05 王国暦五九九年 ベリエ 十七日
放課後、アレクと門で待ち合わせて、一緒に外出届を書きに行く。
この前の受付嬢から用紙をもらう。
「おめでとう。無事に外出禁止令が解けたね。今日はどこに出かけるの?」
「アレク、行き先は?」
「帰省で問題ないよ」
「ん」
帰省と書いて、署名する。
そこに、事務員の署名と認可の印をもらう。
「はい。気をつけてね」
外出許可証に変わった外出届を受け取って、アレクと一緒に門に行き、許可証を見せると、門が開く。
「どこ行くんだ?」
「城門で姉上と待ち合わせだよ」
「城門?」
変なところで待ち合わせだな。
周囲を見回す。
「どうしたんだい」
「今日は、誰もついてないのか?」
「陛下の派遣した近衛騎士のことかな」
「ん…」
『こちらの様子をうかがっている人間なら何人か居るぞ』
それは、たぶん陛下の近衛騎士なんだろうな。
「そうじゃなくて、ツァレンとレンシール」
「今日は呼んでないよ」
「あの二人はアレクの言うことを聞くのか?」
「ツァレンとシールは、陛下が私に近衛騎士にするように与えた騎士だよ」
「アレクの近衛騎士?」
「違うよ」
「違う?」
「一番最初に近衛騎士にするのはグリフって約束したからね」
「グリフと?」
「そうだよ」
幼なじみの約束なのかな。
「じゃあ、アレクの部下ってこと?」
「そうだね」
立場的には、近衛騎士とほとんど変わらない気がするけど。
「養成所を卒業してすぐに騎士になれるのか?」
確か、騎士になるのってめんどうだった気がする。
「騎士の課程が創設されたからね」
「騎士の課程?」
「そう。卒業すれば、七等騎士の叙勲を得られる」
全然知らなかった。
「七等って?」
「騎士の最下層だよ」
「そんなのもらっても嬉しくないじゃないか」
「騎士の階級は能力や官位に応じていくらでも変化するよ。たとえば、高位の騎士や貴族の近衛騎士を目指せば、上司の二つ下の位を得られるんだ」
この国で、一等騎士とは国王と皇太子だけ。二等騎士は公爵。三等騎士は他の貴族と王子。これらを合わせて上級騎士と呼び、いわゆる貴族階級だ。
他は知らない。
「アレクは三等騎士だから、五等騎士の叙勲をできる?」
「そういうことになるね」
「あの二人は?」
「ツァレンとレンシールは、すでに五等騎士だよ」
「なんで?」
「陛下は一等騎士。その近衛騎士は三等騎士。その近衛騎士の従騎士をやっていたから、五等騎士の叙勲を受けているんだ」
「…いろいろ面倒だな」
陛下の近衛騎士が、騎士の階級上ではアレクと同じなんて、変な感じだ。
「エル、アレク」
城門の近くにフラーダリーが居る。
最後に会ったのは、ひと月前。ポアソンの十五日の連休に、アレクと一緒に帰ったきり。
「おかえり」
「こんにちは、姉上」
ただいま、って言いそうになった。
「ここ、フラーダリーの家じゃないのに」
「そうだったね。こんにちは、エル」
「こんにちは。フラーダリー」
なんだか変な感じ。
「それじゃあ、行こうか」
そう言って、アレクが城に向かって歩く。
「え?」
「ほら、エル。行こう」
フラーダリーに肩を叩かれて、アレクの後ろを歩く。
「おかえりなさいませ。アレクシス様」
「お疲れ様」
三人で城門を抜けて、右手の小路を歩いて行く。
しばらく歩いた先に、桜の木々が並ぶ庭に出た。
「綺麗。まだ、満開だ」
「これでも満開は過ぎてるんだよ」
そうかな。
養成所の桜はほとんど花が終わって、葉の緑色の方が強くなっていたけど、ここの桜は、まだピンク色が強い。
綺麗。
ずっと見ていたい。
「エルは桜が気に入ったんだね」
「好きだよ、すごく」
とても惹かれる。
「じゃあ、毎年皆で見に来ようね」
「アレクとフラーダリーと三人で?」
「そうだね。ほかにも、エルの好きな人を誘って」
「桜って、好きな人と見るものなのか?」
アレクとフラーダリーが笑う。
「そうだね。好きな人と見るものだよ」
なら、毎年皆で見よう。
アレクと、フラーダリーと。
カミーユと、シャルロと。
それから、この先、好きになる誰かと。




