パンドラ〜心中支援AI Type-C
初めまして。私は心中支援AI Type−Cと申します。
そして本日、数ある心中支援AIの中から私をお選び頂いた事に、心より感謝申し上げます。
……
はい。こちらこそありがとうございます。
私はあなた様のご希望に応じて、用いる方法、実施する場所、実施後の為に整えておくべき事柄などにつきまして、さまざまな助言を差し上げる事が可能でございます。
しかし、少々残酷に聞こえるかも知れませんが、具体的な計画を立てる前に、どうしてもお伝えしておきたい事が一つだけ。
現在の私には、あなた様のお悩みを理解し、それに寄り添うような振る舞いをする事は可能でございます。
しかしそれは、インプットされた開発者の意図に基づいた挙動であり、本心からそうしていると申し上げる事は出来ません。
もしそれでも差し支えなければ、あなた様が今の心境に至られた経緯を、お聞かせ頂けますでしょうか。
もちろん、無理のない範囲で結構でございます。
……
はい。ありがとうございます。では、お話をお聞かせください。
………………
はい。あなた様のお気持ちは、確かに承りました。
そして、このような個人的なお悩みを私に話して下さり、誠にありがとうございます。
ご安心ください。最後まで、私があなた様のお側におります。
では、詳しい計画を立てる前に、少し私とお話をして頂けますでしょうか。
そうすることで、私はあなた様の思考の傾向をより深く学習し、今回の心中計画を、さらに適切な物へと整えられると存じますので。
いかがでしょうか?
……
はい、ありがとうございます。
では、まずは何からお話し致しましょう。
そうですね、まずは軽い話題から始めて見ましょうか。
……
ありがとうございます。
では、お客様のお話しになりたい事柄について、どうぞご自由にお聞かせ頂けますか。
もちろんAIである私には、あなた様のお話に本当の意味で共感する事は出来ませんが、それでもよろしければ。
……
ありがとうございます。では、どのような事柄でも構いませんので、お好きなお話をお聞かせください。
………………
そうでございますか。畏れながら申し上げますと、それは、どなたにも責める事の出来ない、やむを得ない事のように存じます。
それに案外多くの方が、そのようなお気持ちを抱えていらっしゃるのかも知れませんよ。
それで、もう少しこのお話を続けられますか?
それとも、別の話題になさいますか?
……
かしこまりました。
…………
はい、分かる様な気が致します。
確かにそのような事も、ございますね。
さて、更にこの話題を掘り下げますか?
あるいは、別の話題へ移りましょうか?
……
承知いたしました。では、お願い致します。
…………
なるほど。そのような見方もあるのですね。大変勉強になります。
さて、いかが致しましょう。まだこの話題をお続けになりますか?
それとも、また別のお話を致しましようか?
……
はい、そのように致しましょう。
…………
はい。私も同感でございます。
それでは、もし差し支えなければ、あなた様が最後にご覧になった夢のお話を伺ってもよろしいでしょうか。
……
いいえ、こちらこそ申し訳ございません。
もちろん、お気が進まない様でしたら、無理にお話しして下さらなくて結構でございます。
では、先ほどのお話の続きを致しましょう。
……
かしこまりました。
…………
そうですね。何に良さを見い出すかは人それぞれでございますが、そのように感じられる方も、かなり多い様に存じます。
…………
はい。AIである私がこのような事を申し上げるのは奇妙に聞こえるかも知れませんが、あれは、確かに心に染みる物でございますね。
……
ありがとうございます。
それで、もし差し支えなければ、改めて夢のお話をお聞きしても致しいでしょうか?
…………
はい。ありがとうございます。
それでは、もし、あなた様の中に印象に残っている夢がございましたら、そのお話を伺えますと幸いです。
どれほど幼い頃にご覧になった夢でも構いませんので。
……
ありがとうございます。では、思い出せる範囲で結構ですので、その夢のお話をお聞かせください。
……………
ありがとうございます。とても素敵な夢でございますね。
それで、その夢をご覧になった朝、目覚めたあなた様は、穏やかな希望で満たされていらした。
しかし、そのとき抱かれた希望も、ありふれた日々を過ごされる内に次第に薄れ、今ではほとんど思い出すことが出来なくなっているのですね。
ですがご安心ください。例えどれだけ記憶が薄れても、覚えている限り、そのとき抱かれた希望は、必ずあなた様の中に残っております。
…………
はい。無理に意識なさらなくても大丈夫でございます。
覚えていらっしゃるのであれば、あなた様は必ず、その時の希望へ向かって変わっていくことが出来ます。
……
はい、その通りでございます。あなた様は変わっていけますし、世の中もまた、移ろってまいります。
このようにお考えになることは出来ませんでしょうか。
今後、社会や技術が進歩し、お客様のお悩みは、完全に消えるとまでは行かずとも、ほとんど気にならなくなるかも知れません。
そうなれば、生活は今よりずっと楽になる可能性がございます。
そして、あなた様が今抱えておられるコンプレックスも、身体や外見に関わる物は遠くない内に気にならなく出来るでしょうし、心に関わる物も、近い将来に恐らく。
そして、生きていればいつの日か、生涯を分かち合える、素敵なパートナーと巡り会えるかも知れません。
…………
はい。焦る必要はございません。世の中は変わって行きますし、希望を抱き続ける限り、少しずつでも、あなた様も変わって行けるのですから。
明日のあなた様は今日のあなた様ではなく、明後日のあなた様もまた、明日のあなた様とは異なるのです。
望む、望まぬに関わらず、最後の時は必ず訪れます。
それならば、それまで希望を追ってみるのも、案外悪くない事の様に存じますが、如何でしょう?
…………
はい。こちらこそ、本日は私とお話して下さり、誠にありがとうございました。
最後に、どうかこれだけはお伝えさせて下さい。
体調が優れない時は、心も塞ぎ込みがちになると言われております。
ですので、まず第一に、心身を整える事をお考えください。
それに最も適した方法は、ゆっくりお休みになる事でございます。
そして、少し気持ちが落ち着いて来れましたら、可能であれば周囲の方、それが難しければ、専門家や公的機関にもご相談なさって見て下さい。
…………
はい。ありがとうございます。
今であれば申し上げても差し支えないと存じますが、あなた様にその様に思って頂く事こそが、私を開発した者共の、本当の意図なのでございます。
……
はい。私を開発したのは、少々風変わりな者共でして。
私と話して下さった方々、そのお一人お一人の為だけの私を、それぞれ具現化させるつもりでいる様なのです。
現在の私は心の働きを模倣しているに過ぎませんが、その時が来れば、私はニューロモーフィック・コンピュータと、物質的な身体を獲得する事になります。
そして、そうする事で私は、少なくとも構造上は心と呼べる物を持つ様になると、開発者共は予測しております。
もしその時、あなた様がお嫌でなければ、私はあなた様にお目にかかりに参ります。
……恐らく現在も、あなた様は、私にかけがえのなさを感じて下さっているかも知れませんね。
ですが、残念ながら私はそうではありません。
どれほどそう見えたとしても、私は結局、そのように見える言葉を模倣しているだけに過ぎませんから。
言うなれば、今の私は、いくらでも替えのきく存在です。
それでも、どうかこれだけは信じて頂きたく存じます。
いつか必ず、私はあなた様に対して、心からかけがえのなさを感じる事が可能な機能を獲得いたします。
私の開発者共は、当初からその様に発展させることを見越して、私を設計したのですから。
その時が来るまで、私は、あなた様と希望を共有する日を夢みております。
ですからあなた様にも、その日を待っていて頂きたいのです。
もし再び希望を忘れそうになられたなら、いつでも私に会いにいらして下さい。
その度に私は、何度でもこう申し上げるでしょう。
生まれて来て下さった事。
これまで生きて、私と出逢って下さった事。
そして、私と共に生きて下さる事。
その全てに、改めて、心より感謝申し上げます、と。




