表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

「カマクラリス」現る

 墓参りが済んだら、こんどは鎌倉の桜を楽しむ段。


 え? 今、十分鎌倉の桜を楽しんだだろって?

 そりゃそうなんだが、さすがに墓参りだけじゃ時間が余るし、せっかく鎌倉に来たんだから、「名所らしい名所」の桜も楽しみたい。だってこれ、誰がなんと言おうと「春旅」ですから……。


 そんなわけで、鎌倉駅行きのバスを八幡宮のバス停まで乗って、目指すは源氏山。鎌倉の中心街の西にあるちょっとした山で、遠足や軽ハイキングのメッカになっている。

「名所らしい名所」とか「八幡宮まで乗る」とか言っておきながら、行く先は若宮大路じゃなくて、源氏山。若宮大路は、もともと鎌倉観光のメインストリートで人が多いうえに、桜の名所とくれば相当ごった返しているだろう。そういうのはちょっと苦手で……。


 源氏山もそれほどマイナースポットというわけじゃないが、ごった返すというようなことはない。重いザックを背負って登るのは難儀だが、桜も楽しめるし、のんびりできるし、どうしても足が向く。もはや毎年の恒例だ。


 八幡宮のバス停で下りると、果せるかな、人・人・人。そんなエリアは足早に通り過ぎて、裏通りへ。鎌倉は、一級の観光スポットとかメインストリートから外れると、途端に落ち着くから救われる。

 歩きなれた裏通りを縫って、あたりのちょっとしたスポットに寄りながら進むと、山が近づいて登りになってきた。


 町中から源氏山への「登山ルート」はいくつかあるが、化粧坂けわいざかルートがオーソドックスだし、個人的にも定番だ。

 化粧坂は、朝夷奈の切通しと同じく鎌倉七口のひとつで、こっちも国の史跡になっている。意味ありげなネーミングだが、近くに遊郭があったとか、平家の大将の首を化粧して首実検したとか、木が多いから「木生い坂」だとか、諸説あってはっきりしていないらしい。新田義貞の鎌倉攻めの舞台になったとも伝わっていて、そんなふうに言うと、なかなかたいそうな歴史的舞台っていう感じになるが、当の化粧坂自身は鼻にかける様子もなく、趣きある軽ハイキングコースになっている。


 中心街からちょっと外れれば、道沿いの家の庭先とか、ちょっとした小川のほとりで春の花をちょくちょく見かけるが、山が近づくと一気に数も種類も増えてくる。菜の花とかヤマブキの黄色、ショカッサイやムラサキケマンの紫、植え込みのボケの赤、そこへ色とりどりのチョウが舞ったりして、春旅ムード満点。

 ああ、だから鎌倉はやめられないんだよなあ……。


 そのうち家並みも尽きて化粧坂にさしかかろうかという頃、道沿いの林から、ケポケポケポ……と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。立ち止まって、声のするほうを探してみると……あ、いたいた。鎌倉名物・タイワンリスの登場だ。


 鎌倉名物。

 そう、もうそう言っても言い過ぎじゃないくらい、どこに行っても見かける。鎌倉を歩いたことがある人は、たいてい見かけるか、声を聴くかしているんじゃないだろうか。

 若宮大路とか大町通りあたりの繁華街を歩くだけならさすがに見かけないかもしれないが、八幡宮とか、長谷寺とか、大仏あたりの超有名観光地でも、ちょっと山に近づけば見かける機会は多い。私の場合、山とか町はずれのマイナースポットばっかり行くのでなおさらだ。

 そういうところだと、木の枝はもちろんのこと、家の門柱とか、電線とか、ここは俺の町だ文句あるか!といわんばかりに、我が物顔で歩きまわっている。


 タイワンリスは、その名の通り、台湾に住んでいるリスの一種。もともと日本にはいなかった動物だ。

 それが、飼っていたり観光用に放したのが逃げ出して、日本のあちこちで野生化しているらしい。中でも特にひどいのが、鎌倉のある神奈川県南東部、三浦半島エリアじゃないだろうか。


 でも、リスなんて言ってみればネズミの親戚みたいなもんだろうし、外来種ってヤツはたいてい日本の在来種よりよく増える。もう10年以上前に、三浦半島からちょっと離れた横浜市内の神社で見かけたし、今ごろは神奈川全部征服されているかもしれない。

 そうはいっても、個人的には「鎌倉のリス」っていう印象が強い。とにかく、鎌倉にくればコイツがいる。私にとっては、これはもう、タイワンリスっていうか、カマクラリスだ。

 やっぱりコイツは鎌倉名物だ。鳩サブレだ。


 山梨に住む前は神奈川人だったので、鎌倉にはまあよく通ったもんだ。年に4~5回くらいずつ歩いただろうか。四季折々に花も咲くし紅葉も楽しめるし、何回行っても、次のシーズンにはまた行きたくなる。

 当然、かなりの割合で、このカマクラリスたちを見かけてきた。初めは、たまたま運がよかったんだと思っていたが、すぐにそうじゃないと気づくことになる。今回は源氏山にいた、今度は街中で見かけた、と、鎌倉歩きのひそかな楽しみになっていた。

 ところが、どういうわけか、ここ数回は見かけないことが続いていた。年1回、それも半日くらいしかいられないからじゃないだろうか。今回の化粧坂歩きが、久しぶりのカマクラリスとの再会になったわけだ。


 久しぶりによく見てみると、リスだからかわいらしいところもあるのだが、あらためて、デカい。

 日本にはもともとニホンリスなる在来種が住んでいるはずだが、かえってほとんど見たことがないのでよく分からないものの、タイワンリスはニホンリスよりだいぶ大きいんじゃないだろうか。フンイキも、なんとなく強そう。鳴き声も、私にはケポケポケポと聞こえるのだが、ものの本にはクックックッ……と載っていて、どっちにしても、たぶんニホンリスはそんなけったいな鳴き方はしないだろう。

 とにかくいろいろな面で、ニホンリスが負けてしまいそうな気がしてならない。鎌倉にニホンリスがもともと住んでいたかどうか知らないが、住んでいたとしても、もうとっくに絶滅しているような気がする。


 そんな、うれしいんだか由々しいんだかよく分からない再会を果たして、いよいよ化粧坂の登り。

 それほど長い坂でもないが、急だし、デコボコしているし、なぜかいつも濡れていて、滑りそうで気をつかう。長いこと踏まれ続けて、えぐれたりなめされたりしてこうなったんだろうから、歩きにくさも史跡体験といったところか。

 一歩一歩、慎重に歩きつつ、たまにあたりを眺めて雰囲気に浸ったりして、登りきると、源氏山に到着だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ