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旧作2-1  作者: 智枝 理子
幕間
37/53

En pincer pour

 次は、この薬品を入れて。

 反応が出たらバルブを開き、真空状態にしておいたフラスコに溶液を……。

「……え?」

 薬品の移動先のフラスコの中で、フラスコの壁を必死に叩いている精霊と目が合う。

 なんで?

 まずい。

『エル!』

 急いでフラスコを割って、精霊を逃がす。

『早く手を洗え!』

 ……少し、浴びた。

 流水に薬のかかった手を当てて洗い流す。

『大丈夫か?』

「大丈夫」

 すぐに対処したし、ガラスや薬品による傷もない。

 それよりも。

「大丈夫だったか?」

 実験用のテーブルの上に座っている精霊に触れると、精霊が俺を見上げた。

「ごめん。……痛かった?」

 怪我はなさそうだけど……。

『苦しい……』

「え?」

『エル。真空の精霊だ』

「真空の精霊?」

 確か、錬金術の実験中に稀に現れる、錬金術師だけが会うことが出来る精霊。

 だから、真空状態のフラスコに閉じ込められてたのか。

『あなた、名前はぁ?』

「エルロック」

『エル。精霊に無闇に名乗ってはいけない』

『エルロック。あたしとぉ、契約してぇ』

「契約?」

『苦しいのぉ……。早く……』

『真空の精霊にとって地上の空気は毒なんだ。契約者なしに長く留まれない』

「俺と契約すれば楽になるのか?」

 精霊が頷く。

「解った。契約しよう。俺はエルロック」

『あたしはぁ、ユール』

 困ったな。髪を切る道具がない。

 ……仕方ない。

 爪を剥がして、ユールに向ける。

「これで良い?」

 ユールが頷く。

「ユール。停止する神に祝福された真空の精霊よ。請い願う。我と共に歩み、その力、我のために捧げよ。代償としてこの身の尽きるまで、汝をわが友とし、守り抜くことを誓う」

『エルロック。我は応えよう』

 ユールが、俺の爪をその身に取り込む。

 これで、契約完了。

「楽になったか?」

『もう大丈夫ぅ。エルロックは、錬金術師なのねぇ?』

「あぁ。エルで良いよ」

『エル。よろしくねぇ』

「よろしく」

 また、精霊と契約することになるなんて。

 ユールが顕現を解く。

『エルと契約してる精霊は、あなただけぇ?』

『メラニーだ。よろしく』

『よろしくねぇ』

 確か、複数の精霊と契約する場合は、精霊同士が仲良くなれるようにしなくちゃいけないんだっけ。

『エル。早くその爪を治療しろ』

 そうだった。

 とりあえず、薬を塗っておこう。

『現代の薬ねぇ。どんなレシピなのぉ?』

「俺はまだ、この薬の作り方は知らないんだ」

 簡単な奴なら知ってるけど。

 ここまで効果がある奴は、まだやってない。

『ふふふ。なら、あたしが知ってるレシピ、教えてあげよっかぉ?』

「え?知ってるのか?」

『錬金術ならぁ、ちょっとねぇ』

 錬金術に詳しい精霊が居るなんて……。

 でも。

「あのさ。俺がどんな人間か知らないのに、契約して良かったのか?」

 お互いについて、ちゃんと知る間もなく契約することになったけど。

『良いのよぅ。あたし、エルが好きになったんだものぉ』

「……ありがとう」

 俺も、精霊が好き。

 

 


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