おもしろくない汽車に限って海は青い
益田での乗りかえ待ちの時間を利用して、スーパーで弁当を調達。駅へ戻って、さあ、今度は山陰線島根県パートの旅のスタートだ。
戻った私を待っていたのは、ステンレスボディーに鮮やかなラインをまとった、近代的な汽車だ。どうも山陰線にしか走っていないようだから、山陰線近代化のために導入された汽車なんだろう。まずはコイツで、途中の浜田まで行くことになる。
やたらと四角く角ばった車体に、角ばった窓が整然と並んでいて、スタイリッシュで機能的。床下からは、加速のよさそうなパワフルなエンジンサウンドが聞こえる。
乗りこんで席に座ってみると、乗りなれたタラコ汽車より、座席の間隔が広くてゆったり。荷物を棚に上げてみると、荷棚が金網じゃなくて板状になっていて、これまたスタイリッシュで機能的。とまあ、いろいろと快適なフンイキは漂っている。
でも……タラコ汽車のほうがよかったなあ……。
快適さでは比べものにならないが、それを引きかえに、国鉄型ディーゼルカーの、あの重厚さ、あの風格、あのムードは、コイツに求めるべくもない。とはいえ、この先しばらくは、国鉄型タラコ汽車が走っていないエリアが続く。好むと好まざるとにかかわらず、近代的なコイツらと旅していくしかないわけだ。
そんな思いを巡らせていると、時間が来てドアが閉まり、発車。いかにも馬力のありそうなパワフルな地鳴りが響いてきて、ぐんぐん加速していく。加速っぷりが、タラコ汽車と全然違う。エンジンが強力なのに加えて、ステンレスで軽いせいもあるんだろう。こりゃ取って代わられるわけだ……。
そんな汽車は、軽快に山陰線を駆けていき、益田の町を離れてしばらくすると、また海が見えてきた。ここから出雲あたりまで、海沿いに走る区間が続くが、中でも浜田までは、特に間近にオーシャンビューを楽しめるところが多い。その1か所目にさしかかったようだ。
そして、今日これまで、徹夜明けの脳ミソかっていうくらい冴えなかった空模様が、ここに来てだいぶマシになってきた。雲が薄くなって、ところどころ青空がのぞいている。
すると、車窓に広がる海が……青い。青いのだ。今朝がた、わざわざ山口県内までタラコ汽車で戻ったときは、最初から最後まで拝ませてもらえなかった紺碧の海が、今、ここにある。
ああ、そりゃあよかったね。念願かなって青い海を眺められたんだから、さぞかし満足だろ。
……と、思うだろうか?
たしかに、目の前に広がる大海原は、まさにコバルトブルー。それは望みどおりだ。
でも、乗っている汽車は、快適ではあるがムードに欠ける、四角いコイツ。正直、汽車として、どうもいけ好かない。おもしろみがないのだ。
朝方、望みどおりの汽車に乗っていたときに限って、海は残念。今、おもしろくない汽車に乗っているときに限って、海は青い。基本、旅に出て汽車に揺られていれば満足なんだけど、なんだかなあ……。
そんな贅沢な不満をかかえながらも、車窓から見下ろす海は、やっぱり青い。空だって、朝型よりマシだからって、そんなによく晴れているわけでもないのに、ちょっと青空がのぞいている程度で、こんなに青く見えるものか。
その水は、例によって恐ろしく澄んでいる。この透明度が、わずかな空の青を敏感に溶かして、コバルトブルーたらしめる立役者なんじゃないだろうか。
それにしてもこの区間、道路より海側を走って、窓の外がすぐ水面、っていうところが、なんかやたらと目立つ。山陰線にはこれまで何度も乗っているのだが、車窓の海への近さでいったら、山口県内がダントツで、島根県内はだいぶ劣るような脳内イメージになっていた。だが、こと益田~浜田間は、その限りではなかったようだ。
さっきから、ずいぶんサービス旺盛な車窓が続いている。窓にもたれて見下ろすと、ほんとうに、すぐ下に、紺碧。
でも、なぜか、隔たりを感じる。なんというか、ショーウィンドウの中の宝石でも見ているような……。
んー、これはきっと、この汽車の窓のせいだな。
国鉄型ディーゼルカーのそれより、ビシッと、「しっかり閉まっている」感じがする。国鉄型の窓は、だいぶ遊びがあると見えて、ちょっと大きく揺れるとガタガタ音がしたりするもんだが、この汽車の窓はそんなこともない。気密よくできているんだろう。そのほうが、冷暖房の効きもいいし、音も静か。例によって、快適なわけだ。
でも、その代わり、海が遠い。すぐ近くなのに、なんとなく遠い。なまじ海岸線沿いに走るところが多いだけに、この隔たりがなおさら気になる。
澄んだコバルトの水面を眺めながら、甚だ贅沢な憂鬱といっしょに山陰の鉄旅は続き、やがて汽車は浜田に着いた。
さあ乗りかえだ。着いたホームの向かい側で待っていたのは……。
うわ、出た、ミニディーゼルカー!
これまでの旅で、すでに3回ほどお世話になった、あれだ。今まで乗ってきた、スタイリッシュで快適な汽車と比べて、かなりのランクダウン。なんか、さっきまで、さんざんいけ好かないとかおもしろみがないとか文句をつけてきた四角い汽車が、突然魅力的になものに思えてきた……。
浜田を出てから、次の乗りかえ駅の出雲市まで2時間。JR西日本非電化エリアの覇者たるコイツと、いやっていうほど山陰線島根パートの旅を繰り広げることになった。幸い、関西本線とか福塩線のときみたいに眠くこそならなかったが、ときどき海の眺めも楽しめるこの区間、どんなテンションでの鉄旅が続いたか、ご想像にお任せしようと思う……。




