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祝・人生初ネカフェ泊

 ネカフェデビューを決めた私は、安宿が集まる、いわゆる「あいりん地区」を脱出し、環状線をくぐって新世界エリアまでやってきた。スマホで場所を調べなおすと、ほんとうに新世界の真っただ中にあるという。

 夜遅くまでにぎわう新世界の通りを、それがあるはずのほうへ進みつつ、行く先に目を凝らすが、それっぽいものが見えてこない。だいぶ近付いたはずなのに、見えてこない。


 道、あってるかなあ。そもそも、本当にそんなのあるのかなあ……。


 不安になりながら歩いて、通りも尽きようとしたその時、それは突然現れた。串カツ屋をはじめ飲食店がひしめき合う一角に、街に溶け込むように、たしかに、ネットカフェがあった。


 店の前には、料金が書かれた看板が立っている。ひととおりネットで確認済みなのだが、あらためてそれを眺めて、時間や料金を確認する。

 ……いや、気後れして踏ん切りがつかないだけなんだろう。無理もない、システムも雰囲気も皆目見当がつかないし、そもそも、入っていって、まずなんて言えばいいのかからして分からないわけだ。

 でも、もう、ここしかないだろう。意を決して、ドアを開けた。


「いらっしゃいませ」

 そう言われるままに、カウンターへ。

「コースはお決まりですか?」

「……泊まる形で考えてるんですけど……」

「なら、朝までパックというのがありまして……」

 こっちが慣れていないと察するや、パッとド初心者向け説明モードに切り替えてくれるんだな、と、ちょっとひと安心。

「じゃあ、それでお願いします」

「ブースはいかがいたしましょうか? 寝られるなら、こういったタイプがございますが……」と、写真を見せる。長いソファーが置いてある部屋があるようだ。たしかに、これならなんとか寝られるな。

「じゃあ、それでお願いします」

 支払いを済ませ、カギを受け取る。思ったより感じのいい接客だし、やり取りが非常にスムーズで、なんかホッとした。


 だが、個室に向かおうとするも、狭く入り組んだネットカフェの店内環境に慣れていない身には、迷路のように感じられて面食らう。進んだ通路は本棚に阻まれて行き止まりで、戻って隣の通路を進んで、ようやく所定の部屋にたどり着いた。


 カギを開けて部屋に入ると、写真で見たとおり、パソコンが置かれたデスクと、白いシーツ風の布がかかった長いソファーがある。ソファーは、背もたれが分厚くしっかりあって、背もたれと座面の長さが同じくらいのタイプ。座ってくつろぐには快適そうだが、横になるにはちと幅が狭い。寝返りを打った拍子に転げ落ちそうだな……。

 まあ、ここは宿泊施設じゃないわけだし、これでなんとか一夜を過ごすしかない。そんなことを考えながら、荷物を置いて、しばし部屋を見わたして環境を把握。いくらか落ち着いてきたところで、ドリンクでもいただいてくるか。


 カウンターのところに戻って、ドリンクバーでホットココアを注いで、部屋に戻ってすする。ドリンクバーを目的に来たわけじゃないが、こういうのはやっぱりありがたい。ココアの甘さが心をほぐす。

 ――ネカフェ、いいかも……。


 さあ、もう遅いことだし、明日も予定が詰まっているし、そろそろ寝るとしよう。

 シャワーを済ませ、そうそう、ブランケットを貸してもらえるらしい、借りてくるか、と、通路の一角にある貸出品コーナーを見てみると……ない。「ブランケット」って書いてあるけど、ない。スタッフに確認してみる。

「すいません、ブランケットないですか?」

「あー、もう残ってないですね。申し訳ないです」

 うーん……何もかけずにそのまま寝るしかないか……。


 部屋に戻ってみると、エアコンがしっかり効いているとみえて、かなりあったかい。これならブランケットなしでも平気なんじゃないか? そのまま寝ちゃうか。じゃ、おやすみなさーい。


 一旦寝入るも、やがて目が覚める。

 う、寒い……。

 おかしいなあ……あんなにあったかかったんだけどなあ……。


 試しに起きてみる。すると、やっぱりあったかい。どうやら、座っているときの上半身の高さくらいまではしっかり暖まっているが、そのあったかさがソファーあたりの低いところまで届いていない、ということのようだ。エアコンってのはこんなもんかもしれない。


 んー、やっぱりブランケットは必要だったということか。でも残っていないしなあ……。しょうがない。着込んで寝るか。

 ザックからフリースの上着を取り出して、着て、再び横になる。これなら大丈夫だろう……。

 たしかに、さっきよりだいぶマシにはなったのだが、それでも寒くてときどき目が覚める始末。こんな調子で、この夜はどれだけ眠れたのだろうか。


 西成の安宿に拒まれつづけた地獄の中で、ネットカフェという未知の世界にたどり着いて、一夜を過ごすことはできた。しかも、そこそこ安く上がった。でも、寒かった……。

 そんな、印象深いネカフェデビューのひと晩を、私はきっと忘れることはないだろう。

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