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夜の電車で悶絶の宿探し

 国鉄型電車との旅は終わりを告げたが、今日の旅路はさらに続く。今宵は大阪に泊まる予定だ。ここで乗りかえて、山陽線をさらに東へ進む。

 乗りかえるは新快速……ではなく、快速電車だ。


 関西の人とか、関西のJRを使ったことがある人たちからは、いやそこは絶対新快速だろ、とツッコミが飛んでくるところだろう。そういう方々はご存じの通り、東海道線から山陽線にかけての、大阪を中心とした関西アーバンエリアでは、「快速」と名の付く電車が2種類走っている。1つは「快速」、もう1つは「新快速」だ。この2つ、同じ「快速」の字が付いていても、中身は全然違う。


 「快速」は、姫路から滋賀県の米原まで延々200キロ走っている中で、その名の通りに途中の駅を飛ばして走るのは、明石から京都まで、全体の半分程度といったところで、その前後は各駅に止まる。兵庫の西のほうとか滋賀県内とか、各駅に止まるエリアだけ利用している客は、きっと名前を無視して鈍行として捉えているだろう。


 片や「新快速」は、姫路から米原に至るまで、全域で途中駅を豪快に飛ばして走っていく。止まる駅の数は、エリアによっては特急並みの少なさだ。

 止まる駅が少ないだけでなく、スピード自体も速い。最高時速、実に130キロ。特急電車以外だと全国トップクラスだろう。

 この特急並みの電車に、18きっぷだけで乗れるわけだから、よほどのことがない限り、旅人たちは迷わず新快速で行き来しているに違いない。そこを私は、大阪駅まで乗りとおすにもかかわらず、あえて「快速」で行こうというのだから、ツッコミが飛んでくるのも無理はなかろう。


 なぜか……ここまでお読みの読者諸賢はお気づきかもしれないが、この旅の時点では、快速はまだインバーター電車に占め尽くされていないから。あの背筋をなぞる「怪音」から逃れるために、わざわざ余分な時間をかけて、あえて遅いほうの電車で移動しようというのだ!


 これから大阪まで、たっぷり1時間半はかかる。弁当を持ち込んで、車内で晩飯を済ませながらの移動だ。幸い、前向き2人掛けシートだし、新快速と違ってそこまで混むこともない。食事を済ませるには好都合だ。

 姫路駅前のスーパーで弁当も買ったし、ガラガラの快速電車に乗りこんで、とっぷりと暮れた姫路駅から、大阪めがけていざ発車。


 もういい時間だし、快速といえども神戸に近づくほど混んでくるので、まず晩飯を済ましてしまう。食べ終えたら、ひとつ仕事を済まさなきゃいけない。さっき、今日は大阪に泊まる予定だと言ったが、まだ宿を押さえていないのだ。

 昨日かおとといあたりにちょっと検索してみた限りでは、まだ安手の宿に余裕がありそうだったし、まあ予約はこのタイミングでも大丈夫だろう、とタカをくくっていたわけだ。


 食べ終えたことだし、さあ、予約サイトをのぞいてみますか。スマホを取り出し、大手サイトで検索してみると……あれ? ない。

 ない。

 2つのサイトで探してみても、どっちも、ない。空いていたはずの宿が、ひとつも出てこない。

 もちろん、宿自体が1つも出てこないというわけではないのだが、出てきたたとしても、到底、貧乏旅行者に手が届くレベルじゃない。これはもう、「宿がない」と言わざるを得ないありさまだ。


 あれ……。

 なんだか、妙にノドが絞まって、口の中がマズーくなってくる。


 あの安宿たちは、当日になって、一気に埋まってしまったんだろうか。それとも、もう予約を締め切ってしまったんだろうか。安宿に限って、予約サイトでの締め切りが早いということは十分あり得る。

 試しに、大阪の狙っていたエリアから範囲を広げて漁ってみても、余計に高いだけだ。なにせ、もともと狙っていたのは、大阪でも、いや関西全体で見てもダントツに安い宿が集まる、かの西成にしなりエリア。あそこを下回るような宿が、ほかのエリアでおいそれと空いているはずはない。


 これじゃ今日、泊まるとこないじゃん。


 スマホ片手に、愕然としてフリーズし、ふと1つ思いついて悪あがきの検索をかましては、さらに厳しい現実に直面してまたフリーズし……を詮無く繰り返す。そんなふうに、快速電車のシートに収まって、スマホ片手に人知れず悶絶するうち、電車はどんどん進んでいく。


 車窓はすっかり夜のそれだが、ほんとうは、1か所眺めを楽しみにしていたところがあった。神戸の西にある須磨エリアで、海沿いに出て、明石海峡を眺められるところがあるのだ。昼には海を隔てて淡路を望めるが、夜でも島の灯りにそれを感じられるだろう。

 でも、眺めを楽しむどころか、いつ通り過ぎたのか気付きもしなかった。それどころじゃない!


 なぜこんなことに……やっぱりインバウンドか……。

 春休み中とはいえ、今日は平日。はるか昔から大阪には幾度となく泊まってきたが、かつてはこんなことなかった。

 それがおかしくなったのは、コロナ禍前のインバウンドフィーバーのときだ。あの時も宿がなくて青くなったもんだが、コロナ禍も落ち着いてきたここへ来て、インバウンドがよみがえってきて、かの悪夢もよみがえってきたということか。

 これはもう、言わせてもらおう。インバウンド禍、と……。


 あっという間に、電車は神戸を過ぎて、気付くと大阪にほど近いところまで進んでいた。たっぷり1時間半あったはずが、晩飯食べて、宿のなさに頭を抱えているだけで過ぎてしまった。


 こいつはもう、行って直談判しかないな……。

 そんな失意のうちに、外の景色はいつしか大都会の姿へと変わり、ついに大阪駅のホームにすべり込んだ。

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