 人通りもなく、騎士団の巡回もないような平原なら、いつ亜精霊と会ってもおかしくない。

「帰還組と同じルートは使えないからな」

「帰還組?二手に分かれてるのか?」

「あぁ。主君は、ガラハドとシールだけ連れて行方不明になったんだ」

 守備隊のガラハドと近衛騎士のレンシールだけ?

「じゃあ、グリフとロニーが帰還組?」

「あぁ。皇太子一行の馬車を連れて先に帰ってるんだよ」

 帰還組のルートが使えない理由は、国に連絡済みのルートだからか。

 っていうか。

 皇太子一行って。

「空っぽの馬車じゃないか」

「行方不明中だからなぁ」

「笑い事じゃないだろ」

「それとも、グリフとロニーにも会いたかったか?」

「別に」

「仲が良いんだろ?」

「グリフはともかく。ロニーはしつこいから嫌だ。会うたびに従騎士になれって言ってくるんだ」

「そういや、騎士を育ててみたいって言ってたな」

 従騎士は騎士見習い。先輩騎士を師と仰いで、四六時中、騎士になる為の修行をしなければならない。

「でも、従騎士をやりたいなら、ロニーよりもグリフの方が良さそうだぜ。ロニーは、すぐに敵を作るからな」

 ……分かるかも。

 真面目なグリフは良い騎士を育てそうだけど。

「誰かの従騎士にならなきゃいけないなら、ツァレンにするよ」

「おお。そりゃ、ありがたいね」

「一番楽そうだ」

 ツァレンが笑う。

「いつでも従騎士にしてやるよ。エルは筋が良い。鍛え甲斐がありそうだ」

「レイピアで戦う騎士なんて居ないだろ?」

「騎士が手にする得物に制限なんかないぜ。いっそ、斧なんてどうだ?」

「重いものは持ちたくない」

「非力だなぁ。そういや、レイピアは持って来てないのか」

「短剣しか持ってない。外に出るって聞いてたら持って出たのに」

「なら、どこかで剣でも買うか?」

「要らない。ちゃんと守ってくれるんだろ?」

「当然だ。でも、騎士を目指すなら……」

「騎士になんかならない」

 ツァレンが笑う。

「卒業したら研究所だったな」

「研究所にも入らないよ」

「入らない?それだと兵役があるだろ」

「魔法部隊に入る」

「あぁ、そうだな。魔法部隊も兵役になるか」

 国に正式に認められた部隊だから。

「お前は、本当にフラーダリーにべったりだな。そろそろ親離れしろ」

「親だなんて思ってない」

「まじか。それ、フラーダリーが聞いたら泣くぞ」

 ……泣くのか。

 それは、嫌だな。

「あんなに可愛がってるのに。お前だって懐いてるじゃないか」

 だって。

「いつまでも子供扱いをやめてくれないから」

「おぉ。複雑な年頃ってやつか」

 また、笑われた。

 もう子供じゃないのに。

 いくら成長しても、フラーダリーにとって俺は子供でしかない。

 

 


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