04 王国暦五九九年 ベリエ 十五日 後編
マリーと一緒に光の洞窟に入る。
薄暗いが、松明が必要な暗さでもない。
湖のほとりにぽっかりと穴を空ける洞窟は、湖の水が少し入り込んで、足元に気をつけて歩かなければ転びそうだ。
「まっすぐ歩けば良いのか?」
声が響く。
「えぇ。そのはずよ」
マリーが俺の腕にしがみついて歩く。
怖いのかな。
「何も出ないんだろ?」
「光の洞窟は国の管理下にあるもの。…何もないはずよ」
じゃあ、何に怯えてるっていうんだ。
「きゃぁっ!」
マリーが悲鳴を上げる。
周囲を警戒したけれど、何もない。
「う、うえ…」
「上?」
見上げると、ぽたっ、と頬に雫が落ちる。
鍾乳洞になっているから、水滴が落ちて来てるんだろう。
「きゃあっ」
「上見てみろよ。何もないだろ?」
マリーが上を見上げる。
「ほんとうね…」
「ほら、行くぞ」
「えぇ」
マリーって。
委員長ですごくしっかりしてるのに、どうしてこんなに弱虫なんだ。
すぐ泣くし。
「マリー、歌って」
「うた?」
「サンドリヨンの歌」
「なんで?」
「聞きたい」
マリーが呼吸を整えて、歌いだす。
マリーの声が洞窟の中に響く。
綺麗な声。
マリーの足取りが軽くなって、俺にしがみついていた手の力が緩む。
『オルロワールの子だ』
『綺麗な声』
『可愛いわ』
光の精霊だ。
『待ってるよ』
『早く来て、光の柱へ』
光の柱まで行かないと契約してくれないのか。
そういう決まりなんだろう。
『気をつけてね』
『変な奴が入り込んでるから』
「変な奴?」
「え?」
マリーが歌うのをやめる。
「なぁに?変な奴って」
「教えてくれ。何のことだ?」
「?」
『亜精霊が居るよ』
「亜精霊だって?」
「エル、誰と話してるの?」
「…え?」
なんで、マリーに聞こえないんだ?
『私たちの言葉に耳を傾けようとしなきゃ、私たちの声は聞こえないよ』
語りかけてもらわないと、顕現してない状態の精霊の言葉なんて聞けないはずだけど。
受け手側も、語りかけてもらっていることに気づけないとだめなんだろう。
『面白い子。名前はなんていうの』
「エルロック。こっちはマリアンヌだ」
『あなたも契約しに来たの?』
「俺は契約しないよ。安全な道を教えてくれ」
『それは出来ない』
『だって、オルロワール家の人間は一人で奥まで行かなきゃいけないからね』
一人じゃないけど。
「わかったよ。亜精霊って一体だけか?」
『ふふふ。どうかな』
「教えてくれないのか」
「教えてくれないの?」
「オルロワール家の人間は一人で行かなきゃいけないからって」
「…そうね」
亜精霊とは、精霊の力に飲まれて、精霊と同化した生き物。
ただ、教科書を読む限り歯切れの悪い書き方しかされていないから、実際のところ、良くわかってない生き物なんだろう。
魔力で生きる生き物で、その死の瞬間まで姿を変えることはない。剣で真っ二つに斬られても、その体力が減るだけで、斬られた跡は残らない。
理性を失って狂暴化することがほとんどで、人間に害のある生き物。
会いたくないな。
「亜精霊が居るなら、引き返して、お父様やお兄様に知らせた方が良いかしら」
「引き返す途中で会ったらどうするんだよ」
脇道がいくつかあったから、そこに潜んでいた可能性だってある。
歌なんて歌ってる場合じゃなかったかも。
「早く光の柱に行って、光の精霊と契約した方が良いんじゃないか?そうすれば、この辺りに居る精霊も力を貸してくれるかもしれない」
「そうね。光の魔法が使えた方が、安全よね」
マリーと一緒に、広い道を奥に進む。
亜精霊って、どんな奴だろう。
もともと動物だったものが多いけど。
凶悪で巨大化してるような奴だったら困るな。
『気をつけろ』
え?
『脇道に反れた方が良いぞ』
「脇道ってどっち?」
『暗い方だ』
暗い方って。
『この先に妙な罠が仕掛けられてる』
「罠だって?」
なんでそんなものが。
ん?待てよ?
目に見えないトラップがわかるのって。
「闇の精霊か?」
『如何にも』
もしかして。
「助けて欲しい。亜精霊に会わずに、光の柱に行きたいんだ」
『代償もなしに願いはかなえられない』
やっぱり。
「ちょっと待ってくれ。マリー、手を離して」
「え?何するの?」
「すぐ終わるから」
マリーに手を離してもらって、転がっていた木の枝で魔方陣を描き、魔力を送る。
「温度を下げる神に祝福された闇の精霊よ。宵闇の眷属よ。我に応え、その姿をここへ」
「え?」
魔法陣が黒く光って、闇の精霊が姿を現す。
「俺はエルロック」
『私はメラニーだ』
「光の柱まで案内して欲しいんだ」
『闇の中について来れるなら構わないが』
「んー」
そういえば、光の玉があったな。
短剣を取り出して、持っていた光の玉を柄に当てる。
すると、そこを基点に光の玉が周回する。
「これでついて行けると思う」
『来い。こっちだ』
「マリー、行くぞ」
マリーに手を差し伸べると、マリーが俺の右手を取る。
メラニーの姿を追って、マリーと一緒に歩く。
「エルって、何でもできるのね」
「何が?」
「私一人じゃ、きっと怖くて逃げだしてたわ」
「逃げても良いよ。帰って来るなら」
「エルを一人置いて?」
「俺は別に困らない。先に光の柱で待ってるよ」
「探しに来てくれないの?」
「なんで探しに行かなきゃいけないんだ」
「アシューならきっと探してくれたわ」
なんでアシューが出てくるんだ。
「なんで別れたんだ?」
「一生懸命頑張ったわ。でも、それは私らしくないって」
「マリーらしくない?」
「…重いって言われたの」
「重い?何か持たせたのか?」
「エルって、たまに信じられないぐらい馬鹿よね。それってわざと?」
「ちゃんと教えてくれ」
「…もう、どうでも良いでしょ。それより、どうして精霊が力を貸してくれるの?さっきは、試練だから一人で行かなきゃって言ってたのに」
「闇の精霊は関係ないからだよ。最初に話しかけて来たのはみんな、マリーを気にかけてた光の精霊だ」
「そうなの?」
「そうだよ」
『ほら、この先が光の柱だ』
光の柱…。
本当に、強い光でできた柱だ。
光が集まって、差し込んでいる。
柱自体が光を放っているようにも見える。
「ありがとう、メラニー」
『契約に従ったまでだ』
そう言って、メラニーが姿を消す。
「これって、ずるしたことにならないかしら」
「何言ってるんだよ。早く光の精霊と契約して来いよ」
短剣の周りを周回していた光の玉を掴んで、下に叩きつけると、一瞬だけ強い光が放たれて消えた。
「行ってくるわ」
マリーが光の柱に近づく。
「私の名前はマリアンヌ・ド・オルロワール。光の精霊と契約しに来ました。どうか、私の力になってくれませんか」
『待ってたよ、マリアンヌ』
光の精霊が顕現する。
「あなたの名前は?」
『私はナインシェ。さぁ、契約を』
「はい」
マリーが、自分の髪を一房短剣で切り取る。
精霊との契約に当たって、自分の体の一部を与えるのだ。
「温度を上げる神に祝福された光の精霊よ。請い願う。我と共に歩み、その力、我のために捧げよ。代償としてこの身の尽きるまで、汝をわが友とし、守り抜くことを誓う」
『マリアンヌ。我は応えよう』
光の精霊、ナインシェがマリーの髪をその身に取り込み、契約は完了。
『よろしくね。マリアンヌ』
「マリーでいいわ」
『ふふふ。よろしく、マリー。あなたもね、エルロック』
「エルでいいよ」
ずっと俺とマリーを見守ってくれてたのかな。
「それより、亜精霊ってなんなんだ?」
『昨日、突然放たれたの。なんだか怖い感じよ。早く洞窟を抜けて、討伐してもらった方が良い』
「どんな奴?」
『知りたいの?…見たことない動物だったな。獅子の頭、山羊の頭と胴体、蛇の口を持つ尻尾』
「なんだ、それ…」
どうやったら、そんな禍々しい生き物になるんだ。
『誰かがキマイラって呼んでいたよ』
「キマイラ?」
『近づいてる』
『こっちに来るよ』
『隠れて』
「隠れるって、どこに」
『光の柱の中へ』
『あそこなら守ってあげられる』
マリーの手を引いて、光の柱の中に入る。
「眩しい…」
目も眩むような光の中。
目を閉じていても明るい。
外がどうなっているのかさっぱりわからない。
けれど。
咆哮が響く。
…近くに居るんだ。
『変だね、遠ざかる気配がない』
『人間が隠れてるってわかってるのかな』
『追い払ってあげようか?』
精霊が、その力を使って?
「だめだ。…マリー。俺が囮になるから、走って逃げろ」
「え?」
「ナインシェ、頼んだぞ」
『エルはどうするの?』
「上手くやるよ。暗い方に向かって走れば、あいつも追って来れないだろ。マリーは皆を呼んで来て」
「エル、」
「上手く逃げて、迎えに来てくれよ」
「でも、」
マリーの手を離して、光の柱から出る。
「!」
思ったより、近くに居る。
短剣を両手に持ちながら、通って来た方向、右手へ走ると、キマイラが追ってくる。
早い。
『エルロック!』
体当たりを短剣で防いだけれど、思い切り吹き飛ばされる。
宙返りして着地し、道沿いに走る。
マリー、ちゃんと逃げろよ。
『無茶するね、君』
『助けてあげるって言ったのに』
「精霊が代償もなしに力を使ったらだめだ」
『なら、契約しようよ』
「出来ない」
『君一人じゃ戦えないのに?』
後ろが光る。
まさか、精霊が魔法を使った?
振り返ると、亜精霊を挟んだ向こうでマリーが立っている。
「マリー!」
「わ、私、逃げないわ」
馬鹿。
「逃げろよ!」
なんで、こういう時に限って逃げないんだよ!
キマイラがマリーの方を向く。
くそっ。
短剣を一本投げると、それはキマイラの獅子の首に突き刺さる。
咆哮を上げて、今度は俺の方を向く。
「来い」
もう一本の短剣をしまって、腰に差していた片手剣を抜く。
『気をつけろ。尻尾の蛇は毒を吐く』
メラニー。
じゃあ、先に尻尾を切り落とさないとな。
キマイラに向かって片手剣を振ると、相手は山羊の頭…、正確には山羊の角を俺の剣に当てて、ぶつかって来た。反撃を食らった形で両手に力を込めて堪えると、俺から見て左側、獅子の頭が口を開く。
『避けろ。ブレスだ』
避けるってどうやって?
しゃがんで山羊の頭をくぐり抜けた瞬間、後ろで轟音が鳴る。上手くかわせたらしい。
『斬れ!』
言われた通り、持っていた片手剣を振り上げると、蛇の尻尾が斬れ…、ない。
そうだ。
亜精霊だから、その体力がゼロにならない限り、肉体の一部を切り落とすなんてできないんだ。
でも、蛇の口を持つ尻尾は、だらりとうなだれた。
個々に体力を持つ生き物なのかもしれない。胴体と繋がってるから回復の手段を持っているんだろうけど。
『逃げろ』
その場から離脱すると、大きく体を回したキマイラが、俺の居た場所に山羊の角を当てる。
危なかった。
そう思った瞬間、上から光の矢が降り注ぐ。
マリー?
確実にダメージを食らって暴れるキマイラを、片手剣で思い切り薙ぎ払う。
いける。
続けて二度、切り裂くと、キマイラが咆哮を上げて後ずさり、口を開く。
『ブレスに気をつけろ』
あれ、ブレスの予備動作なのか。
まっすぐ走って行って、ブレスを吐く瞬間に、右手に避ける。そして、そのまま下から山羊の首を斬り上げる。
ちらりと尻尾を見ると、尻尾もうなだれたまま。回復はしないのかな。
そして、山羊の頭もうなだれる。
後は、獅子の首だけ。
もう一度ブレスを吐こうとする相手の口の中に片手剣を突き刺すと、剣が噛まれる。
そのまま振り回されそうになって、片手剣を離し、腰の短剣を抜いて、暴れている獅子の首めがけて、 短剣で斬りつける。
亜精霊でも、ちゃんと急所はあるんだな。
獅子の口から片手剣が落ちた。
『気を抜くな!』
え?
うなだれた獅子と山羊の首を持った、山羊の胴体の足が、助走をつけているのが目に入った瞬間。
「エル!」
両腕でガードしたが、体当たりされて後方に吹き飛ばされ、後ろの壁にぶつかった。
「いってぇ…」
あの胴体も、別なのかよ。
でも、視覚を持つ首を失ったせいか、同じ場所で暴れ続けている。
持っていた短剣を、思い切り山羊の胴体に向かって投げると、それが突き刺さったキマイラは、その場に膝をついて倒れ込む。
これで全部武器を失った。
立ち上がって、キマイラの傍まで行き、落ちている片手剣を拾う。
そして、剣を突き刺す。
ようやく、亜精霊がその姿を失った。
…あぁ、疲れた。
「エル、大丈夫?」
マリーが走って来る。
「なんで逃げなかったんだよ」
「だって。エルが、死んじゃったら…」
「俺が死んだところで、気にする必要なんてない」
落ちている片手剣と、短剣を二つ拾って鞘に納める。
「嫌よ」
「俺が亜精霊に殺されてたらどうするつもりだったんだ。次はマリーが狙われてたぞ」
「エルを置いて行くなんて、出来ないわ」
「二人一緒に死ぬよりは、一人でも助かった方が良いだろ」
「そんなの、間違ってる」
「どこが?」
マリーが両手を俺に近づけて、俺の頬を思い切り掴む。
いってぇ。
「間違ってるって言ってるのよ!」
理由になってない。
マリーの両手を掴んで離す。
「何すんだよ」
「もう少し、自分を大事にしてよ。二人一緒に助かる方法が考えつかなかったの?馬鹿!」
二人一緒に助かる方法か…。
「あ」
そういえば。持ってたな。逃走用の煙幕の玉。
これで目をくらませてる間に、二人で逃げられたかも。
「あったの?」
今言ったら、絶対怒られる。
「ないよ」
さっきの、頬をつねられる奴、すごく痛かったし。
『エルロック』
「メラニー。さっきは、ありがとう」
ずっとサポートをしてくれた。
あれがなければ、たぶん死んでた。
『頼みがある』
「あぁ。何でも聞くよ」
『精霊相手に、その約束は危険だぞ』
「助けてもらったのに、お礼をしないのも悪いだろ」
メラニーが顕現する。
『私と契約してくれ』
「え?」
『久しぶりに外に行きたい』
『ね、エル。契約して?メラニーは私の友達なんだ』
あぁ。そういうことか。
ナインシェはマリーを助けたいけど助けられなかったから、メラニーにマリーのサポートを頼んでいたんだ。
でも…。
「俺、あんまり良い契約者じゃないと思うけど」
『契約者に良いも悪いもない』
そういうものかな。
…断る理由が思いつかない。
精霊は好きだし、メラニーには感謝してる。
今、一緒に上手くやれたんだから、この先も一緒に居られるかも…。
髪の毛を一房切り取る。
「私、離れてた方が良い?」
「いいよ。俺はマリーとナインシェの契約に立ち会ったんだから、マリーも立ち会って」
「わかったわ」
「温度を下げる神に祝福された闇の精霊よ。請い願う。我と共に歩み、その力、我のために捧げよ。代償としてこの身の尽きるまで、汝をわが友とし、守り抜くことを誓う」
『エルロック。我は応えよう』
メラニーが俺の髪をその身に取り込む。
「エルで良いよ。よろしく、メラニー」
『あぁ。よろしく頼む。手始めに、設置されたトラップを壊していくとしよう』
そういえば、トラップがあるって言ってたな。
「どうやってやるんだ?」
『設置した奴は、かなり周到に隠していたからな』
トラップを設置するの、見ていたのか。
『あの辺りに向かって魔法を集中すれば、トラップを強制発動させられる』
言われた通り、その方向に手をかざす。
こんな感じか?
急に、周囲に煙が舞う。
「何よ、あれ」
『催眠、麻痺毒、煙幕、捕縛。昨日、人間がこの洞窟に入り込んで仕掛けて行ったものだ』
「どこの誰よ。そんなトラップを仕掛けるなんて」
『私たち、今年はよっぽどすごい子が来るんだと思ってたわ』
『そうだな。あんなトラップをかいくぐれるほどの強者が来るのだと』
『そしたら、こんなに可愛い女の子なんだもの。びっくりしちゃった』
「褒められてるのかしら、それ」
『褒めてるのよ。女の子で良かったわ』
「それ、気になるんだけど。次にオルロワール家の人間と契約する精霊って決まってるのか?」
『えぇ。最初に決めておかなきゃ、喧嘩になっちゃうもの。マリーって可愛いから、得しちゃったな。…さ、トラップもなくなったし、行きましょう』
精霊が増えただけでこんなに心強くて、賑やかになるから不思議だ。
…また、精霊と一緒に居るなんて。
しかも、契約までして。
「メラニー、絶対、俺が守るから」
『そんなことを言う契約者など初めてだ』
「契約の時に約束してる」
『人間は忘れっぽい生き物だからな』
「…そうだな」
忘れっぽいから。
いずれ、すべて忘れられる日が来るのかも。
※
「亜精霊と、戦ったぁ?」
「うるさいな」
カミーユに叫ばれて、耳を塞ぐ。
マリーと一緒に洞窟を抜けて、帰って来るなり、これだ。
「エル、怪我をしているね」
「あ」
吹き飛ばされた時に擦り剥いたんだろう。
「治してやるぜ」
アルベールが傷口に触れると、傷が見る間に消え、傷跡だけがうっすらと残る。
「そういう時は全力で逃げて来いよ」
「逃げろって言ったのに、マリーが逃げないから」
「また蒸し返す気?」
なんでそんなに怒るんだ。
「別に、無事だったんだから良いだろ」
「エル、どんな亜精霊だった?」
「獅子の首、山羊の首、山羊の胴体、蛇の口を持った尻尾」
「なんだその恐ろしい生物は」
『あの亜精霊を放った人間はキマイラと言っていたな』
『なんだったんだろうね。トラップもたくさん仕掛けちゃって』
「キマイラか。…エル、トラップは魔法で仕掛けられていたのかな」
「え?」
『魔法だ』
「魔法みたいだけど」
「アル、調査に行こう。早い方が魔法の痕跡を探しやすい」
「いいぜ。レオ、お父様に報告を。みんなも戻ってるんだ」
アレクとアルベールを見送って、伯爵が居る場所を目指して歩く。
「オルロワール家に喧嘩売るなんて、一体誰の仕業かしら」
亜精霊を放ったのも人間。
トラップを仕掛けたのも人間。
マリーが狙われてたのは確かだろう。
…でも、ここは光の洞窟だ。
光の精霊はオルロワール家の味方。
マリーに命の危険があれば、絶対にマリーを助けたはずだ。現に、ナインシェは心配して、メラニーに マリーを助けてくれるように頼んでたわけだし。
こんなところに仕掛ける意味って、あるんだろうか。
※
調査の終わったアレクと桜を楽しんで、のんびりお茶の時間を過ごした後。
アレクの馬に、アレクと一緒に乗って帰路に着く。
「楽しかったかい」
「楽しかった。…精霊と契約したよ」
「良かったね。良い子なのかな」
「うん。助けてくれたんだ。たくさん」
「エルは精霊に好かれるからね」
それ。良いことなのか?
「アレク。俺は間違ってるか?」
「どうしてそう思うんだい」
「精霊と契約するなんて…」
俺に、許されることなのか。
「エル。今を大事にしよう」
「今を?」
「エルの精霊は、エルと一緒に居ることを望んだんだ。そして、エルはその望みを叶えた。良い関係だと私は思うよ。エルは、精霊が好きなんだろう」
「好きだよ。精霊はみんな優しいから」
優しくて。
優しすぎるから。
「大丈夫。契約していれば守れるからね」
それって。罪滅ぼしになるのかな。
…ならないか。
「眠たかったら寝ても良いよ」
「夕日が綺麗だから、見てるよ」
地平線上にある太陽は、とても大きく見える。
太陽が沈めば月が登る。
今日は十五日だから満月だ。




