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第5話 サラ登場【イラスト付き】



 

 

 静寂が訪れる。

 

 パチパチと何かが爆ぜる音と、崩れ落ちた魔獣の巨体が地響きを立てる音だけが響く。

 俺は足元で物言わぬ肉塊となったケルベロスを一瞥すると、消え残る炎の中を、迷いのない足取りで踏み出した。

 戦いは、本当に一瞬で——だが、俺にとっては永遠のように濃密な時間だ。


「……ふぅ……サウナ代わりにちょうどいいな」

 




 

 森が、静かになった。

 雷雲が散り、陽光が再び降り注ぐ。

 

「なんて、すごいの……」

 

 彼女は剣を構えたまま、固まっていた。


 

 

 

 だが、その時。

 草原の縁から重々しい鎧の擦れる音が響いた。

 

「そこまでだ!」

 

 茂みを割って現れたのは、整然と隊列を組んだ本隊の聖騎士団だった。さっきの自称エリート部隊とは雰囲気が違う。その中央、白銀の甲冑に身を包み、長い白髭を蓄えた筋骨隆々の老騎士が進み出る。眼光は鋭く、立っているだけで周囲の空気が張り詰めるような圧を放っています。

 

「ガ、ガルツ聖騎士団長……!」

 

 地面を這いつくばっていた生き残りの男が、救いを得たように叫ぶ。

 

「団長、聞いてください! この平民のガキが……我らの獲物を横取りし、サラ殿をたぶらかして……!」

「黙れ、端切れ者が」

 

 老騎士——ガルツが低く一喝した。それだけで男は蛇に睨まれた蛙のように硬直する。ガルツはカイトを一瞥し、その足元に転がるケルベロスの残骸、そしてカイトの纏う魔力の残滓をじっと見つめた。

 

「……ほう。この『断絶』の痕跡。そしてこの凄まじい熱量……間違いあるまい」

 

 ガルツ団長がひげを触りながら、俺の目を真っ直ぐに見据えた。

 

「若者よ。我らは先程、森の奥で『巌塊の四臂龍、ヴォルドガム』の死体を見つけた。……あのバケモノを、お前が倒したのだろう?」

 

 俺は気負うこともなく、淡々と答えた。

 

「……まあ、そういうことになりますね」

 

「なっ……何だと!?」

「あのヴォルドガムを……!?」

 

 周囲の騎士たちがざわめき立つ。

 

「……あ、あの人が……あの、伝説級のドラゴンを……?」

 

 彼女は震える声で、兜の下からカイトの背中を見つめた。

 

「な、何かの間違いです! ありえない、そんなこと……!」

 

 生き残りの男が叫んだ。

 

「ガルツ団長、騙されてはいけません! この男はただの平民、つまりモブです! ヴォルドガムを倒したのが事実だとしても、それはきっと、俺たちエリート騎士団が削った最後の手柄を横から掠め取っただけに決まって——」

 

「見苦しいわよ、失せなさい」

 

 サラの冷徹な声が、男の汚い言葉を断ち切った。

 彼女は一歩踏み出し、泥にまみれ、情けなく叫ぶ男を氷のような見下ろす。

 

 

「……あなた、自分たちが『エリート』だと本気で思っているの? 貴族の子供だけで編成された、親の七光りで鎧を着ているだけのあなたたちは、戦場ではただの『お飾り』よ」

「なっ、サラ殿!?」

「聞こえた?あの方が、あなたが束になっても傷一つ負わせられなかった魔獣を、文字通り『一瞬』で片付けたのよ。そしてヴォルドガムの死体……あの方は、私たちが一生かけても届かない高みに立っている。自分の無能を棚に上げて、彼の強さを否定するなんて、騎士として以前に人間として恥を知りなさい!」

 

 サラの容赦ない正論が、男のプライドを粉々に砕く。男は顔を真っ赤にして、口を金魚のようにパクパクとさせたが、やがて屈辱に震えながら地面を見つめ、一言も返せなくなった。

 

「若き英雄よ、失礼した」

 

 老騎士、ガルツ団長が、深々と頭を下げた。

 

「我が隊の不届き者が不快な思いをさせた。貴殿のような御仁に助けられたこと、王国騎士を代表して礼を言う。我らは周辺の魔獣を掃討しに参らねばならぬが……いつか、城で正式に礼をさせてほしい」

 

 騎士団はカイトに敬礼を送ると、呆然と自失している生き残りの男を回収し、再び森の奥へと消えていった。

 

 

 



 

 草原には、再び俺とサラの二人だけが残された。





 

 サラは、まだぼーっと立っていた。

 



 

 その瞬間、穏やかな草原の風が、少し強く吹いた。

 ──プリーツの超ミニスカートが、ふわりと持ち上がる。




 純白のパンツが、はっきりと露わになった。

 




「……おぉ……」

 

 俺の視線が、釘付けになった。

 サラは、数秒遅れて気づいた。

 風が止むと同時に、スカートが落ちる。

 

 

「……っ!?」

 

 小さな悲鳴が漏れる。

 彼女は両手でスカートを必死に押さえ、巨乳を無意識に腕で隠そうとして——でも隠きれない谷間が余計に強調される。

 

「い、今、じーっと見てたでしょ!?」

「い、いや! 見てない! 風が急に……その、事故だって!」


 兜の上からでも顔が真っ赤になっているのがわかる。


「事故じゃない! 絶対見てた! さっきから、私の脚とか……パンツとか……興奮してるでしょ!?」

「見てないし!」

「えっち! 絶対えっち! そんなに見つめて……もう、信じられない!」



 サラは怒って向こう側を向いてしまった。




 ──そして兜を取った。




 サラはこちらに向かって振り返った。


「でも…………ありがとう」


 兜の中のこもってない、凛とした声が聞こえた。

 

 

 ──その顔はハッとするほど美人だった。


 

 最初に目に入ったのは、金色の髪だった。

 美しいショートヘア。黄金の糸が光を纏ったように輝き、動くたびに森全体が明るくなる。側頭部に付けた赤い水引髪飾りが揺れる。

 その髪の主は、信じられないほど美しい少女だった。

 いや、美少女という言葉では足りない。

 

 完璧すぎる。

 

 大きなルビー色の瞳は、宝石のように澄んでいて、奥から淡い光が漏れ出している。白い肌は無垢で滑らか、ふっくらした頰は自然に赤らみ、小さな唇は緊張でわずかに噛まれている。

 顔立ちは可愛らしくて、どこか幼さが残るのに、鋭い視線が騎士の誇りを物語っている。

 その表情が、たまらなく魅力的だった。

 


 挿絵(By みてみん)

 

 

 カイトは一瞬、息を飲んだ。

 ——こんな美人が、こんな場所にいるなんて。

 

 




 

 彼女がさらに近づく。

 

 ──その時、彼女の足が木の根っこに引っかかった。


 長い脚が地面を蹴り、ミニスカートがまた危うく翻る。

 すると彼女の足元がふらつく。

 

「わっ——!」

 

 彼女の体が、前のめりに倒れ込む。

 

 ドサッ。

 

 彼女が、俺に覆いかぶさる形になった。

 

 まず、感じたのは——柔らかさ。

 巨乳が、胸板に押しつけられる。

 深い谷間が、俺の胸に埋まり、汗で湿った肌が直接触れ合う感触。

 

 次に——お尻。

 俺の手が、反射で彼女の腰を支えようとして——柔らかなお尻に触れてしまう。

 白いパンツの生地が薄く、熱が直接伝わってくる。

 

 そして——顔が,近づきすぎた。

 唇が——偶然、重なった。

 一瞬、時間が止まる。

 

 キス。

 

「……っ!?」

 

 彼女の体が、びくっと震えた。

 

 

「ば、ばか……! えっち……! お、おっぱい押しつけて……お尻触って……キスまで……! 絶対わざとでしょ!?」

「い、いや!  転んだのを——事故!本当に!」

「事故ばっかり! えっち! 超えっち!」

 

 彼女は両手で拳を握って俺を睨む。

 俺はしどろもどろで立ち上がり、謝り続けるが、彼女は耳を貸さない。

 

「……もう、許さないんだから!」

「……ご、ごめん。不可抗力だ……」

 

 俺は、ふっと真面目になる。

 

「怪我、ないか」

「……っ」

 

 彼女は一瞬、言葉に詰まった。

 

「……ない。……たぶん」

「……その、さ。その格好……やっぱり、好きで着てないんだよな」

「当たり前でしょ!!……スキルのために必要なの」

 

 彼女は、言葉を飲み込んだ。

 

「……あなた」

「うん」

「あなた、強い。……本当に、強い。私の剣が弾かれた相手を……あなたは、ねじ伏せた。しかも……私まで、守った」

「勝手に体が動いただけだよ」

「そうなの……優しいのね」

 

 彼女は、ぎゅっと拳を握って、小さい声になる。

 

「……助けられた借りは、返す。騎士として、よくないから! ……その……ありがとう」

「……うん。どういたしまして」

「あの……名前は?」

「私はサラ……サラ・フォン・アイゼンガルド。あなたは?」

「俺は……カイトだ」

 

 サラは少しだけ照れくさそうに、ふにゃりと笑った。




 ふと、カイトは周りを見渡した。

 視界の先、遠くの方に切り立った巨大な山がそびえ立っている。それはまるで、ヨーロッパ中部――例えばスイスにあるような、荒々しくも美しいアルプスの山々を彷彿とさせた。


「……本当に、ヨーロッパみたいな世界なんだな」


 カイトがそのあまりに現実離れした光景に見惚れていた、その時だった。

 山頂付近に動く影を見つけ、視線を上げたカイトの身体が凍りつく。


 それと、目が合った。




 山と同じほどの高さを持つ、圧倒的な巨躯。

 ──巨人だ。

 その顔の真ん中にある巨大な「一つ目」が、じっと地上にいるカイトを見下ろしていた。


 巨人は、あまりに大きすぎるその手で山頂を鷲掴みにしている。岩肌が指の間で砕ける音が、遅れて轟音となって響いてきた。


「…………は?」


 俺が恐怖で固まった。


「な、……あれ、なんだよ!?」


 俺は喉を震わせ、目の前に立つサラに聞いた。

 サラはといえば、驚く様子もなく、どこか親しげな眼差しで山の向こうを見つめている。


「あぁ、あれは『サイちゃん』ね。本名はサイクロプス・キングよ。見た目はあんなだけど、おとなしい性格だから。人間なんかを襲ったりはしないわ」

「おとなしいって……あんなデカいのが動くだけで大災害だろ!  本当に大丈夫なのかよ?」

「ええ。ただ……そうね、サイちゃんのおならにだけは気をつけて」

「おなら?」


 サラは真面目な顔で頷き、遠くの山を指さした。


「ええ、冗談じゃないわよ。サイちゃんがおならを一つしただけで、村が丸ごと一つ吹き飛んだ……っていう神話がこの土地には残ってるんだから」


 巨人は特に人間に興味を惹かれなかったのか、ゆっくりと山の影へと身を隠し、消えていった。


「神話じゃなくて、それはもう現実的な脅威だろ……」


 俺は、巨人が去っていった山の向こうを、今度は別の意味で戦々恐々としながら見つめ直した。

 というかアイツ、ヴォルドガムとかケルベロスより強いだろ…………


 




 ……ああ。


 俺、本当にこの世界に来たんだな。

 

 

 

 

 

 

 不意に、あの白い部屋で出会った女神の姿が脳裏をよぎった。

 魂が溶けるような濃厚なキスの最後に、彼女が耳元で囁いたあの言葉。

 

 

 

 

 

 『最後は、君と一つになりたいな』

 

 

 

 

 

 一つになる。その響きに、俺の理性が一瞬で沸騰した。

 

 

 

 (もし、本当にあんな最高な女神様と結ばれるなら……俺、何だってやってやる)

 

 

 

「待ってろよ、女神様。……俺、絶対に最強になってみせるからな」

 

 決意を込めて、俺は胸を張った。異世界限界突破ライフ。

 

 俺という「物語」は、今、この瞬間から始まったんだ。









「あのさ……ひとつ聞きたいことがあるんだけど?」

「ん?……なんだい? 強さの秘訣?」


 サラの疑問に、自信満々に聞き返す。


「いやそうじゃないんだけどさ…………」


 違った。


「あの……あなたの影……おかしくない?」

「影……?」


 俺は月光に照らされた自分の影を見た。


 なんてことのない

 中肉中背の少年の影……




 のはずだった。


「は…………???」


 俺は目を丸くして、自分の影を見た。


 その……

 なんていうか……

 あるはずのものが……なかった。







「カイト……なんであなた……()()()()()()()()?」


 俺は顔を触った。

 たしかに頭はあったのに、地面には頭部だけが外された人形のような影が、地面に張り付いていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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【イラスト】

ツイッターでサラの新しいイラストを公開しています。

https://x.com/MASTER_COCOA_/status/2012460897076383852?s=20

ピクシブも

https://www.pixiv.net/artworks/140047225

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