02 王国暦五九九年 ヴェルソ 二十三日
「そんなに甘いものばっかり食べて、良く嫌いにならないな」
「えー?美味しいよぉ?食べてみたらぁ?」
「…嫌だよ」
「ここのプリンは毎日違う味なんだもん。一番お勧めは、和三盆プリンだよぉ」
和三盆って砂糖だよな?
オーソドックスなプリンってことか?
「エルは全然食べないねぇ。本当にお腹いっぱいになったぁ?」
十分食べた。
っていうか、この小さい体のどこにそんなに入るんだよ。
「付き合いきれない。もう帰る」
「うん。じゃあ、また明日練習しようねぇ」
一人で食べ続けるつもりか。
「食べ終わるまで一緒に居るよ」
一人で食事するのは、つまらないから。
「ふふふ。エルは優しいねぇ」
ユリアたちが、ランチの時間ずっと食堂に居続けられる理由がなんとなくわかった気がする。
いつ行っても、ユリア、マリー、セリーヌの三人組は、だいたい同じ席でずっと食べてるか喋ってる。
無理。
もう二人でランチに来るのはやめよう。
「エル、ちょっと良い?」
セリーヌ。
「菓子なら食べないぞ」
「そうじゃないわ」
「何だよ」
「ちょっとお願いがあるの」
「お願い?…何だよ」
菓子を食えって追いかけ回されたから、何されるかわからない。
「ほら、エルってマリーと同じ身長でしょ?」
「あぁ」
この前、誰かに言われたな。
「だから、サンドリヨンの衣装合わせに付き合って欲しいの」
「そんなのマリーに頼めば良いだろ」
「マリーが見つからないから頼んでるんじゃない」
「見つからない?」
「シャルロとずっと稽古してるのよ」
そういえば、シャルロとマリー、見かけないな。
「お願いよ」
仕方ないな。
「いいよ」
「ユリア、これ、借りても良い?」
「うん。いいよぉ。今日は練習おしまいだからぁ。…ごちそうさまでした」
ようやく食べ終わったユリアが手を合わせる。
※
「ちょっと胸に詰め物して」
「マリーってこれぐらいだっけ?」
「少しぐらい盛っても良いんじゃない?主役なんだし」
「ウエストは?」
「サイズは知ってるけど…。ま、後で直せば良いか。足元どう?」
「少し直す。エル、動かないでね」
「レースのバランス変えて」
「今から?リボンでごまかせない?」
「だめ。完璧に作ろうよ」
「ここの刺繍、ずれてるー」
「あっ。ボタン外れちゃった」
「もう一着作った方が早いんじゃない?ほら、同じベースの、もう一個用意してあるじゃん」
「これは失敗作だわ」
「エル。着替えて」
立ってるだけっていうのも結構しんどい。
もう一着の方に着替える。
「パーツの仮止めするわ」
「動いたら刺すわよ」
刺すなよ。
これ、いつまで続くんだ?
※
「エル、もう一回着替えて」
「…これで最後か?」
「えぇ。まぁ」
まぁってなんだ。
最初のに着替える。
さっき失敗したって言ってたのに。こっちの衣装は何に使うんだ?
「さ、化粧しましょうか」
「化粧?なんで?」
「いいからいいから」
座らされて、化粧をされる。
「いてぇ」
瞼を挟んでる!
「じっとしてて」
「…何?これ、本当に化粧なのか?」
「そうよ。エルは目が大きいわよね」
「睫毛も長いし、良い感じ」
「こっちの色の方が良くない?」
「えー。ピンクのドレスなんだから、こっちでしょ?」
いつまでじっとしてれば良いんだよ。
「あ、カミーユ。ちょど良いところに来たわね。これ、合わせてくれない?」
「衣装か」
カミーユも捕まったのか。
「良い感じね。でも、これって背中を丸めると恰好つかないから、舞台上では姿勢良くしててね」
「わかったよ」
「カミーユ、ちょっと待ってて!」
「なんだよ?」
「ほら、並んでみて」
カミーユの前に立たされる。
「何、やってるんだよ」
カミーユが俺を見て驚いてる。
「しょうがないだろ。マリーと同じ身長なんだから」
好きで、マリーの衣装を着てるわけじゃない。
「やっぱりリボンもつけて良さそうじゃない?きっと邪魔にならないわよ」
「そうね」
カミーユが俺を見ながら、俺の顎を持ち上げて、俺の顔を眺める。
どれだけ顔変えられたんだ、俺。
「何だよ」
俺だって今、自分がどんな顔してるかわからないのに。
「女みたいだな」
ふざけんな。
じっとしてるのが、どれだけ大変だと思ってるんだよ!
思い切り殴りかかる。
「同じ手を二回も受けるかよ」
簡単に避けられて、逆に腕を掴まれた。
「ちょっと!暴れないでよ!」
誰のせいだと思ってるんだ。
「うるさいな。もう脱いで良いだろ?」
「もうちょっと着てて」
「いつになったら解放されるんだ」
「ケーキ奢ってあげるから我慢して」
「甘いものは嫌いだって言ってるだろ」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
なんで、すぐ忘れるんだ。
「あー、もう。面倒だ」
「ね、ティアラもつけよっか」
「リボンとどっちが良いかな」
「両方試してみようよ」
「あ、あの大きい帽子もかぶせてみない?」
「三角帽?…劇では使わないと思うけどね。せっかくだからかぶせてみようか」
いつになったら終わるんだ?これ。
「バイオリンの練習はどうしたんだ」
「四六時中、ユリアに付き合ってられるかよ」
「どこまで弾けるようになったんだ?」
「愛の喜びも悲しみも、一通りは弾けるよ」
「え?もう出来るようになったのか?」
「アレクが一回弾いてくれたから」
「俺も聞いてみたかったぜ、それ」
「頼めば良いだろ」
「頼めるわけないだろ」
カミーユはアレクに弱いから。
そういえば、ロニーが言ってたあれ…。
「なぁ、カミーユ。手に入った瞬間、要らなくなるものってなんだと思う?」
「なんだそれ。なぞなぞか?」
「なぞなぞ?」
謎謎?
「言葉遊びかって聞いてるんだよ」
あぁ、そういう意味なのか。
頷いておく。
カミーユは少し悩んで、答える。
「夢」
「夢?」
「叶ったら、夢じゃないだろ?」
夢は叶った瞬間、現実になって、夢ではなくなるから?
好きな人は…。
手に入ると好きな人ではなくなる?




