一話
※「海を見たかい」のちょこっと人物紹介※
人以外のモノが見える 霊関係の裏家業を展開中 霜月海
高校時代の同級生でカイの親友でアシスタント 大川孝之
「流れゆく時」 海を見たかい~志月流加編~
ー今より少しだけ前ー
俺は多分、来月、十八だったのが十九になる。
まぁ、正確な年齢はあまり気にしていない。
未成年なのは気に入らないが、仕方が無い。
一人称は「俺」、時々「僕」になる。
それも気にしていない。
高校は出たが、就職はしていなかった。
大学に魅力を感じないので進学もしていない、親は浪人と他人に言っていたが、浪人でもなかった。
親と暮らしているから、ある意味、不自由はあるが、生きる事に不自由はしていない。
日々楽しければいいなんてもの、別に思ってはいない。
それでも、ただ日が勝手に過ぎてゆくだけだ。
僕は他の人間が嫌いだった。
でも、そんなのは邪魔だとか、話すのが面倒くさいとか思っているだけで別になんでもなかった。
へらへら笑って仲間に合わせる日もあれば、何もしない日もあった。
その日は、何でも面倒に思える日だった。
降りようとした駅で目に前にもたもたしている女がいた。
その女の鞄が邪魔になりちょっと押して電車を降りたら、その女がバランスを崩して倒れそうになった。
俺はそれを横目で見た。
女はすぐ後ろにいた男にぶつかって倒れはしなかった。
「ごめんなさい」と言う声が聞こえた。
そこで電車のドアが閉まった。
閉まったと、思ったが、何かあったのか再び開いた。
開いたドアから男が二人降りてきた。
「おい」
階段へ向かっていた俺は彼の声に振り向いた。
僕は、この日「霜月海」に捕まった。
これが彼らとの出会いだった。
カイとの出会いは運命だったのかもしれない。
今の俺ならそう思えるけれど、その時はそんな余裕は全く無かった。
振り向くと声をかけたのは俺にではなく、降りた二人の男が前を歩く細身の男にかけたものらしかった。
なので俺は彼らを無視して階段を降りかけた。
「おい。話がある」
今度は確実に自分に対してかけられた声だとわかった。
なぜなら、俺の肩に手が置かれたからだ。
俺は、腕を後ろに回して、肩に置かれた手を掃いながら答えた。
「何ですか?急いでいるんですけど」
さっきの細身の男の方だった。
近くで見ると意外と若く二つか三つ上くらいか、自分とそう違わないように思えた。
電車の中で転びそうになった女を支えたのがこの男の後ろにいる体格の良い大きな男だ。
彼らが知り合いなら、さっきの事でいちゃもんを付けられると俺は思った。
いつでも逃げられるようにと体勢を階段に向けながら睨み返した。
「さっきの事ですか?あんな何でもない事で文句つけるんですか?」
「ああ、さっきの…」
「別に何も起きちゃいないじゃないですか?」
「……」
「何なんですか?あなたたちは」
「仕事で電車に乗っていたんだが…ちょっと気になってね」
「仕事で?そんなの普通じゃ……公安かなんかですか?」
「んー、公安じゃあないが…」
「じゃあ、警察ですか?僕に何の用があるんです。やっぱりさっきの事ですか?」
「さっきのでもない。僕達は探し物をしていて」
「探し物?」
「どうも、君がそれを知っているみたいなんだ」
「…僕が?」
なんだか、話が変に胡散臭くなってきた気がする。
このままこいつといるとヤバイ雰囲気が流れ始めた。
これ以上、話を聞いてはいけない。
と、何かが俺に警告をしてくる。
その時、ホームに次の電車が入ってきた。
「俺はそんなの知らない!二度と俺に近づくな」
俺はそういうと階段を駆け下りて一気に改札を抜けた。
そして、人ごみに紛れた所で後ろを見た。
彼らは追ってきてはいなかった。
「何なんだ。あいつら…」
俺は夕日が落ちかけてきたビルの間の光を受けながら家に向かった。
「了解。志月画伯のお孫さんかぁ…関係者ではあるかもな」
大川がそう言った。
「それでも、あまりにさっきのは強引じゃないか?いつものお前らしくないぜ。何かあるのか?あのガキに」
「さあ、今はまだ…」
「それか何か起きるのか?危ない事とかか?」
「それは無いと思う」
「…そうなのか?じゃあ、今日はどうする?このまま張るのか?」
「睦月を置いてゆく。僕らは戻ろう」
古い白壁の日本邸宅、その横に立つ洋風な家。
志月画伯の息子は日本画を描いていない。それが見て取れるような家だった。
部屋の明かりが点いているのを見ながら
「あの子はどの部屋だろうな…」
とカイが言うと、大川は笑った。
「なんだ、それ?好きな女の子の家を覗いている中学生みたいなセリフだぞ」
「俺達がしている事はソレと大して違ってない気もする」
「いや、それは違うだろ?」
「そうか?」
「だって恋だぜ。恋」
「ふーん。とにかく駅に戻ろう」
カイは式神・睦月に家を見張るように言った。
「じゃ、よろしく」
睦月に手を振った。
二人は駅へ向かった。