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旧作2-1  作者: 智枝 理子
Ⅵ.恋とバイオリン
44/53

06 Sonate pour violon et piano

 シャルロの指揮で、炎の精霊と戦いの詩の演奏が始まる。

 錬金術コースの皆がメインを担当しつつ、魔法コースの皆が他の楽器やパーカッションでより盛り上げてくれる構成だ。ソロの響きも輝いてる。

 

 ユリアの左手はピアノを弾けるぐらい治療が進んでいるものの、まだ無理をさせてはいけない状態だから、ルシアンが隣で一緒に演奏している。

 安定した良い演奏だ。

 

 次は、水の精霊と翼の詩。

 マリーのピアノは、なんていうか……。

 可愛い。

 どこか子供っぽさが残る感じ。

 アルベールとレオナールの気持ちが少しわかるかも。

 

 最後は、闇の精霊と快楽の詩。

 魔法コースの皆がメインとなって仕上げた曲だ。こっちも、当初より迫力の出る構成になっていて、楽器ごとの特徴がはっきりわかる曲に仕上がっただろう。

 錬金術コースの皆も好きな曲だったらしく、炎の精霊よりも良い仕上がりだ。

 マリーの指揮も良かった。

 案外、向いてるのかもしれない。

 

 演奏は成功。

 組曲をすべてやる予定だった最初と比べたら、かなり縮小してしまったけど。

 当初の目的は達成出来たはずだ。

 きっと、新入生が自分の楽器を選ぶ上での参考になっただろう。

 

 ※

 

 歓迎会の演奏が終わって、解散。

 ……楽しかったな。

 中等部に入ってから、皆と集まれる機会が減っていたから。放課後や休日に集まって皆で一つのものを作り上げる作業は、すごく楽しかった。

 その分、先生と一緒に練習する時間が減ったのが残念だったけど。

『まだ練習するのぉ?』

「あぁ」

 ピアノ練習室で、バイオリンを出して楽譜を見る。

 次は音楽祭に向けた練習をやらないといけない。

 先生が出してくれた課題にも取り組まないと。

 

 先生は今頃、ティルフィグンで公演をやってるはずだ。

 ……あの、公演。

 今でも、先生の演奏は鮮明に思い出せる。

 広い音楽堂でオーケストラをバックに奏でる音楽は、いつも以上に迫力と広がりがあって、くらくらするほど素晴らしくて。言葉に出来ないほど熱中した。

 アンコールでやってくれたツィガーヌも、工房で聴いたものと全く別物に感じるほど美しかった。

 あんな演奏を出来るようになりたい。

 それには、どれだけの練習と研究が必要なんだろう……。

 公演の後、フラーダリーに先生を紹介した。

 師弟になったって。

―エルが音楽を愛してくれて嬉しいよ。

 俺も。

 こんなに好きになるなんて思わなかった。

 先生が帰るのは夏の初め。立夏の長雨が終わる頃だって言ってた。

 ……少し、寂しい。

 

 練習していると、ピアノ練習室の扉が開いた。

「それ、ツィガーヌだねぇ」

「ユリア」

 皆でカフェに行ったはずなのに。もう解散したのか?

「エルはぁ、ヴュータン・ソーレの弟子になったんだよねぇ?」

「あぁ」

 先生から聞いたのかな。

「今、ツィガーヌを教わってるんだ。次の音楽祭でやりたくて」

 一通り弾けるようになったから、もっと技術を磨いて、表現力を高めるように言われてる。

「もしかしてぇ、音楽祭が終わったら、卒業しちゃうのぉ?」

「なんで?」

「だってぇ……。弟子になったからぁ……」

「俺は、プロのバイオリニストにはならないよ」

「プロの弟子になったのにぃ?」

「先生にも学生は辞めないって言ってる。先生が王都に居る間だけ習う約束なんだ」

「ふふふ。変なのぉ」

 変なんだろうな。

 弟子なら、今頃、一緒に付いて行ってるはずだから。

 ……先生。

「付いて行かなくて、本当ぉに良かったのぉ?」

―こちらの道に進む気はないのかな。

 先生が出発前に言った言葉。

 これに、少しだけ惹かれたのは事実だ。

「行かないよ。養成所で学びたいことがたくさんあるから」

「エルは、勉強が好きだもんねぇ」

 錬金術は、精霊の力に頼ることなく奇跡を起こす方法だ。ユールが知ってる古い時代の錬金術も試したいし、やってみたい実験もたくさんある。もちろん、他の勉強もたくさんしたい。

―学びは人の力になる。

―あらゆる経験を積むことが、君の人生に彩りを与えるだろう。

―成長した君の音を楽しみにしているよ。

 一つの季節が巡ったぐらいじゃ、成長なんかしないと思うけど。

 次に会う時までに、もっと勉強しないと。

「手の調子はどうだ?」

「うん。かなり良いよぉ」

 ユリアが手を見せる。

 良かった。後遺症もなく、順調に良くなってるみたいだ。

「ユリア。俺と一緒に音楽祭に出てくれないか?」

 本当は、もう少し仕上がってから頼むつもりだったけど。

 今、頼もう。

「どぉして、私に頼むのぉ?」

「ずっと、ユリアとやって来たから。ユリアの伴奏が一番、弾きやすい」

 音楽祭は納得する仕上がりにしたい。

 それには、ユリアのピアノが必要だ。

「マリーとも、ずっと練習してたでしょぉ?」

「マリーはピアノよりフルートが得意だろ?それに、マリーのピアノは、なんか子供っぽくて合わない」

 ユリアが笑い出す。

「ちょっと、わかるかもぉ。マリーのピアノって、可愛いよねぇ」

 ユリアもそう思ってたらしい。

「それに……」

「それに?」

「バイオリンを辞めなかったのは、ユリアのおかげだから」

「えぇ?私のぉ?」

「だって、俺がバイオリンが好きだってことを教えてくれたのは、ユリアだろ?」

 ユリアが気づかせてくれなかったら、こんなにバイオリンに執着することはなかった。

 セリーヌに言われた通り、フラーダリーのバイオリンが壊れた時点で諦めて辞めていたかもしれない。

 でも、諦めなかった。

 好きだから。

 手放したくない。

「そっかぁ。じゃあ、責任、取らなきゃねぇ」

「責任?」

「好きに気付かせちゃったぁ、責任」

 ユリアが俺を見上げる。

 責任なんて。

 だって、これは、元々あった俺の気持ちだ。

「でもなぁ。私も、音楽祭は別の曲で出る予定なんだよねぇ」

 ユリアは、毎年、一人で演奏してるんだっけ。

 でも、複数の発表に参加しても良いはずだ。

「一緒に演奏しよう」

 他の人なんて考えられない。

「んー。……私のお願い聞いてくれるならぁ、引き受けても良いかなぁ?」

「お願いって?」

 代償が必要らしい。

「甘いもの食べて貰うとかぁ?」

「は?」

 なんだそれ。

 そういえば、前にも似たようなことを言われた気がする。

「ふふふ。今ねぇ、キャラメルを作るのにはまってるんだぁ。だから、毎日、食べて貰おっかなぁ」

 ユリアが楽しそうに笑ってる。

 何が楽しいのか全然わからない。

 でも。

「食べるよ」

「本当ぉ?」

「俺好みのも作ってくれるんだろ?」

 あのサブレみたいに。

 毎日。

「だから、付き合って」

 砂糖の塊みたいなキャラメルが、どう変わるのか想像つかないけど。

「うんっ。良いよぉ」

 ようやく返事がもらえた。

「手が治ったら、いっぱい作るからぁ……。いっぱい演奏しようねぇ」

「あぁ」

 楽しみだ。

 バイオリンを構えて、もう一度、音を奏でる。

「ねぇ、エル」

「ん?」

「好きだよ」

 好き。

「俺も好きだよ」

 ユリアが微笑む。

 可愛い。

 

 


Ça veut dire quoi ?:どういう意味?

 

En pincer pour:ピンチ。恋に落ちる。

Brisé et tombé:壊れて落ちた。

Il ne pleut jamais mais il pleut à verse:(英語)It never rains but it pours:降れば土砂降り。泣きっ面に蜂。

Lampe avec flamme:炎の入ったランプ。情熱のランプ。

Maître et disciple:師弟。

Reste près de moi:(英語)Stand by me:そばに居て。

Après la pluie, le beau temps:止まない雨はない。

Sonate pour violon et piano:バイオリンソナタ。バイオリンとピアノの為のソナタ。

 

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